第438話 勇者は冒険者であった




「二層でのアラウド迷宮との違いは、そうですわね……」


「鯛が出るのは知ってますけど」


「【三脚一腕鯛】ですわね」


「うわあ。ひっどい」


 今現在ティア様の応対を努めているのは、迷宮事前調査班として取りまとめを担当している文学少女の白石しらいしさんだ。

 なにげに彼女、異世界オタだけあってかなり序盤からティア様を好意的に受け止めているひとりでもある。


 話題に上がっている二層に登場するタイなのだけど、迷宮の御多分に漏れずビジュアルが酷い。

 タイというよりはヒラメに近く、横に倒した体を三本の足が支え、胴体から生えた一本の触手みたいな腕を振り回すというタイプの魔獣だ。弱点はシッポの付け根にある一個だけの目玉。


「毒も無いし、楽勝だよな、これ」


「四階位とかの頃なら速度でヤラれていたかもしれない。攻撃軌道も低いし、文字通り足を掬われただろうな」


 おちゃらけた様子の古韮ふるにらに寡黙な馬那まながツッコミを入れる。



 現在の話題はペルマ迷宮に出てくる魔獣についてだ。

 一層はネズミ、タマネギ、そしてタヌキ。これは完全にアラウド迷宮と一致している。


 ただしシャケは出ない。すごく無念だけどアウローニヤの特産品として輸出する計画があると聞いているので、そろそろこちらにも出回るんじゃないだろうかと俺たちは予想している。

 俺たちがシャケを発見してからほぼ二か月だし、一層の魔獣だけあって倒すのも簡単だ。


 女王様が意識改革に動いてはいるはずだけど、王国の貴族は浅い層の迷宮素材を軽く見る傾向がある。

 それだけにシャケは王都に住む平民にとって、生活に欠かせない食材になりつつあるらしい。城下町が北海道化していく。


 話は戻ってネズミ、タマネギ、タヌキなのだけど、アラウド迷宮の魔獣とはちょっとだけ違いがあるようだ。色とか足の数とか。

 足の本数をちょっとした違いと表現してしまうのもアレだけど、魔獣のデザインなんてその程度のものだ。


 で、二層に出るのは話題にもなったタイ、そしてウサギ、カエル、ブタ、トマト、レタスと丸太だ。

 アラウドとの違いは、竹がいなくてキャベツとレタスが入れ替わった形だな。これまた微妙に動きやビジュアルが変わっている。だけどカエルが痺れ毒を持っているのは共通しているんだよなあ。


「蛙となればワタシの出番デスね。腕が鳴りマス」


 カエルスレイヤーの異名を持つアーチャーなミアが、いつの間にか持ち出した弓をビュンビュンさせているけれど、十一階位の自覚はあるのだろうか。カエルなんて粉砕してしまいそうなんだけど。

