第95話 責任のドッジボール
なんか待ってる事が多いな、とぼんやり感想を述べている俺、クルトンです。
今会議室で上司を呼びに行ったアスキアさんを待っているところです。
コンコンとドアがノックされ、アスキアさんともう一人、お婆ちゃんといってもいい位の小柄な女性が入ってきました。
俺は立ち上がり挨拶をします。
「初めまして、クルトンです」
「ええ、存じ上げておりますわよ。魔獣殺しの英雄殿ですものね」
いや、英雄などと、そこまで言われると・・・。
「本当の事でしょう?あの功績のお陰でどれ程の国民が救われたか。もっと誇っても良いのですよ」
そうなのでしょうね、しかし先日まで平民だった自分はまだまだ慣れておりませんで。
「さて、私は広報部部長のソフィー・クロムエル。いずれ分かる事ですから初めに言っておきますが国王陛下の叔母で女公爵になります」
ほう、さようでございますですか。
「早速ですが・・・この眩しい棍棒?の取り扱いでしたか」
ソフィー様が目を細めたので遮光器を渡しかけてもらう。
「ほう、遮光器というのですか。簡単な作りなのになかなかの性能ですね」
はい、先人の丸パクリです。
「大まかな話はアスキアから聞きましたが改めて説明してもらえるかしら」
そう促され順を追って説明する。
国王陛下より腕時計製作の命を受けた事。
必要な材料を選定し、その中に国が管理している希少金属を使う判断をした事
その希少金属、オリハルコンとアダマンタイトの特性を(一部かもしれないが)実験、言い伝えの内容を実証できた事。
余ったのでその特性を利用した武器を製作した事。
体内魔力量にもよるが、一個人が扱う武器としては他に類を見ないかなり凶悪な代物になってしまっている事。
そもそも材料は国から支給されたものなので『返却』の名目でこの棍棒を国で管理してもらえないかというお願い。
「つまりクルトン卿は”自分の手に余るから国に管理をぶん投げる”とおっしゃっているのかしら?」
はい、その通りです、一言も間違っていません。
あと『卿』はつけないでほしいです。
「ふう、どうしたものかしら・・・あなたはどう思う?」
とソフィーさんがアスキアさんに問いかける。
え、俺に聞くんですか?みたいな顔になったアスキアさん。
ちょっと考えた後にこう話します。
「これについては正式な手続きの後にオリハルコン、アダマンタイトの製作品サンプルとして国で管理しても良いのではないでしょうか」
「どうしてそう思うの?」
「はあ、その方が一番面倒が無くて良いのではないかと。必要以上に世に出る事自体避けた方が良いのではないですか?一応『武器』の体を成しているのと何よりも目立ちすぎます」
ですよねー、遮光器つけて会話している3人という絵面も目立ちますがね。
「クルトン卿なら有効に使うのではなくて?」
俺に何をさせる気ですか?
あと『卿』はつけないでほしいです。2回言いましたよ。
「私にはこの仕事(腕時計製作)時に自前の資金で調達した希少金属、ヒヒイロカネを使って新調した弓がございます。一個人が所有する武器としてはこれ以上は過剰ではないかと」
「あら、そうなの、あなたの存在自体が今更なのだけど。でもどうしたものかしら・・・こういった物は使いようなのだけれどもねぇ」
どうにもソフィー様はこれを公開したいように感じる。
どうしてだろう?聞いてみた方が早いな。
「私からはどうにもこの棍棒を世に公表したい様に見受けられるのですが、ソフィー様ご自身の考えをお聞かせ願えませんか」
聞いてほしかったのだろう、すぐに言葉が返ってきた。
「ええ、良いでしょう、私はね公表した方が良いと思うのよ。製造方法は他国に秘匿するにしても道具として広まるのは悪い事ではないと思うわ。この様な強力な武器で一般の騎士でも精霊の加護持ちに匹敵する力が得られれば魔獣討伐の危険性はかなり低くなるでしょう」
「そうすれば単純に人類の被害が減るのよ、素晴らしい事ではなくて?」
もっともな意見ですが・・・勘違いする輩が湧いて来やしませんかね。
保守的な考えであることは自覚していますが、かろうじて魔獣の脅威に対し一致した価値観を持っている人類が互いに争う火種になりませんか?
私は嫌ですよ、パンパンに魔力を充填したオリハルコンに爆裂の魔法付与を施すのは。
そしてそれを人類に向けるのは。
この世界の魔獣をコントロールできたとしても、宗教国家も含めた権威主義国家しか存在しない今の世は国同士を調停する為の超上位国家が必要になりますよ、きっと。
その超上位国家の役割、責任はどこが果たすのですか?
単純にそんなコストを支払う事も、あらゆる人的リソース、政治システムの維持、実務を可能にする技術的問題の解決も・・・そんなのは現状どの国も不可能ですよ。
俺の言葉にアスキアさんが”ポカーン”としてます。
口開いてますよ、アスキアさん
「・・・本当によく理解しているわね。しかし権威主義国家とは面白い表現ね、どういった概念かしら?」
わがまま国家という事ですよ。(暴論)
「ふふっ、そうね、そうだわ。わがまま・・・ふふっ」
ソフィー様はツボに入ったのか口元を抑え「クッククッククク(笑)」と暫く笑っていた。
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