第366話 十一階位の持つ意味



「誰の階位も上がらなかったのは、ちょっと残念ね」


 ひとしきりみんなで笑ったあとで、サメをフヨフヨと浮かせた綿原わたはらさんがポツリと呟いた。


 そういえばそうだったな。

 魔獣に神授職があるのかどうかの検証に頭が行って、階位のことが後回しになっていた。


「えっと、トドメを持っていったのはひきさんが二体で、あとは草間くさま海藤かいとう野来のきってことでいいのかな」


「牛のトドメ、野来か俺かは怪しいけどな」


 俺のまとめにイケメン系オタの古韮ふるにらが修正をくれる。

 女王様の実験台になった牛のトドメはたしかに疋さんが刺したが、もう一方の牛の方は乱戦の結果でラストアタックは曖昧なままだ。


 ともあれ、今回の戦闘で十一階位を達成したヤツはいないのが現実だ。

 けれど前衛十階位は大型魔獣ならあと二体か三体でレベルアップが見込まれるわけだし、作戦名『ガンガンいこうぜ』は続行だな。実態としては魔力を節約しながらの『丁寧にやろう』も同時並行ではあるのだが。


 どっちなんだろう。



「実験で結構魔力使っちゃったし、残りの【神授認識】実験は野菜と鳥、できれば丸太くらいでいいですよね?」


「そうだね。本当は同種の個体差も調べたいところだが、そちらはたぶん無意味だろう。それは『次回以降』かな」


「まだ……、やるんだな。君たちは」


 まだまだ実験は終わらないという趣旨の発言をした俺にシシルノさんが大きく頷いてくれるのだけど、ヒルロッドさんはげんなりムードだ。さっきまでは笑っていたクセに。


 俺としても三つ又丸太と意思疎通とか、もはや超ファンタジーかSF、もしくは童話かとも思うのだけど、ここまできたからにはなあ。迷宮の深部にユグドラシルとかがあったりして。

 それにしてもシシルノさん、次回以降ときたか。やる気があって大変よろしい。


「狙いたいのは、やっぱり野菜か鳩だよね」


「選べないんだし、片っ端からだろ。時間が惜しい」


八津やづ深山みやま奉谷ほうたにを優先、でいいんだよな」


「まずはアヴェステラさんと女王様っしょ。なに言ってんのさ、馬那まなはさぁ」


「あ、すまん」


 クラスメイトたちが好き勝手を言っているが、優先度では八階位のアヴェステラさんが一番、つぎに九階位の女王様だ。


 八階位の後衛を四層に連れてくるというのはアウローニヤ的に異常行動だが、そんな常識は『緑山』には通用しない。むしろ推奨行動ですらある。

 厳重な警護態勢という条件付きではあるが、本来そう簡単には四層の魔獣を倒せないはずの後衛をレベリングする手法は確立されつつあるのだ。



 成果はハッキリと出た。二日目を待たず『緑山』が目指していた目標はほぼ達成されたのだから。


 すなわち全員の十階位と、できれば十一階位を増やすこと。そして【聖導術】の取得で魔力を大幅に失ってしまった上杉うえすぎさんのリカバリーと、前衛ヒーラーと魔力タンクとして【聖盾師】の田村たむらと【雷術師】の藤永ふじながの強化。

 本来後衛職であるこの三人を十一階位にすることができたのがデカい。


 前衛系は大型魔獣を相手にしていれば自然と十一階位は増えていくので、あえて条件を付けてレベリング対象となるのが【魔力観察】で魔力不足に陥った【観察者】の俺、ヒーラー、バッファー、魔力タンクとして活躍する【奮術師】の奉谷さん、遠距離魔術師兼魔力タンクの【氷術師】な深山さんということになる。