 というか、今のミアが使う強弓なら、二層の魔獣なんて全部一撃だろう。たぶん丸太でさえ。



「ティア様、ティア様」


「なんですの、メイコ」


「二層の丸太がなんか変なんだけど」


「そう言われましても、わたくしの知るペルマの【樹木種】はこういうものなのですわ」


「そうなんだあ」


 すっかりティア様呼びになっているロリっ娘な奉谷ほうたにさんなどは、普通に高校の先輩と後輩のノリになりつつある。

 ティア様が満更でもなさそうなのが、これまた。


 悪役令嬢好きでティア様の気性も知れてきた俺としてはとても嬉しい光景でもあるのだけど、思うところがないわけではない。


「どうかしたの、八津やづくん」


 俺がティア様に抱き着かれたことをほぼ流してくれた綿原さんが、こちらを覗き込むようにして話しかけてきた。鋭いなあ。


「アレ見ててさ。女王様もああしたかったんじゃないかなって」


「……そうね。済んだことだけど、あの頃はアウローニヤを信用できていなかったし。あの国もごちゃごちゃしてたから。それに──」


 今は女王様だけど、当時のリーサリット第三王女殿下とも、最初っからこうだったらなあって思うのだ。

 たしかに女王様は腹黒暗躍系ではあるけれど、俺たちと応対する時は年相応の顔も見せていた。むしろ一年一組だからこそ話せることすらあったとまで言ったのだ。


 だからといってティア様を依怙贔屓しているわけでも、罪滅ぼしのつもりはないけどな。


「これからも、なんだよな」


「そ。わたしはティアを認めてはいるけど、ペルメッダ侯爵家全部を信用するには早すぎるって思ってる」


「だな。気を付けよう」


 このあたりは綿原さんだってちゃんとしている。


 いくら俺たちがこの世界の情勢を知りつつあるとはいえ、相手が善人ばかりとは限らない。

 今のところスメスタさんや『オース組』の人たち、侯王様や、なによりティア様に悪印象は持てないが、チンピラ冒険者なんてのに出会う可能性は十分にあり得るのだ。常に警戒は怠れない。

 悪い意味で慣れてはいけないのだ。



「二層には塩の部屋が二つで鉄がひとつ。ちょっと少ないのかな」


「ペルメッダの人口規模なら塩は問題ありませんわ。問題は鉄ですわね」


 文系オタの野来のきが迷宮資源に言及すれば、ティア様がすかさず返す。

 なるほど侯国のトップを父に持つお方だけあって、迷宮経済にも詳しいわけか。七階位ということで三層の経験も長いだろうし、ティア様は実に良いアドバイザーだ。


「鉄鉱石を輸入するのでは輸送費が高くつくだけですわ。なのでペルメッダからは銅、アウローニヤからは鉄をそれぞれ精錬してから融通するのですわ」


「精錬かあ。確かペルマの丸太って木炭に向いてるんでしたっけ」


「タカノリは勉強をしているのですわね。紙には向かなくても、端材は積極的に木炭としていますわ。一部を輸出に回せるくらいにはできていますわね」


「だったらこれから王都で需要が……、あ」


 褒められて調子に乗った野来が余計なコトを言ってしまった。


 これから大量の木炭を必要とするだろう王都のガラス事情を。って、なんてことはないか。たぶんだけど。



「おほほほほっ!」


 扇を広げて高笑いするティア様は意地が悪いなあ。


 野来の相方たる白石さんが苦笑いになっているじゃないか。

 ついでに事情を知っているだろう外交官のスメスタさんまでもが。


「パス・アラウドの硝子事業の起点を作ったのは、他ならぬ勇者ですわよ?」


「あ、知ってたんですね。よかった……」


 ティア様の答え合わせに野来が心底ホッとしたという顔になる。


 なにせティア様は『迷宮のしおり』の四層編なんて代物を持っていて、しっかり熟読していたのだ。三層で一年一組が見つけた『珪砂の部屋』について知らないはずもない。

 そこに加えて女王様の立場を考えれば、宰相の領地となる南のバルトロアの弱体化を狙うなんてのは、すぐにでも推理できるだろう。


「侯家はもちろん、耳の良い商家は勘付いていますわよ」


 ご機嫌な様子で扇をフリフリするティア様が邪悪に笑う。


 俺なんかは言われて理解したクチだけど、商人の国の頂点は怖いなあ。

 迂闊にものも言えないとまではいかなくても、さりげない会話のどこから情報を抜かれるかわかったものではない。

 だからといって完全に口を閉ざすなんてのも無理な話だし、ある程度は割り切るしかないんだろう。


 それにしても木炭か。ペルメッダまでの旅の道中でキャルシヤさんの実家たるイトル領でお勧めしたのを思い出す。距離的に競合なんてことにはならなさそうだけど、やっぱり精神的にはお世話になった人の応援をしたくなるのが人情ってものだろう。



 ◇◇◇



「アラウド迷宮もそうでしたけど、迷宮からは白々しさすら感じますね」


 半分ほど手直しが終わった『迷宮のしおり・ペルマ編』を手にした上杉さんがため息を吐くように発言する。


 夕食ギリギリまで俺たちとの会合を粘ったティア様は、明日はこちらの朝食後に登場を誓い帰っていった。

 確定しているのはミアとのタイマン。ついでにチャラ男な藤永ふじながも戦うことにされてしまった。ミアについては本人が煽ったのもあり、やる気も満々なようだけど、藤永は深山みやまさんの推薦だ。勝っても負けてもいいけれど、カッコいいところを見てみたい、だそうな。可哀想に。


