第309話 箔

マルケパン工房で買った来たラスクをカバンから出し、皆で摘まみながら引き続き話し合いを進めます。


ニコニコしながらサクサク音を立てて食べているテホア達を見てホッコリしている俺、クルトンです。




「取りあえず暫くは郊外で俺の能力(ハウジング)の下で訓練を続けます。

郊外で行うのは喧騒を逃れる為です、ここでさえ意外と音届きますしね」


そう、コルネンは城壁が無い都市だから割と街中の喧騒、特に工業地区の音が聞こえてくる。

騒々しい訳ではないが遠くで聞こえる鉄道の音みたいな感じで。


「そんなに静かな所じゃないと駄目なんですか、それに危なくないですかね?」

テヒニカさんが心配してくる、当然だね。


王都からコルネンに来るまでも襲われる事こそなかったが魔獣と2回もエンカウントしたしね。

全部仕留めたけど。


もう少し大きくれば構わないんだろうけど今のテホア達はまだまだ元気な子供。

大人の様にこらえ性が有る訳も無く、音に限らず何かの刺激が有ればすぐにそちらへ好奇心が引っ張られてしまう。


遊び気分で訓練できれば長続きするし拒否反応みたいな事も心配する事無いんだろうけどなかなか難しい。


よっぽどの才能が有って考え方も成熟していれば別だが、子供のうちは悲しいかな自分達で楽しくワイワイ練習するより少し厳しくしたほうが能力伸びるし。



改めてここまでの旅程で起こった事を振り返り、俺の結界魔法(実際はハウジング)で問題無かった旨を説明し説得する。


「それに何かあった場合に一人になっても生き延びられる技能を身に着けてほしいと思っているので」狩人の俺が指導しますと付け加える。


ここに来るまでも話しをしていたからだろう、御両親たちは互いに納得した様に見つめ合った後、

「お願いします」

と俺に頭を下げた。



テホアとイニマの訓練は3日後、テヒニカさん達の仕事は改めて厩舎の人達との顔合わせを行い6日後からとして話を付ける。


それまでには住まいのアレコレを済ませておいてもらい、給金を貰えるまでに必要になるであろう生活費を渡しておく。


さて、これから昼食の後にカサンドラ宝飾工房に挨拶に行こう。



「こんにちは、ただいま戻りました」

カサンドラ宝飾工房に挨拶しながら入って行くとお弟子さん達と親方から出迎えられる。


「おかえり、どうやらいい仕事ができたみたいじゃないか」


ええ、時間はかかりましたが見通しは付きましたし、何かしら問題起こらなければ暫く俺居なくても大丈夫な状態までには形になりました。


「いや、大したもんだよ。悲しいかなこの工房にお前が要る事を此方側から自慢できんのだがな、色々と有って」

ご迷惑おかけします、マジで機密に関わる事なんで内緒でお願いしますね。


「大丈夫さ、うちの工房の奴らは俺を含めて誓約魔法を受け入れている。俺たちから情報引き出そうなんて事したら法律に抵触するからな、その時点でお縄になる」


え、誓約魔法まで使ってるんですか?

いや、日常生活に問題なることは無いと思いますけど・・・良く受け入れましたね。


「まあ、チェルナー姫様の腕時計の件も有るしな。結果、否が応にでも機密事項取り扱うから遅かれ早かれこうなるとは思ってたよ」

結構あっけらかんと言っている親方。


お弟子さんも納得してくれたんでしょうか。

「ああ、大丈夫。これはお前が気にするこっちゃないよ。

見方によっては箔が付いたようなもんだしな」


重要な情報、機密情報を任せられた工房って事だからそうかもしれないけど、工房や個人への実利が無いと前世の倫理観に引っ張られている俺は少し心配になって来る。

対価も無しに何かしらの制限を受けるなんて、犯罪者でもないのに。

俺がシズネル本部長に掛けた制約魔法とは立場やそこまでのプロセス、意味合いが違うし。


「ああ、そう言う事か。心配すんな、そのお陰でこの宝飾工房の通りには今度衛兵の駐在所が出来るんだ。

詰所じゃねえぞ、もっと立派なヤツだ。

騎士の巡回も2倍に増やすって言ってたしな、武装している本職の縄張りに入り込む不届き者は間違いなく減るだろうよ」


そこそこ小さくても単価の高い素材を使用する宝飾工房にとって、泥棒への抑止効果となる兵士、騎士がすぐそこに常時いる環境はとても有り難い事だろう。


騎士に関して言えば、ちょっと腕に覚えがある剣士程度では話にならない力量があるし、魔獣を見つけ出す為に索敵に特化した人材もいる。

彼らの索敵に狙われれば盗賊であっても簡単に見つけ出され即捕縛となるだろう。

『索敵に特化した騎士』ですら一般人では到底かなわない戦闘力を持っているし。


それに騎士程ではなくても専門の訓練を受けた兵士も一般人とは隔絶した能力を有している。


駐在所が完成すれば少なくともこの宝飾工房エリア内においては盗賊団がまとめて襲ってきても治安に問題が出る事は無いだろう。


彼らの力ははそれ程の物なのだ。




なら問題無いか。

何もしなければみるみる人口が減少していくこの世界、国では優秀な人材を確保するのは前世の地球以上にとても大変な事なのだ。


よって、これ程の体制を整えるには金銭だけで何とかなる様な物でもない。

多分政府、王家から領主様に命令が下ったんだと思う。


国も彼ら自身、及び彼らが持つ情報と宝飾技術を守る為に本腰を入れたんだな。


人材の囲い込みとも言えるけど。

まあ、それは仕方ない。

なんだかんだ言ってここは封建社会なのだから。




色々今までの事を話した後、俺の作業部屋に入り荷物を確認しながら整理する。

そういや狼の置物プサニー伯爵様に渡してきたから、棚の一角が寂しくなったな。


今度は何を飾ろうか・・・。


「頼むから常識的な物にしておいてくれよ。具体的には宝石以外で頼む」

今、親方からのリクエストがありましたから少し考えよう。

やっぱりモチーフは狼が良いだろうな、イメージ湧きやすいし。



「さて何造ろうかな」と、早速設計図を引く為にカバンから紙とペンを取り出し机に向かった。

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