第356話 さっそく技能をぶん回す
「牛か馬だよ。……七体」
「ダメだな。俺にはわからない。ってか視界が通ってないのはムリに決まってるだろ」
「適材適所ってね。それより
「ああ。任せてくれ」
メガネ忍者な
予定時間を大幅に超過してしまった『緑山』一行は、巡り終わっていない十三番階段付近の部屋をうろつきながら魔獣を探していた。
とはいえ掃討が全く進んでいない四層だ。階段付近であっても魔獣には困らない。処理できないくらいの群れが出てきたら逃げ一辺倒にでる予定ではあるし、もちろんそのためのルートも想定しながら移動しているくらいだ。
で、今回は牛か馬が七体。一度に相手するにはわりと多いが、こちらにはミームス隊とガラリエさんもいるので、一体当たり二人の騎士を付けることができるのが強い。
ヒルロッドさんをシシルノさんの護衛から外すことにはなるが、代わりはそうだな……。
「
「おっけ~」
「うん。いいよ」
本来だったら十一階位を達成している
彼女たちにはむしろ最前線で積極的に魔獣を弱らせてもらうのだ。そっちの方が効率がいい。
「順番は
「おう!」
「あったり前デス!」
みんな放つ威勢のいい声に混じる十一階位のエセエルフ、ミアの自信満々さが一番心配なんだけどな。まあ、十三階位までは倒してしまうのもアリといえばアリか。先生や中宮さん、春さん、そしてミームス隊のみなさんは手加減をわかってくれているだろうし、そっちは全く心配していない。
レベリングの順位付けは、ヒーラーの【聖盾師】田村を最優先で、次点で魔力タンクの【雷術師】藤永となる。馬や牛なんていう大物なら三体から四体で十一階位はイケると踏んでいるので、委員長の出番まで回ることはないと思うが、いちおう指名はしておいた。
田村と藤永は、現状における前線維持の要ともいえる存在だ。硬いヒーラーと魔力タンクがすぐ背後に控えているからこそ、前衛で盾となってくれている騎士組が心置きなく技能を使い、怪我を惜しまず戦えているのだから。
ちなみに最優先とされている俺や【聖導師】の
やっぱりこの世界のレベルアップシステムはバランスが悪すぎると思うのだ。
「とはいえテーマも守らないと」
「ボクもみんなが痛いのは嫌だし、
思わずこぼした呟きだけど、即座に意図を解した元気ロリな
こういう反応ができてしまう奉谷さんの感性が俺には眩しいよ。
見た目や言動のとおり、彼女は感覚派なタイプなんだけど、それでも副官、ヒーラー、バッファー、魔力タンクなんていう計算高さが必要なロールができているあたり、地頭は俺より絶対上だと思う。伊達に旧一班の班長をやっていたわけでもないし、建前上でも現在の第一分隊長なだけはある。
さて、そんな奉谷さんに、早速頼らせてもらうことにしよう。
「奉谷さん、初手で田村と藤永に【身体補強】。それ以外は任意で。それと全体指揮も」
「うん!」
「せっかくだから、みんなに言ってやってくれ」
「みんなっ! 怪我しないようにねっ!」
今回のテーマを奉谷さんに言わせれば、そうなるらしい。
魔力節約の第一歩は【聖術】を使わないことだ。ヒーラーの行使する【聖術】は術者だけでなく、対象者の魔力も消費する。急速に怪我を治すという魔術はお互い魔力をドカ食いしてしまうのだ。ならば使わないように気を付けて戦えばいい。
今回の場合、トドメを刺すのを担当する田村への応援にもなるからな。
「おう!」
みんなの威勢のいい声が響き渡る。
そろそろ隣の部屋にいる魔獣も、こちらのことを察知しただろう。
相手が馬にしろ牛であろうとも、どちらも突進力をウリにしている魔獣だ。待ち受けるよりは、こちらからの突撃が望ましい。
「『緑山』前進。作戦名は『丁寧に』だ。戦闘時間は長引いても構わないから、技能の使いどころを見極めて、怪我をしないように気を付けよう」
「おーう!」
なんで俺のコールに対する返事は間延びしているのだろう。
奉谷さんの掛け声と違って、シンプルな感情表現が足りていないのかもしれない。悔しいけれど、このあたりは人徳の差が出るというものだ。
