第369話 サメの攻撃手段




「あたしはパスだねぇ~。【魔力凝縮】取っちゃったしさっ」


 十一階位になったひきさんは事もなげに言い切った。


 今回の迷宮前に【魔力凝縮】を取っている彼女は、すでに予定から技能を一個分前借りしているような状況だからなのだけど、その行動自体がクラスの魔力不足を解消するための実験台になった側面がある。

 結果としては疋さんの攻撃力アップには繋がっているし、そうなることもある程度は予想できていた。だけどやはり、冒険要素はあったのだ。

 そういう前提があってなお、こうしてチャラっ気を続ける彼女を、俺は大したものだと尊敬してしまう。


「もちろん俺もパス。まだ魔力が危ないくらいだし、ずっと【魔力譲渡】を受けてないと【魔力観察】ができないっていうのは、ちょっとな」


 さておき、疋さんと同じく、残念ながら俺も十一階位での技能取得は無しだ。【魔力観察】を取った段階で覚悟はしていたから諦めはついている。

 嘘だ。本当は切実に【身体操作】を取りたいのだけど、指揮官として、そして【観察者】としての本分を投げ捨ててまでやっていいことではないのだから。ぐぬぬ。



「……わたしは、良かったって思っているんだけど」


綿原わたはらさん」


「新しい技能は取れなくても魔力は結構安定したんでしょ? 頼らせてもらっていいのよね?」


 俺以上に十一階位を素直に喜んでいるように見えるのは、綿原さんだ。当人ではなく俺のコトなのに。

 そこに縋るような色の籠る目を見てしまえば、俺に抗う術などはない。まったくもってズルい人だよ。サメも生き生きと泳いでいるし。


「任せてくれていいよ。これからもビシバシ指示を出すから応えてくれるよね。バディ」


「任せてくれていいわよ、相棒」


 俺の突き出した拳に綿原さんも合せるようにぶつけてくる。

 これがもっと進んだ関係ならば手をつなぐ、なんてこともあるかもしれないが、むしろ今はこういうやり取りがたまらなく心地いいのだ。



「綿原、八津やづー。時間もアレだし区切りもいいし、昼飯にしないか?」


 少しはなれた場所から遠慮のない古韮ふるにらの言葉が飛んでくるが、俺にも否はない。


「綿原さん、どうかな?」


「そうね。いいと思うわ」


 戦闘以外における迷宮のスケジュール管理は綿原さんの領分だ。確認は大事にしないとな。

 たとえ綿原さんの空気が最初から了承だったのをわかっていたとしてもだ。俺にだってちょっとは見えるようになっているんだよ。綿原さんのムードくらいはな。


「素材を集めてから一部屋移動して、そこで昼にしようか。みんなもそれでいいかな?」


「おうよ!」


 元気のいい返事が方々から返ってくるが、俺と綿原さんの様子をチラ見していた連中も多かったのを、見逃していないからな。

 どこかで仕返しの機会を作らなくては。とくにニヤついていた野郎どもにはだ。



 ◇◇◇



「どっらぁぁぁ!」


「相変わらずいい叫びだねえ」


 迷宮の一角に綿原さんの雄たけびが響く。

 それを評するアネゴな笹見ささみさんの言葉は、普通にポジティブだ。


 俺と三人でヴァフターたちから逃げ出した体験もあってか、笹見さんが綿原さんに向ける感情は頼もしい共闘者といったところだろうか。

 それには俺も全面的に同意するところなのだが、高一女子同士としてはどうなんだろう。いや、部活の仲間的なニュアンスならアリなのか。笹見さんはバレーバスケ部なわけだし、本来文系でそういうノリがわからない俺としても、このクラスでの日々は運動部そのものだしな。



 さて、アヴェステラさんの十階位を成し遂げるために獲物を求めて迷宮を彷徨う俺たちだが、毎度都合よく美味しいシチュエーションに出会えるわけでもない。


 まだまだ十三番階段からそう離れていないとはいえ、複数の部屋で魔獣を見つけてしまうあたり、やはり四層でも群れが作られていると考えるのが妥当だろう。これにはシシルノ教授も完全同意してくれている。


