第432話 強さの秘密




「やっぱり本物は参考になるねえ。ワタハラの髪ってサラサラだし」


「そ、そうですか?」


「あたしは染め粉を使ってるんだけど、どうしても髪が痛むしさ。本物には敵わないなあって」


「それなら、止めれば」


 現在、綿原わたはらさんにまとわりついて、有体に言って一方的に髪談義で絡んでいるのは『黒剣隊』の騎士、シェリエンさんだ。


 黒く染めた髪を肩まで伸ばすシェリエンさんは騎士職。大剣がトレードマークな金髪のフィスカーさんは見た目通りの剣士系。ほかの四人はそれぞれ剣士、斥候、弓士、そして【聖術】使い。

 攻撃系術師がいないのが残念だけど、いかにもバランスが取れた冒険者パーティな面々だ。その名も『黒剣隊』。

 アウローニヤ的には黒を冠するなんて絶対に許されないことではあるが、ペルメッダではむしろ黒が平民にこそ普段使いされている。しかもカッコいいという程度の理屈で。


『オース組』でも上位クラスにあたる隊で、彼らが俺たちの引率、査定を担当してくれるらしい。

 階位は十階位の【聖術】使いさんを除けば全員が十三。つまり四層で極まった隊ということになる。年齢は二十代の半ばから三十前半なので、冒険者としてはベテランに踏み込んだあたりなんだとか。



「まずだけど、君たちの階位については問題ない。本当なんだよな?」


「はい。階位と基本的な役目について、一切の嘘はありません」


 むこうの隊長、大剣使いのフィスカーさんが念を押してきて、俺は頑張って自信ありげな顔を作りながら返事をした。こういう時に虚勢を張れる藍城あいしろ委員長や物怖じしない古韮ふるにらが羨ましい。


 ペルメッダに来てから二日しか経っていないのに、何度目になるのか数えるのも面倒になった自己紹介を終えた一年一組と六人増えて九人になった『オース組』は、早速とばかりに今後の予定を話し合おうとしたのだけど……。


『親睦も大切よね』


 などと言い出した黒髪のシェリエンさんに流されて、なぜか雑談モードから会談が始まることになってしまったのだ。

 これはこれでアリだとは思うけど、シェリエンさんはどうやら、俺たちのほとんどが本物の黒髪だということでテンションが上がってしまったらしい。綿原さんがターゲットになったのは、髪型が似ているからだろうか。


 ところで俺が『基本的な役目』と表現したのは、ナルハイト組長の時と一緒で一年一組が正式な神授職を申告しなかったからだ。


 たとえば上杉うえすぎさんが【聖導師】を名乗った場合、それを知ること自体が相手に迷惑となる可能性がある。ましてや聖女の証たる【聖導術】が使えるなんていうのはもってのほかだ。

 委員長が騎士で【聖術】使いだなんていう自己紹介をしていたが、アレも本当はヤバいネタになるのだけど、さすがにそういう部分で嘘は吐けないからなあ。【聖騎士】だってバレバレだけど。



「あとで弓を見せてくだサイ」


「あ、ああ」


 あちらでは『黒剣隊』の弓士さんに詰めよるミアがいたり──。



「【解毒】【覚醒】【造血】【治癒識別】。バッチリね」


「ああ、はい」


「口調は気にしなくていいです。冒険者らしく」


「助かる。ます」


 女性の【聖術】使いさんに褒められている田村たむらの口調が怪しくなっていたり──。



「二階に……、八人です」


「……ふむ。【身体強化】と【視覚強化】もある、か」


「はい。こんどは【遠視】か【聴覚強化】かなって考えてます」


 メガネ忍者な草間くさまが斥候職さんに性能検査を受けていたりする。


 迷宮と関係の無い話題に困っている綿原さんを除けば、概ね和気あいあいといった感じで、なるほど『黒剣隊』が良い人たちだというのが伝わってくる光景だ。

 スメスタさんの紹介もあったのだろうけど、ナルハイト組長が俺たちに気を使ってくれているのがよくわかる。


 シェリエンさんが親睦を初手にぶっこんできたのも、こうしてみれば悪くない手順だったようにすら思えてしまうな。


 ちなみにこの場は面談ということで、全員が武器を持ち込んでいないけれど、実は一年一組が会話をしたい一番人気が俺と話している『大剣』使いのフィスカーさんだ。

 俺を含む古韮や野来のきみたいなオタ組、ゲーマーな夏樹なつき、武力方面では滝沢たきざわ先生や木刀女子な中宮なかみやさんあたりは、虎視眈々と機会を窺っている。あとでお願いしてみよう。