さて作戦名についてだが、技能の熟練度を上げるには使い続けることが一番大事だが、それと同時にオンオフを繰り返すことも重要となる。こちらについては米騒動の時に【平静】を切り替えまくった経験もあって、骨身に染みているのが一年一組だ。
ついでに言えばその技能が必要とされるタイミングであるとか、なんなら迷宮の中で使いまくるというのも大きな要素だな。
それを意識して戦いましょうというのが今回の主旨になる。武術家にして副委員長たる中宮さんからのお達しだ。
熟練度をひっくるめたゲームシステムが複雑であること自体、ゲームとしてプレイするなら楽しいのだろうけど、リアルだとシンプルな方が助かるよな。だがそうすると現地の人たちがとっくに攻略法を確立してしまっていて、俺たちが隙を突くようなマネができなくなるのが考え物か。なかなか難しい。
ガッツリチートで楽々レベルアップとかなら望ましかったけれど、それはそれでツケ上がってしまいそうだし、チーレム主人公なんて俺には絶対似合わない。
よって、目の前の現実を見つめるとしよう。
今回の戦闘では俺にも重要な役割があるからな。
「じゃあ奉谷さん、前線の指示出しは藤永がやってくれるから全体をよろしく。トラブルがあったら俺に戻していから。ユーコピー?」
「一回言ってみたかったんだよね。アイコピーだよっ。さあ、全員進めぇ!」
俺は全体指揮を奉谷さんに委ねる。
受け取った彼女は、それはもう嬉しそうに進撃を宣言するのだ。楽しそうだなあ。
「行くぞおらぁ!」
ヤンキー【重騎士】
◇◇◇
「赤紫ですね。迷宮と同じ色だけど、濃い目ってところです」
「そうなんだろうね。血の色と一緒というのがなかなか良い趣味をしている」
「悪趣味っていうんですよ、それ」
どうやら俺とシシルノさんの感性は一致していないようだ。
残念ながらバンドは結成できそうにない。楽器なんて欠片もできないけどな。
前線で技能を控えながら盾を構えて頑張ってくれている騎士たちとは真逆で、俺は【魔力観察】と【観察】をぶん回し中だ。
さっき人間の魔力は見た。迷宮の魔力もだ。そしてここでは魔獣の魔力を観察する。
「区別はつきそうかい?」
「いえ、全然です」
「ふむ、それは残念だ。それでも大切な発見だね」
この部屋にいた魔獣の内訳は牛が四体で馬が三体。だけどシシルノさんに説明したとおり、魔力の色の違いは区別できていない。牛同士はおろか、牛と馬でも全く同じ色に見えるのだ。
もちろん形状の違いは明らかなので、そういう面では判別できるが、そんなのは普通に見れば誰にでもわかる。
そしてシシルノさんの言う発見とは──。
「少なくとも牛と馬に違いは見当たりませんし、こうなると野菜型や木材型とかも見てみたくなりますね」
「ああ、果物『たいぷ』も気になるよ」
なんでそこで無理してまで英単語を使うのかな、シシルノさんは。
魔獣が魔力を持っていて、それで活動しているなんていうのは常識中の常識だ。シシルノさんの【魔力視】で観測もされているし、これが覆されると魔獣の魔力を掌握するなんて表現をされているレベルアップシステムの根底にまで話が及びかねない。
ここで大切なのは魔獣の持つ魔力の有無ではなく、色だ。正確には人間の持つ色との違い。
「赤紫だとヤヅくんは言ったが、我々とは明らかに違うということでいいんだね?」
「はい。それは間違いありません」
コレが大きいのだ。
白い俺たち、青や緑系の人間、そして魔獣は赤紫。しかもシシルノさんたちに色があるといっても、ほとんど白に近くて、一年一組地球人とそれほど違わないくらいだ。
だけど魔獣はハッキリと赤い。なるほど、これは魔力の相殺が効くはずだ。
「シライシくんの【奮戦歌唱】が魔獣にかからない理由、というのは冗談にしても、全く別種の生物なのだと魔力でも実感できるのは嬉しいね」
「嬉しいんですか?」
「それはそうだよ。人間がアレらと同じ色の魔力を持っているなど、考えたくもない」
シシルノさんは事実を淡々と受け止めるタイプで、魔獣と人間の違いなんて構造にしか興味を持たないかと思えば、そうでもなさそうだ。ちょっと意外だな。
