第365話 混じり合えない




 いつも「ヤツらは仲間を見捨てない」をお読みくださりありがとうございます。


 夜のテンションで第1話の最終部分にそれっぽい修正を加えてみました。第1話として、もうちょっとキャッチーにできればいいな、というくらいの、最終数行の修正ですが、念のためご報告いたします。

(2024/10/29)



 ◇◇◇



「馬三体。こっちはミームス隊に抑えてもらってアタッカーメインで倒そう。遠距離組、初手を頼む」


「いいんデスか?」


 俺の指示出しに対して、エセエルフのミアが妙に嬉しそうな顔で確認を取ってくる。


「弓を構えろ、ミア。海藤かいとうもだ。ラストアタックは指示を出す」


「ラジャーデス!」


 すかさず背中のフックに固定していた弓を、ミアは引き抜き構えを取った。『ガラリエ陣』の肝になる最前列に並ぶ盾のさらに左後方に位置取り、射線を通す。

 一連の動作を流れるようにやってみせるあたりが彼女のセンスだ。


「初手で倒してしまってもいいんデスよね?」


「言ってろ」


 なんかアレな発言のミアだが、馬相手にクリティカルはムリだろう。ムリだよな?

 それでも気概は買うことにしておくよ。なんか自然と笑えてきたし。



「牛が来るまでに、二体は倒そう。海藤は十時方向、四歩出ろ。球種は任せる」


八津やづお前、俺の距離がわかってきたなあ」


「伊達にキャッチボールしてないって」


「山士幌戻ったら草野球に誘ってやるよ。キャッチャーだぞ?」


 もうひとりの遠距離アタッカー、【剛擲士】の海藤にも一撃か二撃は入れてもらおう。


 それと海藤、俺は文系で、技能が無かったらお前のボールを受け止める自信はないぞ。

 でも野球か。そうだな、山士幌に戻ってもキャッチボールくらいはしたいし、なんなら試合だって。


 そのためにも、こんなところで躓いてなんていられないか。



「三秒、二、一!」


 ミームス隊の作る盾のすぐうしろで低く腰を落としてダブルメイスを構えるはるさんがカウントを減らしていく。


 声を発さず口の形だけで彼女がゼロを示した瞬間、西側の門から魔獣が三体、一気に飛び込んできた。盾列まではおよそ十メートル。衝突まで二秒と掛からない距離だ。

 あえて扉の近くに最前列を置き、速攻で倒してしまおうという戦術は、俺たち的には四層の魔獣に対しては初めて意図的に使う形になる。


「撃てっ!」


「シィッ!」


「ふっ!」


 激突までの刹那のあいだに遠距離アタッカーは仕事をこなす必要がある。そんな厳しい間合いでも俺の声に応え、ミアと海藤はそれぞれ一本の矢と一球を敵の胴体に突き立て、叩きつけた。

 さすがは野生とスポーツマン。見事な仕事だ。


 だからといってクリティカルになるわけでもなく、それでも一定以上のダメージが入った二体の馬は一瞬だけ停滞する。

 三体のうち二体が速度を落とすことで、こちらにも若干の余裕が生まれた。やっぱり先制遠距離攻撃は神だな。


 それでも馬は目の前にいる騎士たちに向けての突撃を続ける。それが迷宮の魔獣というモノだから。


「カチあげろぉ!」


「おぉう!」


 分隊長のラウックスさんが叫び、ミームス隊の各員が唱和する。


 こちらの左翼に配置したミームス隊の盾が六枚なのに対し、馬はバラけた三体。均等割りで一体につき二人がコトにあたることが可能だ。ましてやこちらは全員が十三階位で、ちょっとした味を加えることも不可能ではない。

 だから正面から堂々と受け止めるなんていうやり方ではなく、ここでは『カチ上げ』が採用された。


 相手は【七脚双角馬】。横向きになって襲ってくる牛とは違って、わりかしまともな直線攻撃を仕掛けてくるタイプの魔獣だ。ただし両肩から生える巨大な角には最大限注意する必要がある。まさに生物チャリオットといった様相だな。

『カチ上げ』は事前の打ち合わせで想定していたパターンのひとつで、騎士たちが真正面から抑えつけるのではなく、盾を斜めに使って上方に逸らすことで相手を棒立ちにするのを狙う戦い方だ。


「ミア、海藤、もう一射っ! そこからは近接攻撃!」


 体長が三メートルを超えるような巨大な馬が、四本もある後ろ脚で立ち上がる姿は中々に壮観だ。同時にその巨体の半分近くが盾役のはるか上にあるのが狙い目となる。


「イヤッ!」


 完全に上体が立ち上がった馬に対し、鋭い声と共に発射されたミアの弓と無言で放った海藤のボールが当たった。二人ともが念入りに【魔力付与】を使っているからか、ダメージは絶大に見える。