 この先も『芋煮会』は大切な行事だということだな。



「シシルノさん、ここからの検証は短めでいきますよ?」


「もちろんだよ。種別ごとに一分程度で十分だろう。結果は予想できているしね」


「ですよね」


 いちおうシシルノさんの意志を確認して、同意見である確証は得られた。


 すでに実験は九割方終わっているというのが俺の認識だ。今のところ魔獣と人間は相反する存在でしかない。


 共通点として魔力というものを纏ってはいるが、相互反発するという現象だけが確実で、それ以上は謎のまま。技能や階位、神授職の有無については不明。

 藍城あいしろ委員長や医者の卵な田村みたいな理系なヤツらに言わせれば、体を構成している物質も地上の生物と共通だというくらいか。食べることができて、ちゃんと消化されてるものなあ。



「よしっ、ここから出てくる小型は全部女王様とアヴェステラさんに回す。いいよな?」


「おーう!」


「二人は最低でも十階位。できれば女王様は十一階位だ」


「おう!」


 ここからの行動指針を明確にしておくために言葉にすれば、全員が大声で返事をしてくれる。


 名指しされた女王様とアヴェステラさんはコールに参加しなかったけれど、ここからはあなたたちが主人公だ。

 ちなみにヒルロッドさんたちミームス隊の面々は、すごく微妙そうな顔になっているけど、そっちは見ないふりをしておこう。



 アウローニヤ的に十階位が大きな意味を持つのは、それが『三層の限界階位』だからだ。

 もちろんレベリングの内容や実戦経験次第ではあるので、十階位だから三層なんて楽勝とは言い切れないのだけど、それでも建前上はそういう扱いになる。


 それに対して俺が今ハッキリと口にした十一階位とは『四層で戦った証』と言えるだろう。

 王国としてはそれほど重視されない階位ではあるが、それは十階位の人間が四層に挑めば自ずと達成できてしまうからに他ならない。


 王国軍の兵士でも近衛騎士であっても、全ての行動は上からの指示に従うのは当たり前なので、四層に挑めという命令が下りるかどうかが十階位と十一階位のあいだに挟まる。

 そしてほとんどの場合、誰も四層には潜りたがらないのだ。


 やるとすれば立場上やむにやまれぬケース、たとえば近衛騎士団長クラスの人たちや、それと行動を共にする部隊なんかがそれに当たる。

 ほかにはヒルロッドさんみたいに教導騎士だからとか、軍や近衛騎士がいくつか最強部隊を用意しておきたいという、組織の都合で四層に入るなんていうのもあるな。


 最後に純粋に強くなりたいからと志願する猛者もいるらしいけれど、この場合は普通に最強部隊に編入されるので条件としては重複してしまう。


 そんなわけで、ガラリエさんが十一階位を達成したことは本人の心意気でも俺たちの気分としても快挙ではあるが、なんのことはない、四層に挑む気概と『緑山』の都合が一致しただけが理由だ。

 もちろんそれを軽く扱うつもりはないが、とんでもない異常事態というわけではない。

 盛り上がりはしたので一年一組としては大歓迎だったけどな。



 さてここで、女王様が十一階位になったとすれば、それの意味するところは巨大だ。


 ここまでのアウローニヤ十一階位事情は、全て前衛職であることが前提となっている。

 そもそもこの国では後衛職を四層でレベリングするなどという考え自体が存在していないから、後衛の十一階位という存在が意味不明なのだ。

 だって後衛職に四層の魔獣なんて、倒せるはずがないんだから。


 前衛職にとっての十一階位とは十三階位への入り口かもしれないが、後衛職からしてみれば、そこはもうアンタッチャブルな領域だ。


 やったな上杉さん、田村、藤永。君たちはもう、王国的に意味不明な存在に到達しているんだよ。



「あの、陛下の目標は十階位では?」


 女王様を十一階位にすると明言した俺に、アヴェステラさんがおずおずといった感じで再確認してくるけれど、聞き間違いじゃないから安心してほしい。


 今日の重大目標には女王様とアヴェステラさんの十階位達成がある。

 女王様は自ら進んで、そして忙しい中のアヴェステラさんは俺たちがワガママでお呼びした今回の迷宮だけど、来てもらった以上はしっかりと成果を持ち帰ってもらいたいと思うのだ。