 そのせいもあって、俺たちは戦いを選ぶ必要があった。


 さっきの戦いのようにハトと戦っている途中に牛が乱入してきて、さらにはダイコンが追加されるという連戦は、予想外の事態を招きかねない。

 とくに後衛系を上げるための芋煮会戦法は、時間が掛ってしまうというあからさまな欠点を持つ。


 ジャガイモやダイコンを茹でているあいだに丸太や牛、馬に襲われて、鍋を放置したまま逃走なんていうのは避けたい事態だ。

 あとで取りに戻って来てみれば『迷宮に吸われて』消えていました、なんてことになったらそこで芋煮会戦法が頓挫してしまう。


 だから俺たちは戦う相手と位置関係、時間との折り合いを付けながら迷宮を進むことになった。



「どっだらぁぁ!」


 で、いま綿原さんが対峙しているのは馬だ。


 とはいえ、タイマンを張っているわけではなく、すでに七本の足とデカい角も叩き折られて、ヤンキーな佩丘はきおかと寡黙な馬那まなに抑えつけられているソレは、無力化を終えている。

 ただし女王様がやった暗黒儀式の時ほど、瀕死の状態というわけでもない。


 綿原さんはクラスチートの乗った【身体補強】を御使い奉谷ほうたにさんから受け取っていて、鍛え上げた【身体強化】【身体操作】【反応向上】を使っている。

 もうこの段階で女王様よりかなり強いのだ。いちおう女王様から王家の宝剣を預かってはいるが、たぶんワンランク下である俺たちの普段使いの短剣でも勝負できてしまうのではないだろうか。



 さて、現在の十階位で馬や牛を倒すべき仲間の順位付けについてだが、優先して上げておきたい魔力タンクとして【奮術師】の奉谷さん、【騒術師】の白石しらいしさん、さらに【氷術師】の深山みやまさんは【身体強化】を持っていないので参加できない。

 同じ理由でベスティさん、アーケラさん、シシルノさんもそうなってしまう。九階位のアヴェステラさんなどは論外だ。


『なら鳩対策だ。後衛を硬くしておいた方がいいと思う』


 などと発言してきたのは大盾を持つピッチャーな海藤かいとうだった。


【剛擲士】の海藤も十階位ではあるものの、前衛職持ち前の防御性能でハトの攻撃には耐えられる。同じく十階位である騎士組もミームス隊の助けがあるとはいえ、四層の魔獣には対応できているのだ。

 ならばということで、残る前衛職の【裂鞭士】の疋さんと【忍術士】の草間くさまの名が挙がったのだが、疋さんは女王様のお残しであっさりと達成。そして草間は──。


『僕は避けられるし、鳩相手なら術師の方がいいと思うんだよね』


 という理屈で、攻撃型後衛術師のレベリングを推薦してきたのだ。


 たしかに後衛をレベリングするのは、内魔力量を増やすのとは別の意味でも重要だろう。階位を上げて少しでも硬く、速く、力強くしておいて損はない。

 とくに最後列から一歩前で陣取る攻撃タイプの術師は、魔獣の攻撃にさらされる危険性が高いからな。前衛職がカバーする形を取ることもできるが、それをやると盾の枚数が減っていくのは自明だ。


 ここまでくればメンバーは絞られる。【石術師】の夏樹なつきは【身体強化】を持っていないので、牛や馬はパス。

 残るは【鮫術師】の綿原さんと【熱導師】の笹見さんだったというオチだ。両者を平行するのは非効率なのでまずは綿原さん、続いて笹見さんという順番で決着した。最後はジャンケンだったというのが一年一組らしい。