【身体強化】を持たない【氷術師】の深山さんは戦闘的な意味で俺以上にティア様と相性が悪いが、【雷術師】の藤永はどうなんだろう。

 いちおう【身体強化】と【身体操作】を持っているし、【反応向上】もある。【雷術】と【水術】を合わせた『雷水球』でスタンできれば勝ち目も見えてくるんだけど、問題となるのはティア様のドレスを水で濡らす覚悟を藤永が持てるかどうかかな。


 いちおう一日二戦までという謎な暗黙な了解でもって、俺たちが冒険者となる前のバトルはこれで打ち止めだ。

 すでにお互い呼び方を変えているので、この展開を引っ張るのもどうかと、俺なんかは思うのだけどな。



 今の俺たちは日本人だけで就寝前の打ち合わせ、というか雑談中である。場所は大使館の談話室を借りた。

 スメスタさんの気遣いには感謝しかない。女王様たちへの手紙には俺たちの喜びの声を書いておこう。


「白々しいって言い方、上杉さんらしいというか」


「わたしだって毒くらい吐くのはご存じでしょう。魔獣とは違いますけれど」


 苦笑で答えた藍城あいしろ委員長に、それこそ毒が含まれた上杉ジョークが飛んできた。


「上杉の言いたいコトもわかるよ。都合いいよなあ、迷宮って。まずは超人的な力を得ることができる」


「それが迷宮内だけのものならまだしも、地上で、旅の途中ですら行使できてしまうのですから」


 面白げに指を一本立てた古韮が迷宮のメリットを一つ挙げ、上杉さんが話題を広げてみせる。


 なるほど、今夜はこういう方向の迷宮談義か。

 お題がかなり根源的だな。



「もうひとつこそが美野里みのりの言いたいことよね。資源としての迷宮」


「はい。極端ですが、一層ですら食料は足りるんです。塩が無くても血をすすって」


「うえぇ」


「ひっでえ」


 会話に参加した綿原さんが話を転がせば、上杉さんからの返答は血生臭かった。毒の次はこれかよ。

 あちこちから嫌そうな声が上がるが言った本人は涼しい顔のままだ。


「清浄な水があるだけでもすでに立派な資源です。ペルマの『水汲み』。迷宮は巨大な井戸でもあるのですね」


 上杉さんの言う『水汲み』はペルマ迷宮独特の文化だ。

 アラウド迷宮はアラウド湖に囲まれていたため、王城で水に困るようなことはない。衛生面についても浄化装置はしっかりしていたし、なにより【熱術】使いの存在があるので煮沸もできるし、風呂文化まで発達していた。


 対してペルマ=タは街に川こそあるものの潤沢とは言いかねるし、衛生面はどうなんだろうという話だ。この点についてはパス・アラウドの城下町を見たことが無いのでアウローニヤでも似たようなものかもしれない。


 そこで登場するのが『水汲み』だ。

 主に貧困層の、とくに子供たちへの救済措置のような制度だが、ペルマ迷宮では一層でも階段に近い位置にある水路が一般に開放されている。兵士たちも常駐しているため、安全は確保できていて、同時に『水汲み』も監視されているらしい。