 だからちょっと不審がっているアヴェステラさんに俺は笑いかける。


「やだなあ、アヴェステラさん」


「ヤヅ、さん?」


 さて、俺は今、どんな顔をしているんだろうなあ。


「女王様は十階位になったら【身体強化】ですよね? そしたら十一階位なんて、楽勝ですよ。楽勝」


 だって女王様、【身体強化】を候補にしているんだぞ? 十一階位なんて軽い軽い。ははっ。

 だよな、わが柔らかき友たる夏樹なつきよ。うん、ちゃんと頷いてくれているな。やはりアイツはわかっている男だ。


「あの……、みなさん? ワタハラさん?」


「諦めてください」


 俺がダメになっていることに気付いたアヴェステラさんはあたりを見渡し、最後は綿原さんに縋ってみせるが、返事はノーだ。当然だ、綿原さんは俺の理解者なのだから。

 何故かサメが申し訳なさそうに頭を下げているが、どういう意味なんだろうな、アレは。


「やりましょう。導いていただけますか? ヤヅ様」


「ええ、ええ、もちろんですよ」


 うろたえるアヴェステラさんを他所に、キメ顔になった女王様が決意を表明すれば、俺は怪しげな返事をするのだ。


 なんか俺の頭の中にシシルノさんがインストールされているような気がする。

 異世界に飛ばされていろいろあったせいか、俺も成長したんだな。一歩大人に近づいた気分だよ。



「女王様が十一階位の【導術師】になったら、もちろん発言力も上がりますよね?」


「それはもう。望外の申し出です」


「ならやりましょう」


「はい」


 我ながら胡散臭い申し出だとは思うのだけど、女王様は相変わらずの度量の深さで微笑んでみせる。

 むしろ横にいるアヴェステラさんの表情がよろしくない。知的クールタイプキャラだったはずなのに、今はむしろヒルロッドさんサイドになっているような。


 クーデター以前の時点で女王様の階位は五だった。

 それは広く知られていたわけで、そんな女王様が戴冠式で十一階位になっていたとしたらどうなるか。十階位どころか七階位ですら驚異的なのに、後衛職としては超常の領域たる十一だぞ?

 周りに与えるインパクトとしては想像を絶するレベルになるだろう。


 俺の持ちネタみたいになっている身体系技能に対する嫉妬については置いておくとしても、やらない手はない。

 目の前にいる女王様は使えるものならなんでも使ってしまう人だ。そこには自らの命までが含まれている。


 痛快さと今後の展望、俺と女王様の思惑は一致した。やらいでか。


「八津くん、楽しそうなところ悪いんだけど、決意表明が終わったなら動きましょうよ」


「……そうだね」


 呆れたように肩を竦める綿原さんの一声で、俺たちは移動を開始した。サメが俺の背中を追い立てているんだけど。



 ◇◇◇



「索敵重視だ。どうしようもない道中の魔獣以外は、とにかく野菜か鳩を優先しよう」


「鳩は音が拾えないのがねぇ」


 俺の提案にチャラ子な疋さんが偵察担当として問題点を指摘してくる。


 四層に降りてすぐに戦闘になった広間から移動して三部屋目、二戦目はまだだが、ここから先は昨日周回したルートから外れることになる。

 当然偵察をしっかりしないと危険度が跳ね上がるし、さらに今の俺たちは野菜を求めているのだ。食物繊維的な意味でなく、倒しやすさという点で。


 よって偵察の重要性は非常に高い。


「そっか、鳩はこっちを探知しない限り動かない……。リンゴと似たタイプだもんな」


「だからって適当に引きずり出すのはマズいっしょ? あっちのが速いんだし」


「ああ。戦うタイミングがズレて変に魔獣がダブったら面倒事になる」


 ちゃんとしてるんだよな、疋さん。口調や仕草はチャラいんだけど、根っこの部分がマジメというか。


 彼女は前線の調整をするようになってきた藤永のさらにうしろで二列目を見てくれているし、アタッカーのまとめ役としては一番かもしれない。格だけなら圧倒的に滝沢たきざわ先生なんだけど、あの人はフリーで動いてもらった方が戦力になるタイプなんだよな。