「わたしなんかはもう、半分お荷物だからねぇ。ほんと、コウシたちは勇者なんだなぁって思うよ」


「そんなことは」


 綿原さんの激闘というか、短剣ぶっ刺しを眺めていたら、近くに寄ってきたベスティさんがしみじみとした感じで語り掛けてきた。


「いやいや、わたしが君たちより上だったのはホント、最初の頃だけだからさ」


「ベスティさん……」


「もちろん長年積み重ねてきた経験はあるけどね。けどそれはもうユキノたちに伝え終わったから」


 奔放なベスティさんらしくないとは思うが、言っていることは本当だ。


 四回目の迷宮、初回の宿泊からずっと行動を一緒にしてくれているベスティさんだけど、七階位から八階位くらいの段階、つまり三層に挑むようになったあたりで戦力的にはウチの術師たちとほぼ互角になっていた。それは事実だ。

 それでもこの人には軍で積み重ねた【水術】と【冷術】のテクニックを【氷術師】の深山さんには直弟子として、それ以外でも【熱導師】の笹見さん、【雷術師】の藤永ふじながなど【水術】使いの仲間たちに惜しげもなく伝授してくれた恩がある。

 あちらで薄い笑みを浮かべている【湯術師】のアーケラさんもしかりだな。


 魔力量とポコポコと生えてくる技能のお陰で、基本的な性能ならばウチの術師たちはアーケラさんやベスティさんを超えたところに来てはいるとは思う。

 だけどそれを実感できたのは、それこそベスティさんたちが技を教えてくれたからにほかならないんだ。


 水と熱。王国で戦力とされている術師のスタンダードなスタイル。しかも上位クラスの戦い方を、アーケラさんとベスティさんは全部見せてくれた。それがどれだけ俺たちの助けになったことか。


「さっきだって大根を一緒に攻撃してくれたじゃないですか」


「あははっ、わたしが四層で戦うことになるなんてねぇ。勇者担当になった時には想像もできなかったかな」


 ついさっき女王様と俺が十一階位になった戦いで、途中から乱入してきたダイコンに対応したメンバーにはベスティさんも加わっていたし、足止めに貢献してくた。

 全てを伝えたと言うベスティさんだけど、深山さんはまだあそこまで上手に『氷』を使いこなせてはいない。



「……今回が最後だからって、らしくないですよ」


「だねぇ。わたしだって勇者の後継者なんだから、しんみりしてる場合じゃないかぁ」


「ですよ。副隊長にされるんじゃないですか?」


「どうなんだろうねぇ。そういう取りまとめなんてのはシャルフォさんだと思うけど」


「後衛の育成なんて、ベスティさんしかできないじゃないですか」


「うげぇ。まだ夢くらい見させてよ。コウシは厳しいんだから、もう」


 平民上がりということもあり正式に副隊長に抜擢されるかは不明だが、これからベスティさんはガラリエさんをトップとした『緑山』の後継部隊を担うことになっている。

 ガラリエさんはヘピーニム隊や、勧誘に成功すればだけどヴァフターなど、勇者の戦い方を知っている前衛系の指揮を執ることになるが、ベスティさんは別の方向で大変だ。

 なにせ王国にはびこる後衛職軽視を覆していくお手本こそが彼女なのだから。本人の強さだけでなく、攻撃的術師どころかバッファー系の育成などもベスティさんの管轄になるだろう。


「アーケラが残ってくれたら助かるんだけどねぇ」


「それって、やっぱり……」


「わたしも聞かされてないよ。だけど新しい部隊の候補で、名前出なかったってことはねぇ」


 ちょっと口を尖らせたベスティさんは、やっぱりどこか寂しそうだった。



「ほら、わたしの心配なんかよりさぁ。コウシはナギを見てなさいな」


「ちょっ、ベスティさん」


 いきなりベスティさんがいつものイタズラな表情となり、意味深なコトを言いながら俺の背中を軽く叩く。そういうのは周りの目もあるので勘弁してほしいのだけど。


「ふぅっ。十一階位よ!」


 直後、まさに絶妙なタイミングで綿原さんが牛を倒し切り、モチャっとした笑顔を俺に向けた。


 まさかベスティさん、見切っていた?