「しかし君たち、元居た世界とやらでどれだけ迷宮に潜ったんだ? その若さで」


「はい?」


「いやいや、十五歳で十一階位とか、そうそういないだろう。ましてや後衛職で」


「……あの、えっと。すごく言い難い気がするんですけど」


「なんだ? 君たちの世界では、階位が上がりやすいとか、そういうのか?」


 俺たちの階位に満足そうなフィスカーさんが、感心したように問いかけてきた。

 隠していても仕方がないので、俺たちが異世界からやってきた勇者であることもバラしているからこその質問だろう。


 これは困った。どういう答えを返したものだろう。

 いくら現状のアラウド迷宮が魔獣に溢れているからといって、十階位になるなんていうのは年単位の話になる。加えて十三階位ともなれば数年がかり。

 俺たちが全員十階位だったらまだ説明しやすかったかもだけど、十一階位が十二人もいる以上、一年一組が四層に挑戦して、後衛職までもが魔獣を倒したことは明らかだ。


 野来や古韮が調べられた範囲でペルマ迷宮における冒険者の階位事情は、アウローニヤとさほど変わらなかった。同じ迷宮システムなんだから当たり前といえばそこまでではあるのだが。

 つまり二層の七階位、三層の十階位。このあたりが壁になる。


 素材を持ち帰るのがお仕事な冒険者だからこそ、七階位の時点でそれ以上の挑戦をせず、ひたすら二層で稼ぎ続けるというスタイルはアリなのだ。十階位で三層をシマにするというのもまたしかり。

 というか三層で継続的に頑張れば、普通に食べていけるというのは知識として知っている。

 だからこそ俺たちは自信をもって冒険者という手段を選んだんだ。


 ただし十一階位、すなわち四層チャレンジのあたりからは難易度が極端に上がっていく。これもまたアラウド迷宮と一緒だな。

 後衛職の数名が十一階位というのは、とてもすごいことであると同時に、どれだけ時間をかけて頑張ったんだよ、という話にもなるのだ。



「一階位だったんです。俺たちがこの世界に来た時」


 こんな初手で嘘を吐く気にもなれないし、俺たちは派手なチートを使ったインチキで階位を上げたわけでもない。クラスの全員で考えて、必死になってやったレベリング自体には誇りもある。

 だから俺は本当のコトを言った。


「すまん。意味がわからない。君たちの噂を聞くようになったのなんて……」


「嘘は言いませんよ。一階位です。そもそも日本に……、元の世界に迷宮なんてありませんでしたから。神授職を認識したのだって、アウローニヤに来てからです」


 本気で意味がわからないといった風なフィスカーさんに念を押す。


 このあたりは意思疎通の不具合だろう。この世界の人たちには魔力と迷宮の存在しない世界なんて想定できないのだ。

 日本には、もっと拡大すれば地球には迷宮なんて無かった。世界遺産的な遺跡レベルではあったかもしれないが魔獣など存在するはずもない。もちろん魔力なんていうものもないし、階位も神授職も無いったら無いのだ。


