第8話 弟の狩り
弟が12歳になりました。
いつも元気なクルトンです。
弟がずっと落ち着きなくそわそわしています。
弓を練習したいのでしょう。
しかし待つのだ、ここは村の中、危険が危ない。
一旦村外に移動しよう。
やってきましたいつもの広場。
俺がトレーニングやらスキルの検証やらやっていたら広場になりました。
でも誰も何も言いません。
だってほら、あっちで狩人仲間のおっちゃんも弓の練習してる。
丁度いい練習場ができて良かったとここにいる人は皆そう言っている。
ホントだよ。
弟を練習場所まで連れてきて弓の基本をレクチャー。
構えに狙い方にやっちゃいけない事などなどを教え、実際に矢を射ってもらう。
いけないところを指摘してまた矢を射る。
都度改善箇所を指摘し黙々と射ってもらう。
もうね、反復練習しか上達するコツなんてないんですよ。
特に弓なんかおいそれと取得できない高等技術なんですよ、マジで。
大規模な人間同士の戦争なんてこの世界にはありません。
この世界の常識だと人口減らす所業なんぞ神に弓引く行為だから。
その代わりに魔獣と言われる絶望するくらい強い獣がいる。
これまたお伽話によると、人型人工生命体とほぼ同時期に開発、実戦投入された獣型人工生命体の子孫がこの魔獣。
誕生当初からほぼオリジナルの能力を維持したまま現在まで生き永らえてきた種。
つえー訳だわ。
こいつらは元々生殖能力の劣化も無かったようで冗談にならないくらい湧く時もある。
精霊(オリジナルの人型人工生命体)なら難なく倒せたらしいのだが、そこは現在の新人類、身体能力でいえば人型人工生命体の劣化版な為、一対一での勝負はまず勝てない。
騎士団と呼ばれる武力組織でもって駆除している状態とのこと。
ちなみに魔獣は無茶苦茶美味いらしい。
騎士団のおっちゃんたちは皆そう言ってた。
話を戻して、魔物を駆除するには離れた距離から一方的に攻撃できる弓は超重要。
一射、二射程度では躱されてしまうので弾幕張る様にひたすら数で押すらしい。
結局は近接戦闘になるんだが、そこに至るまでどれだけ数を減らせるかが部隊の損耗率を下げるキモになる。
魔獣よりこっちの方が数的優位に立てないとそもそも勝負にならないから。
狩猟とはちょっと違う話になるけどこれが理由で弓兵は割とどこに行っても尊敬される。
そんなこと言ったらがぜんやる気を出して弓の練習しだす弟。
がんばれ、ほら村の女の子も応援してる。
・・・ちくせう、泣いてなんかいない。
練習の成果もあり父さんから森に入る許可をもらいました。
今、父さんと俺も同行して森に来てます。
早速野豚を見つけました。
この森には猪もいるのですが今回見つけたのは半分家畜の様な野豚。
猪豚じゃないらしい。
でも猪よりも癖が無く、脂も多めでとっても美味しい。
ぜひ初狩りのトロフィーにしてもらおうじゃないか。
弟が弓を構え集中している。
猪も含めこいつらは意外と生命力が高く、中途半端に傷つけると手負いの状態で反撃してくる。
猪と違い野豚は表から見える牙は無いがとにかく死ぬまで全力で突っ込んでくる。
正直危ない部類の獲物だ。
だから1射命中しても動かなくなるまでとにかく打ち込めとくどい位に伝えている。
何かあった時の為、父さんと俺も弓を構えて弟が矢を放つまで待った。
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弟ホクホクである。
野豚の狩りはすこぶる上手くいった。
1射目がアバラの隙間を抜けピンポイントで心臓にヒットしたのだ。
反撃してくるかと思って暫く様子を見だが一撃だったようだ。
弟がドヤ顔でムフームフーと鼻息が荒い。
これ以上ない位の成果に満足げだ。
うん、これはこれで可愛い、えらいぞ。
直ぐに血抜きして背負子に乗せる。
もちろん運ぶのは弟だ。
通常は内臓を取り出して捨てるのだけど、俺が『液体を移動させるだけの魔法』を血に使ったので血抜きは完璧。
村に帰るまでの時間なら内容物にもよるが内臓もまだ食べれる状態だろう、だから重さはそのまま。
50kgはあろうか、とても食い応えがありそう。
このクラスになると色々処理が大変だからお肉を食べれるのは明日の晩御飯になるだろう。
今から食事が楽しみだ。
こうして弟の狩りも大成功に終わり、次の日の晩御飯はとても豪勢なものとなった。
狩りも畑も山羊の世話も、野豚を使った俺特製ハムの作り方も教えた。
俺がやっていたことは大体一通り弟もできるようになった。
父さんもいるし、これで俺からの引継ぎは終わったと言っていいだろう。
これから俺が村を離れ出稼ぎに行くまでの凡そ3年間、暫く弟の様子を見ながら準備を進める。
最後の締めくくりは妹たちの狩りの付き添いになるだろう。
弟もこれからは教える立場として精進してもらわなければならない。
妹たちの結婚資金調達の為、出稼ぎに出るまでの凡そ3年間。
さらに忙しくなりそうだ。
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