第339話 「ちゃんと伝えたよ!」
何だか故郷に戻るのが後ろにずれそうな感じになっていて少し焦っている俺、クルトンです。
いや、間違いなくずれる。
両親に手紙出しておいた方が良いかな・・・治癒魔法師の件や使用人としてここに来る貴族様の件、そして陛下に謁見してのセリシャール君とシンシアの婚約の報告とコルネンに戻ってからのお披露目。
・・・うん、これは3~4日ほど時間を貰って故郷に一度帰った方が良いな。
ゆっくりはできないが面と向かって事情を説明してきた方が良いだろう、捨て子だった俺に対してもめいいっぱいの愛情を注いで育ててくれた両親の事だ、さぞ帰りを待ち焦がれているだろうから。
確か後2週間もすれば王都から貴族様が騎士の護衛(監視)と一緒に来ると連絡あったから今の内に行ってくるか。
そうと決まれば・・・。
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「やけに慌ただしかったが忘れ物は無いか?レビン達にもよろしくな」
アイザック伯父さんを始めとしてパン工房の皆とシンシア、ペスとオベラに見送られ故郷の開拓村に出発する。
ムーシカ達2頭立ての箱馬車での移動。
同行者はテホアとイニマ、狼のポムとプルに・・・、
「相変わらず要塞の様な馬車ね。魔獣でもドアを破れないなんて・・・よく国に召し上げられなかったわね」
マーシカに跨ったパメラ嬢がいるでござる。
俺が今回の帰省の準備に費やした2日間で事情をかぎつけたのか「面白そうだから連れていけ」との無茶ぶりをされて今に至る。
テホアとイニマは訓練の意味もあったから最初から予定に入れてたし、帰省する事を決めた時点で親御さんへの説明も済ませている。
後に自分達も移住する村だ、特に心配される事も無かったよ。
だけども・・・、
貴方お貴族のお嬢様ですよね、しかも上級貴族の侯爵令嬢じゃないですか、デデリさん直系の。
デデリさん、デデリさん、ちょっとなんか言ってくださいよ。
「年齢の都合もあってパメラは野営の経験が乏しい、それこそこの前のスレイプニル捕獲作戦の遠征が最初だ。
お前の事だ、今回も安全な遠征(帰省)になるのだろう?なら経験を積ませる絶好の機会ではないか」
駄目だ、紳士なのに肝心な時に脳みそきんに君になっていやがる。
「13歳の侯爵令嬢をお預かりする手筈など整えられませんよ、俺」
「失礼ね!先週14歳になったわよ」
いや、まだ成人前ですやん。
前世なら中二ですよ、中二。
「・・・そう言えばまだお祝いの言葉の一つも貰っていないわね、何か言う事あるんじゃない?」
そして何故か俺の脇のシンシアから肘鉄が入る。
「(ちゃんと伝えたよ!忘れてたの!?クルトンさん、そう言うとこだよ)」
あ、ゴメン。俺、人の名前とか覚えるの苦手でさ、誕生日なんて尚更無理。
再度シンシアから肘鉄が入る。
「(もう!いいからお祝い伝えて!!)」
「お誕生日おめでとうございます、これからも健やかであります様に」
そう言ってカバンに死蔵しているグリーンダイヤを取り出す。
どうぞお納めください。
「何よコレ?」
俺の手から包まれている布事取り上げ、それをゆっくり広げるとパメラ嬢のタダでさえ希薄な表情から感情が更に抜ける。
「・・・グリーンダイヤだったか?」
デデリさんが覗き込んできた。
ええ、作ったはいいものの死蔵していたのでこれを機会に、どうかこれでご勘弁を。
「・・・」
「・・・」
「・・・それじゃあ俺は準備有りますんでこれで!」
場が固まっているうちにシュタッと片手を上げサボ〇ンダーのポーズでお暇する。
これで遠征(帰省)の話も有耶無耶になったはずだ。
と、思っていたら甘かったでござる。
「あんなのでどうにかなる訳ないじゃない」
御者席脇を併走してそう言ってくるパメラ嬢。
あんなのってグリーンダイヤですよ?どうせ見た事ないもんだから価値が分からなかったんでしょ。
「本当に失礼ね!その位知ってるわよ。
良い事?精霊の加護持ちはその強大な力を制御する為に幼少の頃から・・・」
いかに精霊の加護持ちの教育が苛烈で過酷か、求められる知識が膨大なものかを一頻りお小言のように話を頂戴し、そのまま馬車を進める。
今はコルネンから出て暫く経ち、もう後ろを振り返っても街の影は見えない。
ここまで来てしまったら仕方ないかぁ。
本当に面倒事は勘面してくださいよ、故郷の開拓村は男爵以上の騎士さんも度々寄りますけど上級貴族や精霊の加護持ちなんて会った事無い人ばかりなんですから。
無礼打ちなんてしないでくださいよ、本当にお願いしますよ!
「私を何だと思ってるのよ、ネズロナス教国の司祭じゃないのよ」
おい!奴らはすんのかい、無礼打ち。
ほんとヤバいんじゃないか、ネズロナス教国って。
時々テホア達も伝声管で会話に混ざっておしゃべりしたりするが、馬車の中では基本フロスミア(リバーシー)で遊んでいるみたい。
馬車を引くのはスレイプニルで、お土産は有るものの2年間で貯め込んだ家財道具はまだ積んでいないので荷は軽い。
結構な速度で街道を進み半日もかからず大麦村を越え、順調に故郷に向かって行った。
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街道を進み、この馬車の速度ならあと30分もせずに到着するだろうかと言う所で向こうの黒い影に気が付く、数頭程だが水牛の様だ。
あら、こんなところに珍しい。
索敵を目標に伸ばし確認すると5頭、凡そ1km位先になるだろうか。1頭くらい狩って行こうかな。
馬車を停め、パメラ嬢、テホア達に事情を説明する。
御者席に弓と矢は置いているが従来から使用していた木製の弓なので、念の為馬車からヒヒイロカネの弓を取り出す。
目標を目視で確認し、もう一度索敵で確かめてみると・・・おや?4頭になってる。
しかも忙しなく動くわりには移動せず、足踏みでもするようにその場に留まっている、どういうことだ?
魔力消費を抑える為に範囲を狭め、距離重視で索敵したが範囲を横にも広げると・・・居た。
これは蛇だな、子供の水牛を一飲みしたんだろう、つまりかなりデカい。
そして一頭仕留めて満足するでもなく、いったん離れた場所からもう一度獲物(水牛)に近づいて行っている。
索敵から感じるに静かに、滑るように動くその鱗からは殆ど音はせず、水牛たちも敵の居場所が分からず怯えるばかりだ。
・・・獲物は蛇にしよう。
正直水牛より味はかなり劣るが、その分革は相当な金額になったはず。
しかも成長した水牛を躊躇なく狙う程の大きさなら尚更。
そもそもこの大きさともなれば、人へ危害が及ぶ事も考えて討伐しないとマズい事になりそうだし。
「皆はここで待っていて。
パリメーラ姫様、二人の護衛をお願いできますか」
「私に護衛を頼む程の事態ってことね、任せなさい」
頼もしい。
では、お願いします。
そう言って腰のナイフを抜くと、俺は気配ごと空気に溶けていった。
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