「えっと、ひと月……、ふた月くらいだったか?」


「今日で八十日ピッタリです」


「どうして十一階位になれるんだ?」


「頑張った、としか」


 フィスカーさんは首を傾げるばかりだ。

 こっちとしても、たしかに非常識なコトをした実感はあるので、これはちゃんと説明しておかないとダメかもしれないな。


「……えっと、詳しく説明します?」


「聞いておいた方が良さそうだな。おいみんな、ちょっと大事な話になりそうだ!」


 説明を申し出た俺を見て、これはマジかと顔色を変えたフィスカーさんが食堂中に響く声を上げた。



 ◇◇◇



「迷宮に、泊った……」


「二泊三日って、お前ら」


 説明役をやらされるハメになった俺の語りを聞いて、ペルメッダ側の人たちは絶句している。報告書を読んでいたはずのスメスタさんもどこか顔色が悪い。


 人数が増えたせいでテーブル二つを使って適当に座った面々に対し、俺はステージではないにしろそういう場所に立ったままだ。


 変なモノを見るような顔をしている『オース組』の人たちに比較して、一年一組の表情はいろいろだ。

 委員長や中宮さん、先生なんかを筆頭とした苦笑組。元気っ子な奉谷ほうたにさんや遠慮を知らないミアなんかはドヤ顔をしている。

 綿原さんはメガネを光らせつつも口元がモチャり、一匹のサメがピチピチと跳ねているな。アレはドヤ側だ。


「ねえ、それってワタハラの言ってた【鮫術】?」


「はい。八津やづくんが言ってたみたいに、これで目潰しをするんです」


 それに気付いた黒髪のシェリエンさんが指差したのを受けて、綿原さんは快活に答え、サメを躍動させた。途端、食堂にペルメッダ組の驚く声が上がる。


 そういえば『オース組』の拠点では初披露だったか。

 旅の道中でもペルメッダ侯爵家親子にも大評判だったもんなあ、サメ。綿原さんのドヤ度が急上昇だ。



「綿原さんのサメはあとでじっくり堪能してください。続けますね」


 俺の話はまだ途中だ。

 二層に転落した一件には大層驚いてくれたが、俺たちの冒険はまだまだ終わってはいないぞ。



 ◇◇◇



「というわけで、俺たちの階位が高いのは短期間で迷宮に何度も入ったのと、高階位の護衛付きで次の階層に挑戦したこと、なにより大きいのは魔獣の群れの存在、ですね」


 さすがに勇者拉致やクーデターで起きた対人戦については説明しなかったが、魔獣との戦いについては説明し終えることができた。

 小一時間くらい話すハメになってしまったなあ。


 結局俺たちの短期間レベリングのネタなんて大したモノではない。

 ふた月弱のあいだにのべ二十二日、つまり三分の一以上を迷宮で過ごしただけのことだ。


「【睡眠】【平静】【痛覚軽減】【体力向上】を全員が、か。しかも後衛に自衛の訓練をさせるとは」


「【睡眠】と【平静】は王城の人たちと魔獣が怖かったからで、【体力向上】は俺たちのほとんどが運動素人だったからです。【痛覚軽減】は怪我をしたら動きが鈍るし、なにより痛いのはイヤだから」


「内魔力の無駄遣いだろうが」


 腕を組んで唸る組長に俺が説明を付け加えるも、返ってきたのはムダ呼ばわりだ。必須要素なのにな。


「もう少ししたら【視覚強化】と【身体操作】も揃えられるかもデス!」


「なんで後衛職まで【身体操作】を取ってるんだよ。そもそも候補に出てるのがおかしいだろう。……やっぱり勇者ってことなのか」


 ドヤ顔のミアが余計なコトを付け加えるが、ナルハイト組長はどこか諦めた様子でため息を吐いた。



「組長、俺としては魔獣の群れってのが気になった。ペルマも似たようなコトになるんじゃ」


「通達は出ている。四層の魔獣が増えているのも確認されているが……」


 デリィガ副長としては魔獣の群れというのが引っかかったようだ。組長がなんともいえないと首を横に振る。


 ペルメッダの侯王様はアウローニヤの事情をある程度以上調べている。王都軍と近衛で大規模な対策をやった魔獣の群れについて知らないはずもない。

 当然、ペルマの冒険者組合にも情報は流しているはずだ。隠しておいていいことなんてどこにもないからな。


 ただ、この場にいる『オース組』の人たちから伝わってくるのは、信じきれないという感情だ。現場で戦う人たちがこんなだということは、現状ではそれ程顕著な何かが起きているということではないのだろう。