魔力があるのが常識な世界の人からしてみれば、そういう感想になるのかもしれない。地球人的感覚で表現すれば腕や足の数が違うとか、そういうレベルで。
今までは経験則と仮説の積み重ねで色の違いを認識していた人と魔獣の違いが、こうして技能で観測されたのだ、もしかして俺ってこの世界の歴史に名前が残るんじゃないだろうか。
「実証した者、【観察者】コウシ・ヤヅの名は責任をもってわたしが残してあげるとしよう」
俺の心を読み取ったかのようにシシルノさんが余計な企てを暴露してくる。
「勘弁してください。できれば『シシルノ・シライシ理論』で」
「八津くん、聞こえてるんだけど」
しまった。【騒術師】の
チラっと振り返ってみれば、丸メガネの向こう側にジト目が見える。うん、悪くないな、メガネジト目。あ、さらにジト目がキツくなった。
サメとかメガネとか、最近の俺は変なツボが増えている気がする。これは良い傾向なのか、それとも……。
「それにしてもシシルノさん、こんな見え方によく折り合い付けられますね」
「大丈夫さ。君だって【観察】と【視覚強化】を合せるのには慣れたんだろう? 要は付き合い方だよ。長い時間が必要な」
気を取り直してシシルノさんに話を振ってみれば、根性論が返ってきた。科学と精神の両立か。
実際に使っていると、これで結構キツいのだ。実戦と想定したとして【魔力観察】と【観察】を維持しながら指示出しをできるとは思えない。
現に今は前線を藤永とヒルロッドさんに任せっぱなしにしているくらいだ。
「育てるんだ、ヤヅくん。わたしの【魔力視】は十年を掛けて磨いてきたんだよ?」
「……十年もこっちの世界にいませんよ、俺たちは」
「そうだったね。ならばもっと努力が必要なんだろう。君たちには言うまでもないか」
魔力量任せにたくさんの技能を取っている俺たちだが、熟練と意味ではまだまだなんだろう。なにせ現地の人たちは、シシルノさんが言うように年単位で熟練度を上げている。
それでも迷宮で使い込んでナンボと考えるなら、俺たちの成長速度は凄まじいことになっているハズだ。十年どころか一年以内に追いつき、そして追い越してやるさ。
そもそもその前に帰還するんだけどな。
「ではヤヅくん、大変だろうと思うが」
俺が決意を新たにしていたところで、らしくもなく申し訳なさそうな表情でシシルノさんが声を掛けてきた。
もちろん俺に異存はないし、覚悟だってできている。前線連中が体を張ってるんだ。俺だって。
「今のところは判別できてないですし、仕方ないです。白石さんゴメン、イザとなったら支えてくれるかな。それと【魔力譲渡】も」
「うん。わかった。気を付けてね」
すぐうしろにやって来た白石さんがこちらの背中に両手を当ててくれるのを感じたところで、俺は意識を集中させる。
「【視覚強化】」
あえて言葉にすることで自分の想いを明確にする。これが意識高い系ってやつかな。ははっ、これからやって来るだろう衝撃に備えた現実逃避だよ。
すでに【魔力観察】と【観察】を使っているし、そこに【思考強化】と【一点集中】、さらには【平静】も被せてある。たぶん【痛覚軽減】は意味がないだろうからオフのまま。さあ、どんとこいだ。
「くっ」
見えているモノと動きが一気に微細になって脳みそに流れ込んできた。出すまいと思っていたうめき声が漏れてしまう。
【視覚強化】と【観察】を同時に動かした時に起きる、俺的にはfpsつまりフレームレートが上がったようだと表現する、あの感覚だ。
「八津くん大丈夫?」
「ああ。問題、ないさ」
前方にいる
彼女だって戦闘中で、今もサメを操りながら魔獣を牽制し続けている。戦っているんだ、俺と一緒に。
ヌルヌルと動くアニメの超作画のように、それが色の粒子になって視界に飛び込んでくる。こんなのに慣れるとか、あり得るんだろうか。
「ヤヅくんっ」
「色は……、変わってません。手足も、目も、頭も角も、偏ってないし、全部っ、一緒、平坦で」
「そうか、よく見てくれた。まだいけるかい?」
まったくもってシシルノさんは容赦がないなあ。
