第425話 彼女こそが悪役令嬢




「全てはレムト王家の責であると、まずは認識してくださいまし。当然贖う意識はお持ちですわね?」


「……はい。重々に承知しております」


 緑の瞳を鋭く燃え上がらせながら、リンパッティア様がスメスタさんを責める。


 イエスとしか言えないスメスタさんを可哀想だと思わないでもないけれど、これは正当な抗議なだけに、俺たちも口を挟めない。


「対価を提示なさいまし」


「……銅の関税を一割減らしたく」


「永続的に?」


「五年後に再交渉ということで、いかがでしょうか」


「その時アウローニヤが存続しているか、怪しいところですわね。そも、その提案、新王即位を承認させるためのものではなくって?」


 容赦ないなあ、リンパッティア様。

 しかも言っていることがいちいち正解なあたり、質が悪い。


 けれども背筋をピンと伸ばし、右手に持つ閉じた扇をスメスタさんに付きつけるポーズは、とてもカッコいいんだ。

 マッドサイエンティストなシシルノさんとは別方向の邪悪な笑みも相まって、実に悪役令嬢っぽい。


 逆にスメスタさんは顔色がよろしくないな。

 かなりのイケメン系なお兄さんで、ノリがいい時は吟遊詩人みたいな飄々としたカッコよさを持つ人なんだけど、この状況ではさすがに。



「ですがアウローニヤはペルメッダの重要な取引先。こちらに果実をもたらす守り木ともいえますわね。根を枯らしてしまうのも益の無い話であることなど、承知していますわ。そうでしょう? スメスタ・ハキュバ」


「そのお言葉、ありがたく」


 同時に道理を弁えた言葉を紡ぐリンパッティア様だけど、言い方が辛辣だ。それでもスメスタさんは神妙に感謝を述べる。


 ペルメッダは西にアウローニヤ、北に魔王国、南に帝国があるため、本国だけでなくそれらの国同士を繋ぐ交易で儲けている。

 地形的に一番移動が簡単なアウローニヤは、第一の顧客と言えるのだ。


「なによりわたくし、胸が弾んでおりますの。そちらの都合で、あの惰弱な者との結婚話が流れ、こうして高みからアウローニヤを見下みくだせる。上機嫌とはこのことですわ!」


「いいねぇ~」


「すげぇ」


 上機嫌というのは本当なんだろう。言い方が滅茶苦茶だけど、気持ちはわからなくもない。

 ここ、アウローニヤの大使館で堂々と相手をコケにするあたり、最高に悪役令嬢している。


 座席的に近くにいるチャラ子なひきさんと、イケメンオタの古韮ふるにらがすごく嬉しそうだ。

 俺の正面に立つ綿原わたはらさんが呆れた顔をしているけれど、アレがいいんだよ、アレが。たぶんそのうちクセになるから。


 とはいえ、俺たちもリンパッティア様の婚約を壊す一翼を担った責任は……、あるのかなあ。

 むしろ喜びを隠そうともしないでいる彼女を見ると、いいことをしたんじゃないかとすら思ってしまうんだけど。


 ついでに言えば、彼女はなにも間違ったことは求めていない。言い方に難があるだけで、むしろペルメッダの側から婚約破棄を申し出てくれたのは、アウローニヤにとっては助かるくらいだろう。

 ペルメッダ侯爵家がこの大使館と同じタイミングで女王様の戴冠を知ったとすれば、それからまだ三日だ。アウローニヤ側からは持ち掛けにくい話を、こうして出向いてまで片付けてくれたのだから、即断即決としか言いようがない。