草間くさまはどう思う?」


「僕が単独で動いて気配を見つけた部屋をさ、残り三人で調べるってのは?」


 とはいえ、やはり偵察に関してならば【忍術士】の草間が一枚上手だ。


 俺の問いかけにも、自分なりに理屈を付けて即答してくれた。

 草間が魔力の燃費を無視して【気配察知】と【気配遮断】の両方を使い続ければ、魔獣に感づかれる危険性はほぼ回避できる。チーターだよ、チーター。


 つまり自分が先行してある程度当たりを付けてから【聴覚強化】持ちの三人、疋さん、中宮なかみやさん、はるさんにチェックをしてもらえば、ということか。アリだな。



「話してる時間がもったいないよ。予定の経路は四番だったよね?」


「そうだ。行ってくれ。こっちは一部屋前進して──」


「聴覚組は二部屋目で待機、だね」


「ああ。頼んだ」


「了解」


 つぎの瞬間【気配遮断】を使ったのだろう、すっと気配を薄れさせた草間は、風のように走り去って行った。続けて中宮さんたち『聴覚組』も走り出す。


 なんか草間が忍者していてカッコいいんだけど。しかもクノイチを三人も引き連れているとか。

 アイツはワザと影を薄くしているせいで、王国ではあまり名を知られていない。一緒に偵察をやった経験があるヘピーニム隊の斥候さんたちは草間の凄さを承知しているが、知名度などは一部マニアが知るくらいでそう高くないのだ。



「なあ、草間にあだ名を付けてやらないか?」


 俺がなにかを言葉にする前に、こちらの意を汲んだイケメンオタな古韮ふるにらのジャストミートな提案に、自然と顔が緩んでしまうのが自覚できる。

 さっきの女王様との会話といい、今日の俺はこういうノリが多い気がする。それでも──。


「カッコいいのが……、いいな。草間がとても喜びそうなのを、みんなで考えよう」


 俺はシシルノさんから悪影響を受けた笑みを浮かべて、みんなに提案するのだ。


 外様だなどとビビっていた俺はどこへいったのやらだな。そもそも、慣れ親しんだ友達がいた中学の頃でさえ、こんな風に自分から悪い提案をしてことなんて、何度あった? ちょっと思い出せないのが虚しい。


 俺ってアウローニヤにやってきてから、しっかりと山士幌風の悪ガキムーブが身に付いたのかもしれない。それがたまらなく楽しくて、嬉しいのだ。



 ◇◇◇



「見つけたよ。気配アリで音ナシの部屋。鳩で間違いないと思う」


「マジかよ」


 斥候以外の全員で一部屋だけ移動してから五分も経たないうちに、草間たちニンジャ戦隊は戻ってきた。

 しかも朗報を抱えてだ。草間のあだ名についてはまた今度だな。


「うん。三の八に七体か八体。けどたぶん、そこで戦闘してたら、三の十一からほかの魔獣が嗅ぎつけてくると思う」


「そっちは?」


「牛か馬が十体くらい」


「重たいなあ」


 その時点で草間のもたらした素敵な情報が一転、微妙な報告に変化してしまった。


 草間の言う三の八はここから二部屋目にある広間のことで、道中に魔獣はいないそうだ。そこにハトが待ってくれている。ここまでは完全な吉報だな。美味しすぎる展開とすら言える。なにせ相手がハトならば、ジャガイモやダイコンと違って煮込む手間が省けるのだ。