 兵士や冒険者以外の人間が無料で迷宮に入ることのできる例外的な事例だな。もちろん魔獣は駆除されているのでレベリングにはなり得ない。

 バケツを持った子供たちが長い階段を昇り降りして運んだ水は、主に飲料用として地上で『販売』されるのだ。

 アラウド迷宮の『運び屋』の亜種とでもいうか、面白い制度だとは思う。


「さすがに農業用には無理があるでしょうが、それこそ川に頼ればいいですし、村によっては雪解け水を溜めるなんていう施設もあるようです」


「さっすが美野里。調べてるねぇ」


「そういうひきさんに質問です。足りていないのは?」


「ありゃりゃ、小麦。ってか炭水化物っしょ?」


「そのとおりです」


 ペルメッダの文化に調査が及んでいた上杉さんを持ち上げたチャラ子な疋さんがとばっちりを食らうけど、彼女はソツなく返してみせる。


 先生と生徒だな。本物の先生は遠巻きに俺たちの様子を窺うだけだけど。



「で、二層に到達すりゃあ、鉄と塩、木材が手に入る。ついでに肉と野菜の種類も増えるってか」


「加えるなら皮も、でしょうね」


「まさに衣食住だな」


 お坊ちゃんな田村たむらがいつもの口調で参戦し、上杉さんが合いの手をいれた。


「三層に到達すれば、そこからは石と銅の文明で、食も広がります。階位も上がりますから、更なる力や魔術という恩恵も得られるでしょう。迷宮が見つかり、そこに村が生まれ、そしていつしか国にまで。ここはそういう世界……」


 夜の談話室に聖女のうたが静かに響く。


 最初から四層や五層まで探索が行われた迷宮しか知らない俺たちだから、ゼロからの迷宮なんて想像することしかできない。

 まだ誰も入ったことのない迷宮が新たに見つかった時、そこでなにが起きるのか。


「文明シミュだなあ」


「街に駅ができたらどうなるかってゲームみたい」


 古韮とゲーマーな夏樹なつきの対比が面白い。なるほど、おらが街に新幹線の駅ができたら、ってか。


「石より先に鉄が来る文明ってどうなのかしら」


「それを言ったら鉄より銅が後っていうのもね」


 白いサメを浮かばせた綿原さんが呟けば、メガネを光らせた白石さんが言葉を被せる。


 ちなみにだけどティア様の血で綿原さんが誕生させた赤いサメは、ガラスの小瓶に入れられてペルメッダ侯爵家へと持ち帰られた。

 まさかとは思うが、アレも聖遺物にされてしまったりしてな。



「うん。正しく『冒険者』だなあ」


 思わずこぼした俺の言葉にみんなの視線がこっちに向いた。


「誰も入ったことがない迷宮だもの、一層の一歩目から、大冒険ね」


「だな。それこそ階段の一歩目からかも。階段に魔獣が出ないなんてルールは経験則なだけで、どこにも書かれてないんだから」


 口元をモチャらせた綿原さんが楽しそうに合わせてくれたので、俺も軽口を叩く。



「ルールの分からない新しい迷宮、か」


「どうした? 委員長」


 口元に拳を添えた委員長が俺と似たようなセリフを別の雰囲気で呟いた。妙な雰囲気だけどなにかあるのか?