 矢面に立たされているスメスタさんがキツそうではあるが、筋が通っている以上、一年一組としては口を挟むシーンではない。


 むしろ、俺たちがここにいるのを知った上で襲撃を掛けてきたことを考えれば、これから別の矢がこっちに飛んでくるのも見え見えだからなあ。

 侯王様が昨日言っていた、拠点の紹介資料を持ってくるっていう話……。


 メッセンジャーがアウローニヤに因縁を持つ侯爵令嬢っていうのはどうなんだろう。

 侯王様の差し金なのか、本人の立候補なのか。どちらにしろ絶対狙ってるよな。



「メーラ」


「はっ」


 扇を開いて口元でヒラヒラさせはじめたリンパッティア様が、食堂の入り口、ちょうどスメスタさんの近くに控えていた人物に声を掛けた。


 掠れがちの声で答えたメーラと呼ばれた人はペルメッダ兵の恰好をしているが、軽装の部分鎧は昨日見かけた門番のモノより上等な印象がある。詳しく見ればいくつか徽章もぶら下げているし、もしかしたらリンパッティア様専属護衛ってあたりかもしれないな。


 茶色の髪を肩まで伸ばした女性兵士、メーラさんは手にした鞄から紙の書類を取り出し、引きつった顔をしているスメスタさんにそれを手渡した。


「メーラ、控えなさいまし」


「はっ」


 そしてそのまま食堂を横断し、メーラさんはリンパッティア様の斜め後ろに立つ。

 彼女の茶色の瞳がどことなく濁っているような気がするんだけど。



「即金で二億ペルマ、ですか」


「加えて先ほどの条件。関税の一割減、ですわ。王家の婚約破棄ですわよ? 格安でしょうに」


 スメスタさんがうめき、リンパッティア様は追撃をかけた。まさに容赦なし。


 書類に書かれていたのは慰謝料的な内容だったんだろう。羊皮紙じゃないってことは、暫定的な要求ってところか。


『ペルマ』というのはこの国の通貨単位だ。ペルマ迷宮でペルマとか、まんまだよな。ちなみにアウローニヤでは『アウロ』なので、まあ、似たようなモノか。

 モノによって物価が違い過ぎるので一概に比較できないが、小麦の価格換算をすればペルマもアウロも日本の円と同じくらいの感覚で俺たちは捉えている。


 つまり慰謝料は二億円。うん、すごいな。だけど王族が絡む婚約破棄だ。高いのか安いのか、俺にはわからん。

 リンパッティア様はついでのように言ってのけたけれど、銅の関税引き下げについても、スメスタさんが外交カードに持ち出したくらいなんだから、相当な額にはなるんだろうし。



「さすがに今この場で払えとは申しませんわ。ですが時間を掛けるようなら、金利も同じくと考えるべきですわね」


「……ひと月、お時間をいただきたく」


「大使でもいらっしゃるのかもしれませんわね」


「事が事ですので、僕では」


「わかっていますわ、スメスタ・ハキュバ。あなたでは足りていないですわね」


 凄まじいスメスタさん下げだけど、これまたリンパッティア様の言っていることは真っ当だ。


 なにしろここ、アウローニヤ大使館には外交官は居ても大使は居ない。文字通りにトップが居ないんだよな。

 宰相派の大使は絶賛拘束中。ペルメッダはそちらに手を出すつもりはないようだからこそ、スメスタさんがこうして応対するのを認めているのだろうけど、所詮は暫定トップにすぎない。


 そしてスメスタさんが言ったひと月後とは、すなわちラハイド侯爵夫妻が登場するタイミングを意味する。

 豪放にして合法ロリなベルサリア様と、露骨な表現はしたくないが、ドレスのせいでわかりやすく胸部装甲が分厚いリンパッティア様の邂逅か。胸が熱くなるな。胸だけに。



 ちなみに、ほんとうにちなみになんだけど、ウチのクラスの女子たちは、アネゴな笹見ささみさん、聖女な上杉うえすぎさん、アルビノ系の深山みやまさんがワリと大きい方だ。なにがとは言わないけど。

 逆にエルフのミアや陸上女子のはるさん、そして言うまでもなくロリっ娘な奉谷ほうたにさんは薄い。繰り返すが、なにがとは言えない。


 綿原さんは、年相応にたぶん標準的なんだと思う。悪役令嬢に興奮を隠しきれていない滝沢たきざわ先生は……、目立って大きくはない、かな。


 あれ? 視界の端でサメが躍ったような。



「わたくしからアウローニヤへの申し立ては以上ですわ。持ち帰り検討なさいまし。もちろん昨日お父様が渡した書類は正式なものですので、国交についてはこれまで通りといたしますわ。関税の見直しについてもひと月の猶予を与えますわ。急ぎ国元に報せなさいませ」