 いやいや、こういうコトで【観察者】の俺が出し抜かれるはずがない。偶然なのか、それとも直感なのか、やっぱりベスティさんだってすごいじゃないか。


「がんばりなさい」


「……はい」


 背後から小声で届くベスティさんの声援に、こちらも小さく返事をしてから、俺は綿原さんの下に向かった。


 俺たちがどんなに強くなったとしても、結局大人のお姉さんには敵わないってことだ。



 ◇◇◇



「そいやぁっ!」


「おめでとう、綿原さん」


「ありがとう。八津くん」


 残りの一体を相手にしている笹見さんを他所に、俺は綿原さんにねぎらいの言葉を贈る。


 綿原さんも返事をしてくれるが、モチョモチョ笑いが収まっていない。いいね、可愛いよ。出会ったばかりの頃はクール美人だという印象だったが、最近ではそんなイメージはすっかり吹き飛んだ。

 赤紫なサメも三匹、ぴょこぴょこと踊っているようだし、テンションが高いなあ。


「それで技能なんだけどね」


 俺のすぐ傍に立った綿原さんは、笹見さんの戦いを見つめながら小さな声を掛けてきた。


「決まってる?」


「ええ」


 彼女に合わせて俺も小声で問いかけてみれば、即答みたいな間合いで返事が飛んできた。


 ここで取得する技能についてだが、俺と違って綿原さんの選択肢は多い。

 最近ではみんなが候補に生やすようになった視覚聴覚系から【遠視】や【聴覚強化】。術師としてなら【遠隔化】がある。魔力系ならば【魔力回復】もアリだろう。さすがに【魔力伝導】でメイスをパワーアップする筋肉路線はナシか。【魔力凝縮】はまだ出ていなかったかな。メモなしでクラス全員の候補を把握なんて、俺にはとてもムリだ。

 それよりなにより綿原さんにはユニークスキル、【蝉術】もある。まさかな。


 十階位に上がった時に魔力量の関係で技能取得を我慢したぶん、彼女は十一階位を夢見ていろいろと考えていたんだろう。

 モチャモチャとした笑みは普段より長く続いているのがその証拠だ。



「【魔力付与】」


「え?」


 綿原さんの口から飛び出した言葉は、ちょっと意外なものだった。


【魔力付与】。今の一年一組の中では弓使いのミアとピッチャーの海藤だけが取得している。

 物体に魔力を込めるという意味では【魔力伝導】と似ているが、【魔力付与】は自分の手から離れていてもある程度の時間、魔力が纏われたままになる技能だ。矢やボールに魔力が込められたまま敵に触れればそこで相殺が発生し、相手の魔力ガードを削りながら突き進む形になる。結果として相対的に威力が上がるという寸法だな。


 つまり投擲系なら【魔力付与】で、手に持った武器ならば【魔力伝導】というのが、敵の魔力を削りながら戦うという点で基本的な運用方法となる。


 そんな【魔力付与】を綿原さんは取ると言う。

 綿原さんが使う『投擲武器』なんて……、ひとつしかないよな。いや、そこに三匹いるけど。


「あら?」


「ど、どうした?」


 自信満々だった綿原さんが、自らのサメを見ながら首を傾げた。その表情から察するに、思い通りにならなかったということだろう。

 まさか、サメには【魔力付与】が通らない? だとしたら、かなりマズい選択をしたことになるのだけど。捨てスキルなんていう単語が頭に浮かぶ。


「たぶん大丈夫よ、八津くん。ちょっと待ってね」


 俺の表情からこっちの不安を感じ取ったのだろう。綿原さんは努めて明るい声を出した。


 そんな綿原さんは浮かべていた赤紫のサメを解除し、腰の水筒から『珪砂』を取り出し手のひらに乗せる。解除されたサメが形を崩しながら落下して迷宮の床が汚れるが、そんなのはいまさらだ。戦闘直後、というか笹見さんが戦っている最中なので、そこいら中が魔獣の血で赤紫に染まっているからな。