「やりっ、ます。白石さんっ」
「うんっ」
技能の被せ掛けでゴリゴリ削れていく魔力を白石さんの【魔力譲渡】で補充してもらう。
俺単独でやったらたぶん一分も持たないぞ、これは。
◇◇◇
「ふぅーっ」
「よくやってくれたね」
大きく息を吐いた俺に、シシルノさんがねぎらいの言葉をかけてくれた。
時間にして二分くらいだったが、かなりキツかった。俺と白石さんの魔力がほとんど飛んだかもしれない。
ここから先は技能を取るより魔力温存が得策なのかもしれないな。だけど俺、【身体操作】がまだなんだけど。
「お疲れ様」
「白石さんもありがとう」
俺の背中から手を放した白石さんがシシルノさんの横に並ぶ。もしかしなくても検証結果の考察に参加したいのだろう。白石さんも結構好きだもんな、この手の話題。パートナーの
「結論としては、まったく変化無しです。もちろん戦闘で魔獣本体の魔力は減っているんでしょうけど、そっちは俺にはわからないので」
「上出来さ。さて仮説を並べてみようじゃないか。まずはわたしからだ」
俺の言葉に満足そうに頷いたシシルノさんが指を一本立てる。シシルノさんを挟んで反対側に立つ白石さんのメガネが光った。ウチのメガネグループときたら。
「ヤヅくんの【魔力観察】は、まだまだ熟練度が足りなくて詳細を見ることができなかった」
いきなりキツいことを言ってくれるシシルノさんの顔には悪い笑みが張り付いている。
「八津くんにはわたしたちの技能が見えていたので、それは違うかなって思います」
「そのとおりだよ、シライシくん。加えるとすれば魔獣は技能を隠すなにかをもっている可能性も考えられるかな」
そう、俺たちが今やっているのは……、前線では激闘が続いているのだけど、それは置いておいて、『魔獣ははたして技能を使うのか』についての検証だ。
俺は人間の使う技能を見切ることに成功した。魔力が局所に強く出るようなパターンや全身に効果があってもオンオフで濃さが変わるのならば、技能の痕跡を見つけることは可能なのだ。
現にさっきまで【魔力観察】をしていて、人間側が技能を使う瞬間は全部見えていた。なのに魔獣のほうはさっぱりだったというのが大きな成果となる。
「ヤヅくんからはどうかな?」
「局所系じゃなくって全体に効くような、たとえば【身体強化】みたいなのをずっと使い続けている、なんてどうですか?」
「なるほど、それはあり得るね」
「でも、それって技能というより普通に外魔力ですよね」
自分で言っておいて、自ら覆すのだから世話はない。
「ではシライシくん?」
俺の言葉を受け流しながら、シシルノさんが今度は白石さんに話を振った。
「えっと……。魔獣って技能の出し惜しみをすると思いますか?」
「シライシくんはそういう視点か……。ないだろうとわたしは思うよ。あったとしたら、それはそれで大発見だ」
「わたしも八津くんみたいなコト言いますけど。途中から強くなる魔獣なんて、資料で見たことなくって」
「はははっ、疑問を口にしてそこからの否定は、ひとつの思考方法だとわたしは思うよ」
シシルノさんは楽しそうに笑っているが、白石さんの考えには同意できる。
ダメージを負って弱くなるなんてことはあっても、途中から覚醒したように強くなる魔獣など、出会ったこともないし資料にも存在していない。
もしも魔獣が技能を使っているとしたら、全身に効果があるタイプで、しかも最初から全力だろうと推測できる。この結論は俺が『見た』魔力の色の濃さとも一致する。
それくらいベタ塗りのように均一なのだ、魔獣の魔力は。
「今の段階ではその辺りが落としどころなんだろうね。一番あり得そうなのは魔獣は技能を持っていない。少なくとも目や頭に魔力が局在するようなこともなさそうだ。立派な研究結果だよ、ヤヅくん」
まとめに入ったシシルノさんがニヤリと笑う。実にいい笑顔だ。
「そして魔獣は階位を……、正確には個体差を持たないこともわかっている。これは以前から知られていることだね」