 だけどそこで戦闘に入ると、牛やら馬やらが十体乱入してくる、と。


 やっぱり狩りの手が入っていない四層はヤバい。

 階段からそれほど離れていないのに泥仕合とか、勘弁してほしいのだが。さて、どうしたものだろう。


「あの、わたくしが【魔力定着】を使うというのは」


「場所がちょっと。やるとしたら三の九になるんですけど、そこだとほかの魔獣を呼び寄せかねないので」


「そうですか……」


 迷宮内で俺たちのやり方に口を出すのにも勇気が必要だったろうに、それでも女王様は提案をしてきてくれた。

 だけど申し訳ないが、今回は却下だ。俺もまた女王様の発言を否定するのは心苦しいが、言うべきことは言わなければいけない。


「でも提案は歓迎です。これからも遠慮なんていりませんから」


「はい。ありがとうございます」


 とりあえずのフォローだけはしておくが、俺だけじゃなく、ほかの誰かにも頼っておいた方がいいかもしれないな。天然モノの御使いをしている奉谷さんあたりが適任だろうか。

 いや、今はそうじゃない。



「分割するしかないんじゃないかしら」


「やっぱりそうなるよな」


 偵察モードから戦いの鬼へと雰囲気を切り替えた中宮さんが、戦法を提案してくる。

 俺も考えていたことだったので、思わず肯定の言葉がこぼれてしまった。


 迷宮探索はゲームではないし、パーティとかのように人数制限があるわけでもない。

 俺たちが一塊になって行動をしているのは、単純に安全性が高いのと連携の自由が効くからだ。理屈さえ伴っていれば別れて戦うことを禁止されているわけではない。実際、さっきも偵察隊が単独行動をしていたくらいなのだから。


「前衛が連戦になるし、手際が大事になるけど、やれる?」


「鳩が八体。全部の角を折って、羽を一枚か二枚千切ればいいだけでしょう? ウチの前衛なら三分でイケるわよ」


 ガンギマリな顔になっている中宮さんは、実に物騒な想定をポジティブに表現してくれた。怖すぎる。


 ハトの特徴は、空を飛ぶことと、その速さ、そして尖った角だ。中宮さんの言うとおりで、角を折って、羽を千切れば無力化できる。

 そしてすでに俺たちは敵の速さと挙動を知っているのだ。そんな前提を踏まえて、中宮さんは三分だと言い切った。



「えっと、後衛から参加するのは田村たむらだけ。前衛から抜くのは草間。その条件でヤレると思う人は挙手。ミームス隊とガラリエさんも含めて」


「おうよ!」


「楽勝デス!」


「いけるよ、な。うん」


「後衛職は俺だけで、藤永は無しってことでいいんだよな?」


「まあ、俺たちはやれると思うよ。むしろそのあいだ、陛下の護衛が、ね」


「わたくしは構いません。クサマ様がいてくださるのですよね」


「この場合、素早く倒すのが、むしろ安全なんでしょうね」


 俺の言葉にめいめいが思うところを口にしながらも、それでもバラバラと手が挙がっていく。


 その数は最終的に二十。一年一組の前衛が十一で、田村が一。ミームス隊が七人いて、ガラリエさんが一というのが内訳だ。この場にいる前衛職のほぼ全員を投入する。


 後衛職というお荷物を抱えない前衛フルメンバーが速攻でハトを無力化し、そのまま馬や牛の迎撃に切り替える。前衛には厳しい連戦になるだろうけど、残された後衛組だって絶対安全とは言い難い。イザとなれば逃げることになる可能性もある。


 それでも、だよな。前衛のみんなが手を挙げてくれたんだ。その意気を買わないでどうするか。



「突入組の名前は『ヒキ隊』。もちろん隊長は疋さん」


「ダメっしょ。そこは『アサガオ隊』じゃないとさぁ」


「了解。『アサガオ隊』だ」


「うっへへぇ。アタシが隊長さんかぁ」


 ガリガリの前衛ではなく、射程距離があるムチを手に一歩引いた位置で【視覚強化】【視野拡大】【聴覚強化】を持っている疋さんは、前衛職の中では一番指揮に向いている。なにより本人がやる気なのが最高だな。


「じゃあ八津さ、アレやろうよ」


「アレ?」


「アイコピーっての、アタシ言ってみたかったんだよねぇ」


「現地に着いてからだよ、それ。ここはまだ俺が隊長」


「けちー」


 うん。こういう気軽な感じは俺に出せない、疋さんなりのいい味なんだと思う。


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