第281話 魔力の根源

旨そうな野豚を狩る事が出来て下降気味の気分も元通りになった俺、クルトンです。



あの後、上空へも索敵の範囲を広げ警戒しながらの狩り、ただ幸運にも立派な野豚を見つけ秒で仕留めた。


速攻血抜きを行い解体、内臓はポムの食事にして余ったのはカチコチに凍らせてから麻袋に詰れば良いだろう。


獲物は雄でかなり筋肉質な個体。

肉は硬そうだが、それならそれで適した調理方法が有るし肉たたきで繊維を切れば何ら問題ない。


取りあえず今回はフィレをステーキにして頂こう。


「ガウガウガウ」

ああ、お前の分もちゃんとあるよ。


いつもより俺の足元をじゃれつくポムを宥めながらフィレとポム用に焼く内臓と骨付きもも肉を捌いて下拵えする。



いつもの土魔法で簡易の窯を作り、これまた魔法で火を起す。

その上に石を平らにならしてから磨いた鉄板代わりのプレートを置き、暖まってきた頃合で野豚の脂を乗せ馴染ませる。


脂が熱せられて立ち昇る香りだけで旨そうだ。

ポムのよだれが止まらない。


ちゃんと脂が馴染んだことを確認し、肉をそっと乗せるとこれまた”ジューッ”と味覚まで刺激する音が立ち、追いかける様に香りが鼻の奥まで入ってくる。


うん、旨いの確定だね。


豚なのでしっかり焼くのはもちろんの事、俺の分は裏返すたびに塩を振って味を付けていく。


魔法を使ったとは言え石のプレートが暖まる時間もそれなりにかかったから、火を起してから1時間ほどでようやく完成、石からの熱線で中までしっかり火が通った結構大ぶりの肉塊を俺とポム、それぞれの皿に盛り付ける。


じゃあ、頂こうか。


「オヮン!」

ポムがそう一声鳴くとすぐに食事が始まったが、それなりに焼いた肉がどんどん減ってものの10分程で終了してしまった。

まあ量は十分あったので問題はない。


旨かったなぁ。

「オォォーン・・・」


俺の問いかけにそう返してきたが、ポムは早速横になり寝息を立て始める。

俺が脇に居るといつもこうだ、もう野生が微塵も感じられない。


因みにムーシカはずっとその辺をウロチョロしながら自分好みの草を探し食んでいた。



翼竜に睨まれたりはしたがそれ以外は何事も無く帰路に就く。

あのくらいの距離ならピクニックがてら良い気分転換になるな、狩りも出来るし。



夕方、王城へ到着、ムーシカを預けると早々に食堂に向かう。

夕食をとるのと仕留めた野豚を渡す為だ、改修と言う名の新調保冷蔵が有ればこの肉も暫く保存できるだろう。

衛生管理さえしっかりできれば熟成肉なんてのも良いかもしれない。(ジュルリ)


「おやあ!枝肉になってんのは有難いけど一応検査しないとね、食中毒は怖いから」

食堂に着き「コレお土産」と肩に担いだ野豚を見せると配膳のおばちゃんとは違うおばちゃんが飛んできて品定めをしてくる。


多分問題ない、血抜きも完璧だし呪殺の魔法で滅菌もしている、何よりすでに凍らせているし。


「いいねぇ・・・全く問題ない。じゃあ保冷蔵に行こうか」

良い食材が入ったとおばちゃんほくほく顔だ。


保冷蔵に枝肉をぶら下げ食堂に戻って夕食、今回は野豚の件が有るからご馳走してくれるらしい、有難い。


「今日はマトンの香草焼きとラムのシチュー、あんたの分はマトン一つ余計に、シチューの器も一回り大きいのにしてある、しっかり食いな!」

ポムにも骨付きのマトンを焼いた物を五つ。


なんでだろうな、前世で羊、特にマトンは苦手だったのにここでは肉なら何でも旨い、有難い事だ。


今日もポムを眺めながらたっぷり時間をかけて食事を済ませる。

ここを利用する人達は皆が皆時間をずらしてやって来るので混雑時もチラホラ席が空いている。

なので俺なんかが長居しても問題ない、この辺も緩くて良いよな。


食器を返却口に持って行き、追加でワインとマトンの香草焼きを一つ頼むと、もう一度席に戻ってゆっくり周りを見渡す。


晩酌の気分で肴を摘まみながらワインをちびり。

前世なら無作為に選局したTV番組を見ながら晩酌となるんだろうがここにはそんな都合の良い娯楽など無い。


だけどこの世界では俺が今いるこの空間、時間そのものがとても贅沢な事。

開拓村では年に何度も無い尊い時間だ。


皆がこれくらいゆったり過ごせるようになればなぁ・・・



そうとりとめのない事が頭を巡る中、バッグをゴソゴソ漁って手のひらサイズの黒い石と調理用にと拵えた小ぶりのナイフを取り出す。


スカーフくらいの布も一緒に出してテーブルに敷き、石とナイフを置く。

それに魔力を通しクラフトスキルを発動・・・今回は宝飾と鍛冶二つが必要になるみたい。


翼竜が落としてきたであろう石、せっかくだからこれで翼竜でも彫ってみようかな。




石にナイフの刃を立て、表面を薄く削るとまるで氷砂糖を削る様に彫る事が出来る、流石クラフトスキル。


そして何回かナイフを当てていると妙な事に気付く。

削りカスが布の上に無い・・・カリッカリッ・・・削る度に出るカスはその度に細かい粒子となって落ちるが敷いてある布に到達する前に霧散していく。


文字通り霧の様に。


これは・・・何かどえらい事なんじゃないかと焦って俺の周りだけの小範囲にハウジングを展開、紐づけされたこの石の情報を読み解く。


『魔力石』


・・・初めて見た。

前世のMMORPGでならショートカットキーに登録して、戦闘中に魔力を一定量回復させるアイテムだが・・・。


けどこの世界での価値が分からん。

以前のオリハルコンみたいに希少なだけで有効活用できない類の物なら、その使用方法が発見されるまで死蔵される事になるだろうが・・・これも宰相閣下案件だな、明日の面会時についでに聞いてみよう。



『魔力石』を布で優しく包みバッグの中にしまう。

改めてワインを飲みながら拾い上げた『魔力石』と言う名前に対し、紐付けされている情報が無いか探す為に世界の資料館へ潜り込む方法を探していったが、その扉に到達する事も出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る