 すでに瀕死じゃないだろうか、先頭のこの馬。


「えぇぇい!」


「とうっ!」


 上ばかりを見ている場合ではない。はるか下段にメイスを振るい、足を折りに行ったのは陸上女子の春さんと、メガネ忍者な草間くさまだ。

 相手の姿勢を崩してから、上下同時の二段攻撃だ、悪くはないだろう。


ひきさんっ、ソイツを引き込んでから刺せ! 盾は残り二体に対応!」


「あいよぉっと!」


 体勢を立て直した馬が二体迫りくる中、瀕死となった最初の一体はチャラい疋さんに任せる。


【裂鞭士】の名に恥じず、生き物のようにうねったムチが瀕死の馬に巻き付き、一気に陣の内側に引きずり込んだ。よくもまあ、あんな細腕で巨大な馬を引きずれるもんだな。

 そんな光景だけど、綿原わたはらさんが好きそうな映画で見たことがある気がするぞ。パニック系で触手がウネウネするようなヤツ。


 それはさておきだ、戦況に余裕があるならば、ここで十階位メンバーに経験値を取らせるのは常套手段となるだろう。

 本来ならば【身体強化】持ちの術師、現状なら【熱導師】の笹見ささみさんか【鮫術師】の綿原さんに回したいところだが、後衛職だけに時間が掛ってしまうだろう。今の余裕はあくまで十秒レベルのものでしかない以上、陣の内側で素早いトドメを刺せるとなれば疋さん一択だ。



「終わったよっ」


 右手に持った短剣を赤紫に染め、返り血を浴びた疋さんが、いつもよりも少しだけチャラっ気を抑えた声で報告してくれた。

 本当に十秒足らずだったな。【身体強化】に加えて【魔力伝導】と【魔力凝縮】、そして【鋭刃】を使える疋さんだ。フリーな状況の決定力というかトドメパワーが凄まじい。忍者な草間よ、負けているぞ。それどころか春さんより上じゃないだろうか。


「草間、海藤! 疋さんが強すぎるぞ。負けてないで、そっちの馬、もってけ!」


「ズルいよね」


「ったく」


 残った十階位アタッカーの海藤と草間に発破をかけておく。


 すでにダメージを負った残りの二体だ。ミームス隊で十分に抑え込めるし、こっちにはミアもいる。疋さんの方も素早く前線の牽制に入った。任せておいて問題ないだろう。


 こっちはもういい。じゃあつぎだ。



「牛二体。二、一……」


 馬の方の戦況を落ち着いて静観していた木刀少女の中宮なかみやさんが、別方向に視線を送りつつ、もうひとつのカウントダウンに入っていた。


「盾組、気張れぇ!」


 反対方向から広間に侵入してきた【六足四腕紅牛】二体に対し、『緑山』の騎士を代表して【重騎士】の佩丘はきおかが咆哮をあげる。こっちの壁はミームス隊ではなく一年一組騎士メンバーだ。