そう、シシルノさんは相手の魔力量を見ることができる。人間の場合は見比べることでおおよその階位を当てることができるのだが、魔獣の場合は同一種で異なる魔力量を持っている個体を見たことがないそうだ。
魔獣は魔力的な個体差を持たない。シシルノさんの経験則だけではなく、これは数百年前からの常識らしい。
つまりレベル二のカエルがいるとして、レベル一やレベル三のカエルはいない。仮にいたとしたら、それは外見からしてもう別種のカエルだ。迷宮ならば丸太、【樹木種】がそれにあたるだろう。
「やっぱり機械みたいだよね」
「だな」
白石さんがポツリと呟き、俺がそれに答える。
クラスメイトたちと何度も話し合ったことだ。さっき魔獣を生物と呼んだが、俺たちからしてみれば、むしろアレはゲームのモンスターだ。
個体差が存在しない、同種であれば性能が全く一緒のナニカ。白石さんが言うように魔獣とは『魔力で動く機械』と表現した方がしっくりくる。素材がただ生物的なだけであって、原理は生き物じゃない。
「聞いたことがあるよ。君たちの世界にある、たしか規格化、だったかい?」
「……それって、誰が?」
「ん? たしかマナくんだったと思うが」
アイツなに知識チートかましていやがるんだ。シシルノさんみたいなタイプの人に教えたらマズいかもしれない情報じゃないか。
それとだ、いくら魔獣が同一だからって工業製品みたいなコトを言い出すものじゃない。そもそもの意味が違うと思うぞ。規格化って言いたかっただけじゃないだろうな、ミリオタな馬那よ。
「魔獣は種別ごとに同一で階位や……、たぶん技能を持っていない可能性が高い。それが今のところだね。もちろん全ての魔獣種を調べる必要は残っているが」
「明日一日、帰り道も使って調べますけど、三層と四層の魔獣だけで十分でしょう?」
「そうだね。浅い層の魔獣に特殊性はないだろうから」
やっと出てきたシシルノさんの結論だ。ご本人も満足そうでなにより。
近くではまだ戦いが続いているんだけどな。
「ところでもうひとつ検証したいことがあるんだよ」
「まだなんかあるんですか」
引き出しの多いシシルノさんに、さすがに呆れたような声が出てしまった。
「これは内緒にしておいてもらえると嬉しいのだけど、君たちは特別だ」
その言い方は止めてほしい。それじゃあまるで共犯者になれって感じじゃないか。
俺はすごく聞きたくないんだが、白石さんはなぜメガネを光らせているんだろう。まさか知りたいのか? 止めておいた方がいい。絶対ろくなもんじゃないはずだ。
「魔獣は神授職を持たないとされている。神より授かりし神聖な職を魔獣が持つはずもないからね」
技能、階位とくればつぎは当然神授職、か。実にシシルノさんらしい考え方だが、いくらなんでもムリがあるんじゃなかろうか。直感的な俺の感想としては、持っているわけないと思うんだけど。
だけど確かめる方法、ある……。あるけど、それって!?
「【神授認識】だよ。以前軍部に話したことはあるのだが、拒否されてしまってね」
「シシルノさん、まさか……」
「貴重な【識術師】を危ない目に遭わせるわけにはいかないそうだ。新政権なら、わたしでもそれくらいの権限は持てるかな。だがそれよりもだ……」
シシルノさんの口から出てきたセリフに白石さんが表情を固くした。
ほら、聞かない方が良かっただろう? 政治が絡んできたじゃないか。
それになにより、一番の爆弾はこの先にあるんだ。
「ちょうど適任者が迷宮に入る予定だったね。それも明日。相談をすれば快く引き受けてくれそうな人物が」
「あの、それで魔獣が神授職に目覚めたらどうする気ですか?」
シシルノさんの言う適任者の名前をあえて聞かずに、俺はひとつの可能性について問う。
そうなる心配を真面目にしているわけではなく、その適任者とやらの名を内緒話レベルで聞きたくなかっただけだ。
「それならそれで、大発見じゃないか」
「です、よね」
悪い笑みを大きくしたシシルノさんに、白石さんが小さくため息を吐いた。
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