「ありがとうございますっ!」


 リンパッティア様の長台詞を受けたスメスタさんは、大声でお礼の言葉を発した。


 それもそうだろう、ぼったくられるかはこれから次第になったが、スメスタさんの抱えたアウローニヤ大使館としての懸案事項は、これでほぼ解消されたのだから。


 言い方こそキツかったし、金額が動く可能性もあるけれど、さすがは商人の国ともされるペルメッダだ。侯王様にしろリンパッティア様にしろ、アウローニヤとの友好関係を大事にするという姿勢が一貫しているのが印象的だな。


 良かった良かった。



「では、続けますわね。フルニラの名乗りは聞き遂げましたわ。つぎは誰なのでしょう。わたくし、勇者たちとお話できることが楽しみで仕方ありませんでしたの」


 俺たちを立たせたまま自分ひとりだけどっかりと椅子に座り、扇を開いて俺たちにヒラヒラと差し向けたリンパッティア様が、眼を細めて邪悪に笑っている。


 だよなあ。そりゃあそうなるよ。



 ◇◇◇



「ナギ・ワタハラ、です」


 いつもに比べて微妙に歯切れの悪い綿原さんの自己紹介で、俺たちからの挨拶は終わった。


 綿原さんからしてみると、どうやって接したらいいのかわからないタイプらしい。

 こんな典型的な悪役令嬢、日本ではもちろんだけど、こっちに来てからすら初めてだ。誰にだって苦手なコトはあるよな。


「【鮫術師】でしたわね。お父様から聞いていますわ。大層奇妙で楽しげな魔術を使うとか」


「あ、はい」


 悪い笑みを深くしたリンパッティア様が、綿原さんに語り掛ける。キョドる綿原さんとか、珍しいよな。


 綿原さんはこのままでいいのかという風にスメスタさんをチラ見するけれど、首を横に振られることで退路を断たれてしまった。

 昨日の話し合いで予想されていたよりずっと上のお土産を渡されてしまったのだ。スメスタさんとしても、ここで口を出すマネはできないのも仕方ない。


 さて、ここからが試金石だ。これからのリンパッティア様の言動で、彼女との付き合い方が決まる。

 綿原さんには悪いけど、得意のサメで戦い抜いて欲しい。


「ひとつ、わたくしにも見せてもらえますこと? あなたの持つ素敵な技を、ワタハラ」


「……はいっ!」


『素敵な技』というワードに反応したのか、綿原さんの瞳に光が宿った。

 けれどもリンパッティア様が言葉にすると、嘲っているようにも聞こえるのがなあ。はたして綿原さんの心に宿ったのは喜びなのか、怒りなのか。


 綿原さんの口元がモチャりと歪む。あ、喜んでる。サメが絡むとすぐそれだ。


「ほかの者は座ってくださいまし」


 命令ともお願いともつかないセリフではあるが、リンパッティア様がそう言うと謎の圧が発生する。

 父親譲りなんだろうか。すごいな、ペルメッダ侯爵家って。


 椅子がガタガタと音を立て、みんながバラバラに座っていき、これで立ったままなのはリンパッティア様の背後に控えるメーラさんと、居心地の悪そうなスメスタさん、そして綿原さんだけ。