 タイミングと位置取りの関係で、こちらの遠距離攻撃は後衛術師がメインになる。

 綿原さんのサメ、笹見さんの熱水球、夏樹なつきの石が二体の牛に襲い掛かり、勢いを削いでいく。うん、いいぞ。


「牛の方は防御重視。片方は十階位の誰かで倒し切ってくれ」


 馬の方の行方も【観察】しながら、思考の中心を牛へと向ける。


 ここまで状況が出来上がってしまえば、負けはない。怪我だって最小限にできるだろう。

 ならばやれることはやっておかないとな。


「最後の一体はとにかく弱らせてくれ。手足を全部と角も折れ!」


 我ながら残酷なコトを言っている自覚はあるけれど、これは必要なことだ。ですよね? シシルノさん。



 ◇◇◇



「では陛下、お願い出来ますかな」


「……はい」


 五分後、ほぼ全ての戦闘が終了し、生きて広間に残された魔獣は完全に無力化された牛が一体だけになっていた。

 こういう手加減さじ加減については、ウチの滝沢たきざわ先生と中宮さんが大得意なので、終盤は完全にお任せだったな。いい仕上がりだ。


 シシルノさんに促され、珍しく困惑した表情になった女王様が得物に近づいていく。


 予定通りに両脇を固める形で接待に務めているのは先生と藍城あいしろ委員長。『緑山』の誇る騎士団長と副団長のエスコートだ、これには女王様もご満悦であろう。

 事情を聞かされたのはついさっきなんだけどな。


 階段で説明をしておくつもりが、ガラリエさんの新部隊の件ですっかり忘れてたんだよ。こんなにすぐチャンス到来するとは思っていなかったし。


「大丈夫ですよ、陛下。見てください。彼らミームス隊が身を挺してくれているではありませんか」


 女王様のすぐ背後にいるシシルノさんが、なんかこう悪の女宰相みたいなムーブになっているんだが、言っていることは本当だ。


 女王様の護衛を先生と委員長に任せたヒルロッドさんは、本気のマジで必死な形相をしながら牛の首根っこを押さえつけている。ラウックスさんたち六名も、それぞれ全力で各部位を固定中だ。一歩間違えばそれだけでトドメが刺せそうなくらいに。


 ところでヒルロッドさんたちは、なぜ女王様の方を見ていないのかな。いまさら部外者面とか、そんなのが通るわけがない。一蓮托生ですよ。ねえ。



「ヤヅくん、しっかりと『見ていて』くれたまえよ?」


「もちろんです」


 すでに【魔力視】をぶん回しているのだろうシシルノさんが、瞳をギラつかせながら俺に確認をしてくる。


 そりゃあ、こんなシチュエーションで見逃すはずがないだろうに。俺は牛に対峙して跪く女王様を横から見る位置で【魔力観察】を開始した。


「悪い、深山みやまさん。イザってときは頼む」


「うん」


 俺は背後に魔力タンクとして控えてくれているアルビノ系女子な深山さんに一声かけてから、現場に注目した。


 シシルノさんによく似たごく薄い緑色の魔力を纏う女王様の手が、こっちはハッキリと赤紫色な牛の頭付近に手を伸ばしていく。

【神授認識】は女王様の立場もあって、通常手を握るか肩に触れることで発動されるが、今回は魔獣が相手だ。女王様曰く、一番通りの良いのは人間ならば頭部らしい。それを前提に今回は推測混じりではあるが牛の急所部である喉元が狙いになる。


 そう、女王様にはこれから魔獣の『神授職』を探ってもらうのだ。


「これは……、判別不能? いえ、弾かれた? どなたかすみません、【魔力譲渡】をお願いできますか」


「はいっ」


 ゆっくりと魔獣に触れた女王様は首を傾げ、それからメガネおさげな白石しらいしさんに魔力を要求する。


 結果として五分近くも続けた女王様の【神授認識】はスカで終わった。



 ◇◇◇



「申し訳なく思います」


「まさかまさか、これも見事な検証結果となります。概ね予想の範疇でもありましたしな!」


 思ったとおりの結果が得られなかった女王様が少し落ち込んだ声になるが、そこに被せるシシルノさんは元気いっぱいにマッドモードだ。

 とくに後半部分、余計すぎる一言だろう。女王様にだけ口調が変わるものだから、悪の女幹部みたいになってるし。


 ホント、シシルノさんは『悪の』っていう肩書が似合う人だ。

 だからこそ、一年一組のみんなは大好きなのだけどな。


「さて、ヤヅくん。見解を」


「弾かれたというか、相殺ですね。【聖術】や【鼓舞】と一緒ですよ」


 そんな邪悪を具現化させたような存在、すなわちシシルノさんから話を振られた俺は、さしずめ悪の下っ端といったところだろうか。


 それの是非については今後の課題とすることにして、俺は『見た』ままを述べる。



 これまで俺たちがいろいろとやってきた検証には、敵に対するヒールは可能かというものもあった。ゲームなら定番の技だよな。

 二層のカエルをメインに試してみたが、結果は不可能。ヒールもそうだし、バフもたぶん効いていないという結論が出ている。


 で、今回の迷宮において俺が【魔力観察】を取ったことで、それが可視化した。


「女王様の魔力と牛の魔力、触れたところで消えるばかりで、とても『混ざって』いるようには見えませんでした」


「そうなんだろうね。さすがは【観察者】だ。やはり歴史に──」


「それはいいですから」


 一部無意味なシシルノさんとの会話はさておき、ヒールにしてもバフにしても、この世界で相手に直接影響を与えるような効果を持つ技能は、同意を得るという前提が付く。

 一年一組は『クラスチート』を持っているので、ほとんど無意識、それこそ相手が眠っているあいだに治療してしまいました、なんてことも可能ではあるが、アウローニヤの人たちにそうはいかない。