「ええっと、これから急に増えるかも……」


「勇者のせいだとは吹かないさ」


 俺はさっき委員長が言ったことを繰り返し、念を押す。勇者が来たから魔獣が増えたなんていう噂が流れたりするのは、冗談でも勘弁だ。

 肩を竦めたデリィガ副長が苦笑いで答えてくれたけど、アラウド迷宮みたいな群れになったらそんな顔をしていられるだろうか。


 自分からフラグを立てにいったような感じで、すごく不安だ。



「まあいい。お前らが無茶苦茶をして階位を上げたのはわかった。もう座ってくれていいぞ、ヤヅ」


「はい」


 一年一組を滅茶苦茶と判定した組長は、俺に座れと促し、それから全員を見渡した。


「今聞いた話が本当ならば、こいつらは強い。間違いなく冒険者としてやっていけるだろう。それどころか、歴史に名を残しかねんな」


 随分と持ち上げてくれるナルハイト組長の口調からは、お世辞の雰囲気を感じない。


 クラスメイトの結構な人数が鼻の穴を膨らませたり、口元が吊り上がっているなあ。俺も嬉しいっちゃ嬉しいけど。


「性根はガキくさいが、若手なんてのはそんなもんだ。お前らの場合、自制が利いてるくらいだな」


「周りの助けがあったからこそです」


「そういうところだよ」


 組長の貶しとお褒めが混じったセリフに委員長が被せるけれど、そういうところというのは俺も同感だ。委員長はナチュラルにソツがなさすぎる。



「お前らなら無茶はしても馬鹿はやらないだろう? 誰かがやろうとすれば……」


「わたしではありませんよ?」


 フンと鼻を鳴らした組長はチラリと先生に視線を送った。


 そんな振りを受けた先生だけど、返事は素っ気ない。

 事実、先生が調子に乗って馬鹿をやろうとした一年一組を諫めたなんてケースなどほぼ記憶にない。事前の戒めならなんどもあったし、ご当人が鬼と化したり、自ら痛みを背負い込むなんていうのはしょっちゅうだけど。


 むしろそういうのは委員長や中宮さん、上杉さんあたりの役割りだ。


「そうだったな。アンタは二十二人のひとりで、たまたま年上なだけだった」


 さっきの先生の啖呵を思い出したのか、ナルハイト組長は少しだけ目を細めた。


「羨ましい限りだ。ウチの連中ももうちょっと──」


「組長、そういうのはあとでいいからよ」


「わかってる。あとは実地だ」


 面倒くさいモードに入り始めた組長をデリィガ副長が止めて、話が動き始めた。



「当然だが『黒剣隊』に出てもらう。いいな? フィスカー」


「もちろんですよ。楽しいことになりそうだ」


 名指しされた『黒剣隊』のフィスカー隊長は、本当に嬉しそうな顔をしている。


 俺たちとの迷宮は娯楽じゃないんだけどなあ。


「三層でも問題なさそうだが、まずは二層だ。蹴散らしてみせろ。俺も同行する」


 一年一組に二層で暴れろと言う組長は、ここでハッキリと獰猛な笑みになっていた。


 二層を無事にこなせるならば、なんとか食べていける冒険者ということになる。本当に最低限だけどな。

 俺たちはとっとと四層でレベリングをしたい身の上ではあるが、物事には段階というものがある。さすがに一層はスキップしても問題ないが、二層と三層の魔獣とは一通り対峙しておきたいし、組合に『組』として認めてもらうための条件もあるからな。


 組長の出してきた二層という提案は、俺たちの将来を見据えているともいえるものだ。

 さすがは若手育成のノウハウを持つ古参クランの組長だけあって、そのあたりはわかってくれている。


「お前らが欲しいのは『オース組』からの推薦だけかもしれない。理屈はわかったから好きにしろ。だが、関わった以上はお互いに、な」


「わかりました。感謝します」


 仮に俺たちが冒険者として独り立ちしたとしても、だからといって没交渉にせず対等に付き合いを続ける。組長の言いたいのはそんな感じだろうか。

 委員長が素直にお礼をしたところからして、そう間違ってはいないだろう。



「で、いつにする?」


「こちらの日程に合わせてくれるんですか?」


 具体的な日取りを話題にした組長に、委員長がちょっと驚いた顔になる。


 いくら依頼者とはいえ、これから俺たちは『暇』になる。

 段階を飛び越してしまった形だけど拠点選びは終わったし、その先に起こりそうなコトなんて、なんとなくだけどリンパッティア様の来襲くらいしかイベントが思いつかないくらいだ。