「やります」


 綿原さんがモチャっと笑い、直後三匹の白いサメがテーブルの上に出現した。



 ◇◇◇



「お見事ですわ! わたくし感服いたしました!」


「あ、ありがとうございます」


 テーブルに扇を置いたリンパッティア様が満面に邪悪な笑みを浮かべながら拍手を送る。

 背後に立つメーラさんも拍手をしているのだけど、無表情で目は濁ったままだ。どういう人なんだろう。心が全く読めないのだけど。


 対する綿原さんは、やり切った感を出しまくっているなあ。


 三匹のサメを自在に泳がせ、合体からの巨大化、さらにはそのままテーブルに『着水』なんていう技までやってのけたのだ。


 アウローニヤでやったお別れ会の練習からここ数日の旅に掛けて、綿原さんの【鮫術】は謎の進化を遂げている。芸方面に。

 ほかに類を見ないタイプの魔術使いなだけに、ウケがいいんだよな、サメ芸。石を飛ばすだけのカワイイ系男子な夏樹なつきがぐぬぬってしまうくらいに。


 夏樹なんかまだいい方で、俺なんて極限レベルに地味だしなあ。

 迷路脱出ゲームとかだったら勝てる自信があるんだけど、それをお披露目したところで……。



「ナギ・ワタハラの【鮫術】、しかと見届けましたわ。わたくし、リンパッティア・シーン・ペルメッダが認めますわ」


「え?」


 まんざらでもない表情で絶賛を浴びていた綿原さんだけど、リンパッティア様の言葉の持つ意味に、ビクっとした顔になった。


「そうですわね……、フルニラは器量良し、体つきならマナが好みですわね。侍らせるなら、フジナガもなかなか悪くなさそうですわ」


 続くセリフに名を呼ばれた当人だけでなく、クラスメイトたちの表情が固くなっていく。


 イケメンの古韮ふるにら、筋トレマニアな馬那まな、チャラ男の藤永ふじなが。外見とは関係ないのに、藤永についてはよく気付けたな、リンパッティア様。

 やはりにじみ出る下っ端感があるのだろうか。


 それどころじゃないのはわかっているけれど、俺はどこかにまだ望みを残している。

 まだだ。まだ境界線は越えていない。だからこそ、こちらから動くのはマズいんだ。


 そして俺たちの周囲に冷気が漂い始めた。

 出席番号的に綿原さんの隣に座っているのは【氷術師】にして藤永の相方たる深山さんだ。さらに隣に座る奉谷さんがビックリ顔になっている。

 深山さんの【冷術】は【水術】と相性がいいが、【熱導師】の笹見さんが使う【熱術】と同じく、根本は熱を扱う魔術だ。水が無くても空気は冷やせる。


「深山さんっ、まだ早い。落ち着いて。【冷徹】」


八津やづ、くん」


 位置的には幸いにして下座側での出来事だ。俺が小さい声で深山さんに呼びかければ、彼女は普段以上にポヤっとした顔になってくれた。

 全力で【平静】と【冷徹】を使っているんだろうなあ。ごめんな、深山さん。もうちょっとガマンだ。



「そしてなによりわたくしが興味を持つのは、ショウコ・タキザワ。あなたですわ」


 テーブルに置いた扇をそのままに、すっと立ち上がったリンパッティア様は、最前列に座る先生を見下ろした。


りんちゃん。落ち着いてください」


「けれど、昇子姉しょうこねえ


「いいから落ち着いて。座っていてください。大丈夫ですから」


 いち早く立ち上がった中宮なかみやさんだけど、先生からプライベートな呼び方で止められてしまう。

 アウローニヤにいた頃、ヒルロッドさんに噛み付こうとした中宮さんを先生がたしなめたのと同じ構図だな。



「そういえばあなたの名はリン・ナカミヤでしたわね。どことなくわたくしの名と似た響きですわ。仲良くできると嬉しいのですけど」


「……はい」


 リンパッティア様から水を向けられた中宮さんは、半ば立ち上がった姿勢から席に座り直して、鋭い視線を侯爵令嬢に叩きつける。


 昨日のうちに徹底しておいて良かった。

 リンパッティア様というか、侯爵家の人たちに反発して得られるものなんてなにもない。直接的な害意を向けられない限り、スルーするなり耐えるなり、そうすべきであると。


 とはいえ『リン・ナカミヤ』と『リンパッティア』か。なるほどちょっと似た響きだ。伏線とかじゃないだろうな。



「わたしに興味とは、どういう意味でしょう」


 中宮さんと入れ替わるように立ち上がった先生が話題をさらった。矛先は自分に向けろって意味だろう。