 訓練中に笹見さんが怪我をして【聖術師】のシャーレアさんに治療された時のように、通常の人同士ならば同意を得ることで初めて【聖術】は発動するのだ。



【魔力観察】を得た俺は、【聖導師】の上杉うえすぎさんが治療をするところや、【奮術師】の奉谷ほうたにさんがバフるところを見た。


 酷く主観的ではあるがその様を表現するならば、魔力が混じるのだ。

 クラスメイト同士だとわかりにくすぎたので、ミームス隊のみなさんにも協力してもらったが、技能が使われた時、その部分の『色が混じった』ように俺には見えた。


 だが、魔獣を相手にした場合、そんな色の混じり合いのような現象は一切感じられなかったというのが前提だ。


「向こうに受け入れる気が一切ないんでしょうね」


「意志というものがあるかどうか、それすら怪しいよ」


「俺もそう思います」


 俺とシシルノさんは知った風な感じで頷き合う。


 そもそも魔獣に知性があるかどうか、かなり怪しいところだが、受け入れるとかそういう概念自体がたぶん存在していないのだろうと言うシシルノさんには賛同できる。


「そういうものなのですね。技能を拒否された経験などないものですから」


 俺たちとすでに動かなくなった魔獣を見比べながら女王様も議論に参加してきた。ちなみに実験台にされた哀れな魔獣にトドメを刺したのは疋さん。誰もが納得の手際の良さだったことを強調しておこう。


 それは置いておいて、女王様としてみれば、これまで自らの【神授認識】が拒まれるという経験をしたことなんてあるはずがないんだろうなあ。

 当時王女様だった現女王様による【神授認識】なんて、王国ではかなり上位に食い込む名誉だ。拒否るアホなど消されかねない。



「それどころか魔力の色が違いすぎて、混じるところが想像できません。本当に同じ魔力かすら怪しく見えるくらいで」


「相容れぬ者たち、か」


 シシルノさんがそれっぽいことを言っているけれど、俺からしてみれば想像どおりで納得の結果でしかない。


「ではここで、君たちへの問いかけだ」


 軽く手を広げたシシルノさんが、悪い笑みで俺たちを見渡した。ああ、これは教授モードに入ったな。


「そうだね……、ノキくん。ヤヅくんの見た現象から得られる結論とは、なんなのかな」


「えっと、魔獣が技能や階位、神授職を持っているかどうかは『わからない』、です」


 シシルノさんから名指しされた文系オタの野来のきだったが、このパターンはお手の物だ。大した戸惑いもなく、結論だけを答えていく。


 野来の言う『わからない』という回答がとても気に入ったのか、シシルノさんの笑みが増していく。一緒になってテンションもだ。


「そうだ。魔力の色が違い過ぎるから、何もかもが『わからない』ことが『わかった』んだよっ!」


 そこまで言い切ってからシシルノさんはケラケラと声を出して笑い始めた。


 本来なら気味悪く見守るべきシーンかもしれないが、俺たちは違う。


「はははっ」


「あははははは、だよねぇ」


「いやー、スッキリした」


「さっすがシシルノさんだ」


 全員ではないものの、クラスメイトたちはシシルノさんに合わせて笑うのだ。


 俺もそうだし、綿原さんもだ。ミア、奉谷さん、疋さん、夏樹、古韮ふるにら、春さん、草間、野来なんかはあからさまに。委員長や副委員長の中宮さん、馬那まな、海藤、笹見さん、白石さん、藤永ふじなが、そして滝沢たきざわ先生あたりは苦笑。普段は皮肉気な田村たむらまでもが、こういう検証系では苦笑いくらいは見せてくる。

 数少ない例外は【冷徹】使いの深山みやまさんがポヤっとしたままで、上杉さんは普段の微笑み、佩丘がニヒルに無言な感じなくらいか。


 要はいつもどおりな一年一組が、ちょっと楽しくなった時のムードということだ。


 俺たちはなにも、悔しさで自棄やけになって、無理をして笑っているわけではない。シシルノさんだってそう。

 わからないことがわかったから、そういう一歩から得られる納得の達成感にアガっているのだ。


 全部が思い通りに一手で判明するなんて、そんな都合のいいことばかりじゃない。

 俺たちはそれを何度も繰り返して、こうして笑っている。クラスの全員が一緒になって、これからもこうしていくんだろう。



「ガラリエ。君には同情するよ。勇者を継ぐということは、アレの体得だ。騎士の常識、兵士の常識、それどころか人としてのナニカ、全部を崩しながらの塗り替えになる」


「そちらについては大丈夫ですよ。わたしはずっと見て、体験してきましたから」


「そうか……。やはり君だね。俺にアレは無理そうだよ。わかっているつもりではあったのだけど、年かな」


 バカ笑いをしている俺たちを見守るヒルロッドさんとガラリエさんだけど、そっちだってちゃんと笑っているじゃないか。


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