第246話 沈む答え

まずはハウジングを展開、眠っている全ての人を俺の支配下に置き、行動を制限します。

ハウジングのこの機能は使いたくなかった、そういった思いを振り払い覚悟を決める俺、クルトンです。



本当ならNPCを来客設定し、行動と言動を設定して『作った自宅への雰囲気づくり』の為の機能、ゲームなら役者さんを配置するような感覚。


しかし今この場の対象は現実世界の人間、禁忌に触れる様な感覚が俺の精神を蝕む。

これがSAN値を削られるって感覚か、知りとう無かった。



しかしそうも言ってられない。

「俺の準備は終わりました。皆さん、進めても大丈夫ですか?」


皆一斉に頷く。


貴族も混じって入るが、この7人は今ベッドなんて上等なものに寝ていない。

床に転がされているだけだ。


この状況で眠っている7人を目覚めさせる。



「・・・う、うう」


1人、また1人と目を開け首を廻らせているとだんだん目の焦点が有っていく。

それに合わせて記憶が意識の表層に駆け上がり、思考と結びつくと目を見開き声を上げようとするものの・・・


「が!この!!・・・・?!」


この中では俺の支配下にあるんだ、何事も俺の許可なしには事を起せない。

そう『設定』したからね。


このハウジング内は文字通り『俺の世界』。

誓約、そして制約魔法が下位互換となる力がこの空間、俺に限って何の代償も無く無制限に行使できる。

そういった極めて理不尽な世界だ。



「ここでは俺が被疑者に『嘘』を言わせることもできます。

なので三つのルールを『設定』しますので俺以外の代表者が尋問を行ってください。

俺は口出ししません」


俺は環境を整えるだけに留める。

余計な事はしない、大きな力は必ず帰ってくるから。

敵意に満ちた物ならそれ相応の質の力、事象が俺に・・・ではなくても近しい者、もしかしたら年月を超えて俺の子孫に帰ってくるかもしれない。

そんな無責任な事は出来ない。



そして三つのルールを説明する。

 質問は必ず1問づつ。

 質問の回答が終わるまで、又は質問を取り消すまでは新たに質問しない。

 被疑者は黙秘が認められる。


「ちょっと待ってください、黙秘が認められるのですか?なぜ?」

驚いた様に俺に問いかける。


「妥当な所でしょう・・・。

我が国は来訪者セリアンの従者の末裔、セリアンの世界では罪人にも人としての権利を認めていたそうよ。

ましてや彼らは未だ罪を犯したわけではありません」

御母堂が目をつむったまま、そうアスキアさんに返す。


これには皆驚いた様だ。

え、陛下も驚いている?


「姉さまがこんなに長い時間自我を保っているなんて・・・近年無かったことよ」

ソフィー様が教えてくれる。


・・・ハウジングの影響でしょうか。

解除した時の揺り戻しがちょっと怖いです、俺捕まりませんよね。


ちらっと俺を見て「大丈夫よ」と一言。



「クルトンさん、クルトンさんの力なら自白も容易なのではないですか」

・・・できますね。


「なら!」


「アスキア、王族自ら禁忌を冒す事はなりません。

例え国の為に部下が自ら汚名を被りそれを成したとても、責任を負うのは王族です。

末席とは言え何れ貴方も王族と関りを持つのです、今のうちに覚悟なさい」


俺が早々に宣言した『嘘をつかせる事も出来る』という事実は、俺が自白させたところでその真偽を証明できない事を意味する。



そして、それ以前に(少なくとも今は)罪人でもない自国の民に、その自我を否定するような自白を強制する事は『セリアンの教義』に背く事らしい。


「我々は国の象徴、常に民に寄り添い国難の際には最前線で進む方向へ旗を掲げる者。

そもそも民へ向ける力など、王族は持ち合わせていないのですよ」



陛下の王笏・・・。

「しっ!」

ソフィー様から強めのツッコミ来た。



「・・・」

アスキアさんが黙り込む。

納得してるかは分からないがまずは話を進めよう。



さっきの続きですがルールはその三つです。

俺は脇に控えていますが、ここから先は関与しません。

では、お願いします。



「では、私から。

確かサニティー男爵、クレジナス男爵、タントルム伯爵だったな、間違いないか?」


「「「はい、間違いございません」」」

宰相閣下からの質問に答える貴族たち。


「他の者たちは?」


「家臣、我々の同志です」


「・・・そうか、では本題だ。

何をしようとした」


「「「・・・」」」


「質問を変えよう、お前たちの行いは『来訪者の加護』持ちの方達を幸せにできるのか?」


「もちろん!」

タントルム伯爵だったか、一拍の間も置かずに答える。


「なぜ?なぜそう言える」


「加護持ちの方はこの国だけでは御座いません、ぼやぼやしていては救える命も・・・」


「質問に答えてくれるか?」

宰相閣下が話をかぶせてタントルム伯爵を止める。


「・・・」


「ふむ、もう一度質問を変えよう。

誰に頼まれた?」


「「「・・・」」」


「まあ、ネズナロス教国あたりか」



「「「!!」」」

分かり易いな、大丈夫かこの人たち。


「ふむ、騙されている・・・とは言わないが良い様に使われているだけだと思うぞ。

もう少し世の中を斜に見る様にせんといかんな、お前たちは」


ん?


「学生の頃は融通が利かない真っすぐな子達でしたからね」

ソフィー様はこの貴族様達の学生時代を知っておいでの様だ。



「クルトン、もういいぞ。

ここまで分かれば十分だ、明日対策を練ろう・・・正直疲れた、力を使い過ぎた」



ん~、何してたんだ?

俺は全く分からんぞ。



「クルトンさん、今日はここまでです。

タントルム伯爵達には部屋を用意しますので、監視付きですが」



・・・マジで全く分からん。

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