「根拠も意味も無いことを言うよ?」


 それは意味ありげにメガネを光らせた人間のセリフだろうか。


「僕たちはなにかの弾みで迷宮の入り口を見つけたんじゃないか、ってね」


「入り口? そんなこと……、って、まさか」


 入り口という単語を強調する委員長の意図に気付き、俺の背筋に冷たいものが走る。


「アラウド迷宮の零層。『召喚の間』。五百年前の先代勇者が現れた場所。僕たちが同じ入り口を通ったとしたら」


「はっ、それが山士幌高の教室だってか。五百年前は野っぱらだろうなぁ」


 委員長の語りに嫌そうな声で田村が返した。


「だったら、あそこを通るたびに帰れなきゃならないわね」


 皆が緊張したムードになったのを察したのか、あえて呆れた様子で肩を竦めた中宮さんが口を挟んだ。


「一歩通行の入り口か。ゲームなら定番中の定番だな」


「けどさ、それなら出口だってないとゲームにならないよ」


「だなあ」


 古韮と夏樹が言葉を交わす。

 ゲームっていう単語をどう扱うか、呼ばれた当初にしたこともあったな。この場合、夏樹みたいにポジティブに使うならアリか。



「やっぱり、アラウド迷宮?」


「とは限らないんじゃないかな。ほらシシルノさんの最後の授業」


「ああ、経験値は迷宮を跨いで引き継がれる」


「こっちに呼ばれる迷宮と、帰るための迷宮が別って、ゲームならアリなんだよな」


 たぶん西側、アウローニヤの方角に視線を送った綿原さんだけど、俺に言えるのは、そうとは限らないというセリフになってしまう。


「それって意味あるのかしら」


「さあ? だから委員長は予防線を張ったんだろ?」


 訝しげな綿原さんの対応を俺は委員長に振ってやった。この話題を始めた責任は取ってもらわないと。


「ごめん。本当にルールと入り口っていう単語が気になっただけなんだ」


 爽やかに流す委員長だけど、本気でそれだけなのかよ。

 意味が無いって言われても、なにか進展とか思いついたのかと期待したじゃないか。



「ただ、そういう迷宮の謎とかじゃなくて、ふと思ったんだよね」


 それでも委員長は言葉を続ける。まだなにかあったのか。


「僕たちは『新しい迷宮を見つけた冒険者』なのかな、って」


「委員長はこの世界そのものが、わたしたちにとって未知の迷宮だと言いたいんですね」


 俺としては看過したくない委員長のセリフに反応したのは上杉さんだ。


 彼女も俺と同じ気持ちなのかもしれない。だから普段よりもちょっと笑みが濃くなっている。

 委員長の頬を汗が伝うわけだが、自業自得だぞ。


「かっ、勘違いしないで。僕はこの世界が『ゲーム』だなんて思ってない」


「ですよね。わたしたちがこれまで出会ってきた人たちは、血が流れていて、心を持っていました」


 なるほど、上杉さんにとってはそこが気に障ったのか。

 すごく共感できるよ。みんなも頷いているし、委員長は孤立無援だ。先生は知らんぷりだし、中宮さんくらいは味方になってあげればいいのに。



「僕が言いたいのは心の持ち様ってことだよ」


「今思いついたはぐらかしでなく?」


「最初っから。頼むよ、上杉さん」


 上杉さん、詰めるなあ。委員長がタジタジだ。


「ほ、ほら。冒険者に憧れていただろう? 古韮とか野来とか、八津も」


「うわあ。俺に振るのかよ」


「委員長……」


「それは、どうなんだ?」


 名前を出された俺たち三人の抗議はマジだ。今の上杉さんに目を付けられたらどうする。


 ついでに言えば、会話には参加してこないけど佩丘はきおかまで不穏な空気を出しているんだぞ。草間くさまなんて【気配遮断】したのか、どこにいるのかわからない状態だ。


 仕方ない。場を収めるためにも口を挟むとしよう。


「要は委員長、俺たちは本来の意味で『冒険者』になるってことだろ? いや、最初からそうだった、かな」


「そうだよ、八津。さすがだ。わかってる」


 委員長からかつてない程の称賛を受ける俺だけど、まあ言いたいことはわかるんだ。



「ルールもわからない迷宮だけど、みんなで知恵を振り絞ってそれを調べて、新しい仲間を集めて、世界を広げていく。ゴールは帰還の扉で、それを見つける冒険者。俺たちそのものだ」


「冒険者って単語ひとつで、よくもまあここまでこねくり回したもんだな。え?」


 せっかく俺がいい感じにまとめてやったのに、ここでヤンキー佩丘が噛みついてきた。

 とはいえ、それほど怒っているって雰囲気でもないし、視線の向かう先は委員長だ。あとは知らん。


「いやその、上杉さんの文明の話を聞いていたら、ふと連想してね」


「あらあら、わたしが原因でしたか」


「あっ、そうじゃなくって──」


 今夜の委員長はらしくもなく迂闊だな。


 会話が進むにつれて上杉さんはどことなく委員長で遊んでいる節もあるし、たしかに意味の無い発言だったとしても、まあいいか。

 一年一組がこうやってグダるのは恒例行事だ。日本人だけだからこそ、委員長も気を抜くことができるんだろう。普段は大人相手に大変そうだからな。


 勇者は冒険者だった、か。言葉遊びではあるけれど、それはそれで面白い表現なのかもしれない。


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