 むしろ組長や『黒剣隊』のスケジュールの方が大事なんだけど。


「二千二百万なんていう上客で、しかもアウローニヤとペルメッダの両方に恩が売れそうな話じゃないか。俺もまあ、いろいろといい話を聞かせてもらったしな」


 おっかない笑みを浮かべたままの組長は、状況と情報を合わせて、随分と俺たちを買ってくれているようだ。


「綿原さん、どう思うかな」


「……三日後で、どうですか?」


 委員長が綿原さんに話を振ったのは、迷宮委員の出番という意味だ。俺じゃないのは迷宮外だから。

 少し考えた綿原さんは中二日を指定して、クラスメイトたちを見渡す。


 それに対して頷き返すのは俺、委員長、上杉さん、野来、佩丘はきおか田村たむら白石しらいしさんといった面々。頭脳派、もしくは事前準備を担当する連中だ。


「意外だな。お前らの迷宮話を聞いてたら、明日って言ってくるかと思ったぞ?」


「初めての迷宮です。予習……、事前調査と準備は絶対ですから」


 あまり意外そうでもなく煽ってくるナルハイト組長だけど、綿原さんは余裕で返す。


「くはははっ! やっぱりお前ら、冒険者向きだ」


 綿原さんの解答は百点満点だったらしい。組長は『オース組』の人たちが引くくらい、上機嫌に大笑いをしてみせた。



 一年一組は学生らしく予習復習を忘れない。

 さっきの暇というのは、それは対外的な用事が無いという意味だ。


 イザ迷宮となれば、準備は絶対。『黒剣隊』がエスコートしてくれるからといって、頼りきりにするはずがない。まかり間違って『黒剣隊』とはぐれるケースだってあり得るのだ。

 宿泊予定こそ無いものの、装備や物資の確認はもちろん、ペルマ迷宮四層までの情報を総ざらいしておく必要がある。


 二層転落を経験した俺たちは、目的階層の情報だけでは足りないと骨身に染みる思いをした。あの時、二層の情報を知らなかったら、ほぼ俺たち四人は……。


「スメスタさんにお願いがあります」


「迷宮についての資料なら、大使館でも用意してありますよ。組合に置かれているような出入り情報は無理ですが、魔獣や迷宮の構造、組合に所属する組や隊の一覧程度ならば問題なく」


「ありがとうございます」


 綿原さんのお願いに、察しのいいスメスタさんはすかさず望む解答をしてくれる。

 リンパッティア様にはタジタジだったけど、デキるスメスタさんが帰ってきてくれて嬉しい。


「わたしたちの装備と持ち込むモノの一覧は、明日にでも届けます」


「おう。その場で確認してやる」


 小気味良く綿原さんは話を進めていく。返事をした組長もどこか楽しげだ。



 ◇◇◇



「じゃあ今日のとこはこんなもんか。面白い話をありがとよ」


 軽い取り決めも終わったと見たか、組長が会合の終了を告げてきた。


「はいっ!」


 そこに元気よく夏樹が手を挙げる。そうだ、俺たちの用件はもうひとつ残っているぞ。


「フィスカーさんが大剣を使うところが見たいです!」


「はいっ!」


「わたしも是非っ!」


「俺も見たい。絶対見たい」


「カッコいいんだろうなあ」


 そんな夏樹の提案にクラスメイトたちが続々と手を挙げていく。もちろん俺も手を挙げる側だ。



「随分と人気じゃないか、フィスカー」


「取ってきますよ」


 意地の悪い笑みを浮かべたナルハイト組長が視線を送れば、肩を竦めたフィスカーさんが立ち上がった。


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