 けれども先生の表情には険しさが存在していない。これって一年一組的にはおかしな話なんだよな。

 自分の生徒たちにここまで意味ありげな言葉を投げかけられたにしては……。普段の先生ならもっとヤバいモードになっていても不思議じゃないんだけど。


 だからこそ、俺たちは黙って見ているしかない。

 いや、違和感がある。二人の距離が……、近い? あの間合いって。


「ショウコ・タキザワ。あなたの神授職と階位を聞きたいですわ」


「……十一階位の【豪拳士】です」


「そうでしたわね……。ですわっ!」


 先生の職と階位を聞いた直後、リンパッティア様が大きな声を出した。まるで掛け声のように。


 パンっという何かが弾けたような音が食堂に響き渡る。


 それはまさに掛け声だったんだろう。

 リンパッティア様の突き出した白い長手袋に包まれた右拳を、先生が左の手のひらで受け止めていた。


 クラスメイトたちが驚いた顔になっているが、激高しそうな中宮さんは逆に冷静なくらいだ。さっきと大違いだな。俺と同じで、二人の距離になにかを感じたのかもしれない。

 いざ武力行使の段階になると肝が据わるあたりが中宮さんらしいよ。


 そう、二人の距離感、アレは先生が得意にしている拳の間合いだった。

 ならばリンパッティア様は──。


「わたくしは七階位の【強拳士】ですわ。感服いたしましたわよ。ショウコ・タキザワ」


 とてもとても嬉しそうに、邪悪な笑みでリンパッティア様は先生を賞賛した。本日二度目の感服である。


 殴り系悪役令嬢か。ワリと見かけるタイプのジャンルだな。



 ◇◇◇



「わたくしの義妹になるはずだったリーサリットが女王となり、そんな彼女と友誼を結ぶ勇者たち。わたくしが仲良くしてもいいではないかと、そう思うのですわ」


「友好関係ならば、わたしたちとしても望むところです」


 さっきまでとは一転、邪悪な笑みを引っ込めたリンパッティア様がふくれっ面になっている。

 対応しているのは座り直した先生だ。


 リンパッティア様もお誕生席に座り、目の前にはお茶を注いだカップが置かれて湯気を立てている。

 俺たちのもあるんだけど、二杯目だよ、これ。


 下座にはスメスタさんが小さくなって座り、こちらの様子を窺っている。

 立っているのはリンパッティア様の背後にいるメーラさん改め、メーラハラ・レルハリアさんだけ。侯爵令嬢の直属護衛だけあって、騎士爵持ちらしい。

 ひたすら無表情で死んだ目をしているメーラハラさんは、二十歳ちょっとくらいに見えるけど、さすがに年齢までは教えてくれなかった。


 というわけで、リンパッティア様襲来からのひと騒動は、一旦の落ち着きを見せている。



「そう。友好関係ですわ。それが重要なんですわ」


 リンパッティア様の言葉を聞く先生の表情は優しげだったりするのだけど、中宮さんが再びぐぬっているんだよ。忙しいな、中宮さん。


 要はリンパッティア様、俺たちが女王様と親しくしていたのを知っていて、自分とも仲良くしろと言いたいらしい。

 謎のライバル意識である。


 見るからに悪役令嬢なリンパッティア様は十七歳。

 そしてアウローニヤの女王となったリーサリット陛下は十六歳で、見た目は優しげな超美少女だ。


 これって悪役令嬢とヒロインの構図なんだろうか。

 とはいえこの場合、リーサリットという名前のヒロインは中身真っ黒なんだけどな。


 対する一年一組の面々は十五歳と十六歳の集団だ。

 この場面は高一と高三との対峙ってところになる。後輩に友好を迫る先輩の図、なのかな。


 なるほど、先生からしてみればリンパッティア様も子供になるのか。

 そう思えば、さっきまでの邪悪さが薄れたリンパッティア様は、どこか年相応にも見えてしまう。


 子供で悪役令嬢だなんて、先生からしてみたら、大好物になるのかもしれない。いや、悪い意味ではなく。



「それには条件が──」


「わかっていますわ。ペルメッダ侯爵家は勇者たちを冒険者として扱い、積極的に引き入れるようなマネはしないと誓いますわ」


 昨日まで苦悩していた俺たちの懸念はなんだったんだろう。


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