第267話 報告書

その日は寄り道もせずに王都に戻り騎士団宿舎までテホア達家族を送って行って、借りた荷馬車を返す。


そして王城に急いで向かっている俺、クルトンです。

脇を走るポムも耳が後ろに寝るくらいのダッシュ。


全力で発揮させている認識阻害の恩恵で誰も俺に気付く事無く、そして皆が違和感を感じる事無く俺の進路を開けていく。


モーゼの十戒の様に。



テホア達の前では平常を装ってはいたが翼竜との邂逅は俺にとっても大事件だった。早くこの事は知らせた方が良い。


誰にって?

誰でもいい、うん、俺が自慢話をしたいだけだから。



王城の門まで近づくとそのままスピードを落とすことなくジャンプ。

城門を飛び越え着地、ここで認識阻害を解除する。



ふー危なかった、スピード落とすの忘れてた。

ポムは飛び越えられなかった様で門の外で”ガウガウ!!”吠えてる。


門の内側から門兵さんに声を掛け脇のちっちゃい入り口からポムを通してもらい一緒に城内へ向かう。


”ガウガウ!ガウガウ!!”

ちょっと拗ねているようだ、やたらと俺にじゃれついてくる。



ならばと暫くポムをワシャワシャしていると場内を巡回していた近衛騎士のレイニーさんが寄って来て声を掛けてきた。


「やあ、インビジブルウルフ卿、今日は狼の相手か」


ああ、こんにちは。

たまには相手をしてあげないと拗ねてしまうので・・・って丁度良かった!

話聞いてくれます?凄い事あったんですよ。



「なんかヤな予感がするんだが・・・、まあいい、悪い話は早い方か良いからな。

おい、俺はインビジブルウルフ卿に話が有るからお前たちで巡回を続けてくれ」

若手だろう、他の近衛騎士さんたちに指示を出した後に改めてレイニーさんが俺の方を向く。



それでですね、昨日の話なんですけど。

翼竜を捕まえまして、幼体なんですけど。


「ん?んんんん?竜?」

ええ、翼竜、鳥みたいなやつ、ただしすごくでっかいんですよ。


言っててなんだが語彙力ヤバくなってるな、俺。



「・・・ちょっとあっち行こうか」


ちょ、ちょと待ってください、ムーシカを置いてきますから。



ソフィー様の所に連れてこられたでござる。

しかもチェルナー姫様もいらっしゃる、という事はアスキアさんも同席。

そんでデデリさんもいる、なんで?


「昨晩、陛下へ書簡をお届けに上がったところだ。

それとフォネルからお前への伝言も預かっていてな」


ほう、俺へ。

何でしょう?


「そうだな、こっちの伝言の方が早く終わるから先に伝えるか。

連絡受けていたコルネンでのお前の拠点が決まった」


有難う御座います!!

早速の対応助かります、これでテホア達の仮住まいが決まった。


「スクエアバイソンのドックのすぐ脇に建設する」


建設?どこかの事務所を借りるんじゃなくて?


「ああ、お前の事だ、色々機密に関わる事も取り扱うだろう?ドック付近なら騎士も常駐しているし何といってもスクエアバイソンに守られている。

話しは聞いたがこれならあの7人もおいそれ逃げ出す事も出来まいて」


あんなデカい獣に取り囲まれてたらねぇ、制約魔法で制限するからそもそも問題ないだろうけど。

でも、まずはテホア一家が済むんだけども・・・仕方ないか。


「俺の話はこれでお終いだ、それより翼竜だって?早く見せろ」

デデリさんの圧が凄い。


「そうね、とりあえず話してもらえるかしら、正直・・・信じられないのよ。

墜落して亡骸が見つかる事は稀にあるのだけど、本当に捕まえたの?」



ええ、ただその後逃がしたのですけどね。

「なんと!誠か!!なぜに?翼竜だろう、あの!」


おおう、デデリさん落ち着いてくださいよぅ。

詳細はですね(ゴソゴソ)、この報告書にまとめましたので、詳細を余すことなく記載していますのでまずはご確認ください。


前世の規格でB5サイズ程の紙、ページで言うと40ページくらいの報告書を渡す。


「・・・準備が良いわね。ちょっと待ってて頂戴、読ませてもらいましょう」

「ソフィー、俺にも見せろ・・・いや、まどろっこしい。

クルトン、俺に同じ内容を話せ」


カオス、お二人とも落ち着いてください。


「デデリだけよ騒いでいるのは」

ピシャリと言葉で打ち据えるソフィー様。


デデリさんも「むう・・・」とか言ってる。



「貴方の事ですからこの報告書の内容は本当なのでしょう。

それで最後に書いてあるのが貴方の私見ね?」


ええ、そうです。

書いてある通り今のところ時期尚早だと思うんですよ。

翼竜を騎乗動物として捕獲するのは。


アイツら今までの騎乗動物以上の知能を持ってますよ。

多分力を持っているだけの人間では御する事は出来ないと感じました。


つまり背に乗せてもらい、俺たちの仕事に協力してもらう為にはそれなりの対価が必要になると思うんです。


「ほう、例えば?」

分かりません。


「・・・そうだったわね、報告書にもそう書いてあるわね」


取りあえず彼らの生態を調査、理解しないと事は進まないでしょう。

捕獲してもただ弱らせるだけの様な気がするんですよ。


人と生活圏を重ねるのはお互い持っている病気も含め悪影響が無いか確認必要でしょうし。

なんせ空と言う我々とは本来交わる事の無い世界で独自の進化をしてきた生物なのですから、何が起こるか未知数なんですよ。



「しかし・・・これが翼竜。俺も直接見たかった」

デデリさんにはスクリーンショットで記録した画像を、親翼竜がホバリングしているさまを少し大きめの羊皮紙に印刷して渡した。


これを見せるとデデリさんは一発で静かになり、ズーっと翼竜の姿図を眺めている。

時々「ふうー」とか言いながら。



一応幼体の翼竜にはマーカーを付けましたから巣がどこにあるかは大体分かっています。

取りあえず調査から進めていきませんか?



「・・・それは報告書に書いていないわね、重要な事よ。

ちゃんと追記して」

ソフィー様はそう言うと報告書を俺に付き返してくる。


「今から巣の場所は重要機密として扱います、私から陛下と宰相閣下に報告しますから地図に印をつけて準備しておいてちょうだい」


畏まりました。


「因みに巣は人が到達できる場所にあるの?」


無理ではありませんが山の頂上付近、崖を上る特殊な技術を身に着けていないと無理でしょう。

俺のマップで見ると断崖絶壁の岩場でしたから。

地上の獣に襲われない様にでしょう、翼が有るなら必然ですね。


「貴方なら?」

問題無いです。



「つくづく理不尽ねぇ、その力は・・・」

これでも苦労して手に入れた力なんですよ?




「苦労しても普通は手に入れられないのですよ、望んだ力をそんな都合良くなど」

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