「まずは一匹、小さめで……」


 呟くように綿原さんが念じれば、彼女の手のひらに十五センチくらいの白いサメが出現した。

 見た目はいつもどおりの【白砂鮫】で変化は見られない。いや──。


「たぶん通ったと思う。一度材料に触れる必要が……、いえ、たぶん魔力が届けば。八津くん、見てもらえるかしら」


「ああ。そうだな。そのための俺だ」


「そうよ。八津くんの目が必要なの」


 ブツブツと条件を検証している綿原さんから飛び出したのは、知らない人が聞けばかなり物騒な物言いだった。

 俺の目がくり抜かれそうな、そんなフレーズ。


「間違いないと思う。うん、ちゃんと色が濃くなってるよ」


 俺の【魔力観察】は、そこに魔力があるかを判断できる。さらには色の濃さという形で技能が乗っているのかも。


 綿原さんの浮かべる白いサメは、元々【鮫術】と【砂術】の複合でできている。なので、すでに魔力が関与しているのだが、今はさらに色が濃い。

 つまりなにかしらの技能が加わっているのだ。ちなみにそれが【魔術強化】や【多術化】でも濃さが変わるので、明確にどの技能を使ったのかを当てることはできないのが残念。


 さておき、目の前にいる白いサメには、なんらかの技能が追加されて乗っている。

 俺に確認こそ求めたものの、術師たちは実感として自分の技能が効いているかどうかを感覚的に把握できるのだ。


 綿原さんだって、もちろんわかっている。しかも相手はサメなのだ。彼女に理解できないはずがない。



「じゃあ行くわよ八津くん」


「え?」


 モチャっとした笑顔のままだけど、メガネ越しにどこか瞳に怪しい輝きを灯らせた綿原さんが、妙なことを言いだした。

 行く? どこに。


「普通のサメってどうやって攻撃するのかしら」


「そりゃあ、噛み、付く……」


 まさか、おい。


 綿原さんのサメは、素材の性質に応じて対象の妨害をするのが本来のやり口だ。

 砂なら魔獣の動きを止めて細かい傷を与えるし、血を使えば術が解けたあとでも敵にへばりついて目潰しみたいなことができる。


 今、普通って言ったよな。俺の知っている普通の……、映画に出てくるようなサメの攻撃方法って。


「えいっ」


 小さな掛け声と共に、白いサメが俺に向かって飛んでくる。彼我の距離は一メートルもなかったので、俺にぶつかるまでは瞬間の出来事だ。


 狙う先は、首かよっ!?


 本来ならば俺の纏う魔力に触れた段階で、綿原さんの術は解ける。

 だがもし【魔力付与】によって魔力が乗せられていたらどうなるか。俺の魔力と付与された分が相殺されつつ、サメの形を保ったまま魔力ガードを突き抜けて──。


「届いた」


 白く小さなサメは、その身の大きさにふさわしい小さな口で俺の首筋に噛み付き、その直後に崩れ去った。


 もちろん俺にダメージなんてない。相手は砂でしかないのだから。

 だけどこれなら魔獣に与える物理的な阻害効果は確実に高まるだろう。相殺で相手の魔力だって削ることができる。その分、綿原さんの魔力も減っているのだが、そこは運用次第か。


 今までは直前で術が解けて形が崩れたサメだけど、たぶん【魔術強化】に【魔力付与】を被せることで、俺に触れるところまで形状を保ったまま到達してみせた。


 意味するところはつまり、綿原さんのサメが進化したことに他ならない。だよな?



「サメは噛み付いてこそよね」


 モチャリと音を立てるようにいつもより笑みを深くした綿原さんは、メガネを光らせながら断言してのけた。


 そう、俺がこねた理屈なんか綿原さんはすでに通り越し、もっと上の視点に到達している。

 サメは噛み付くことにこそ意義があるのだ。


 それが達成されたという事実が、彼女にとっての重大事なんだろう。魔術っていうのはイメージだからな。ああ、なんとなく想像できてしまう。魔力的な理屈を抜きに、綿原さんのサメは強くなるぞ。


 二匹目を創り出した綿原さんは、嬉しそうにそのサメを遊弋させていた。


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