第399話 あちらの覚悟とこちらの意地と




「その考え方ならさ、階位が上がった時の魔力って、どこから来るのかなぁ」


 ニヤリと笑い合う俺とシシルノさんに、気軽い声でド正論をブチ込んできたのはベスティさんだった。


 まさにそこなんだよな、経験値情報仮説の謎として残ってしまう部分は。


「ヤヅくん、どうかな?」


「えっと、まあ」


 片手を俺に差し出したシシルノさんは、発言をこちらに委ねてくる。


「ド本命はもちろん迷宮で、もしかしたら世界全部、ってところかなって」


「世界ときたか。大きいねぇ」


 こちらは楽しそうに両手を広げたベスティさんが、世界を指し示すようにその場でくるりと身をひるがえす。なんだか白々しいというか、演技っぽいというか。



「根拠はあるのですか?」


 こんどの問いはアーケラさんからだ。


【冷術師】のベスティさんと【湯術師】のアーケラさんはそれぞれ攻撃系術師でもあるし、魔力談義ともなれば興味も湧くのだろう。どちらかというと掃除とか風呂とか料理とかの家事全般で大活躍のイメージなんだけどな。


「地上だけで過ごす人でも、階位は上がるんですよね。三階位くらいまでなら」


 ここに来た最初の頃に出てきた話だったよな、これ。俺たちは対象外というか、全くあてにしなかった手法だけど。


 十年以上を掛けて二階位、生涯を過ごして三階位。この世界の人たちは、地上にいるだけでも階位を上げることができる。

 とはいえ、迷宮の一層でネズミを二十体くらい倒せば三階位なわけで、ちょっと頑張れば数日で達成されてしまう数字でもある。それにどうせ四階位以上は無効とか、そういう仕掛けなんだろうと想像できてしまうのだから、すぐにでも帰還したい一年一組が期待するはずもない。


「話が逸れるかもしれませんけど、勝手に階位が上がるっていう現象にも興味はあるんです」


「どういうことでしょう」


「わかる範囲で階位が上がる条件が二つあるってことです。迷宮で魔獣を倒す、もしくは地上で長い時間を過ごす。なら、ほかにもあるかもって」


「……想像もつきません」


 俺とアーケラさんの会話を、ベスティさんとシシルノさんが二人そろって腕を組みながらウンウンと頷き見守っている。なんなんだろうなあ。


 で、階位が上がる条件だけど日本人の俺たちならば、たとえばイベントなんていうのも思いつく。

 あなたに力を授けましょう的なアレだ。気付けば階位が一個上がっていましたよ、ってな。階位が上がる奇跡の果実とかでもいいぞ。


 ほかにもあるぞ。五層あたりにとてつもなく逃げ足の速い魔獣がいて、それを倒せばアホみたいな経験値が入るんだ。もちろんメタルな感じの魔獣。コレだと通常のレベリングシステムの範疇か。

 可能性だけならなんでもアリだろう。階位上昇条件がどこに転がっていたって不思議ではない。


 なにせ魔力はそこいらじゅうにあるのだから。



「話を戻しますね。地上にも魔力は溢れているし、何よりこうしているあいだにも回復はできてるんです。階位が上がる条件が達成されたら、そのあたりからなんかこう、ブワっと?」


 我ながらあやふやな表現に最後が疑問形になってしまったが、そのあたりが妥当だと思うんだ。

 今まさに【魔力観察】を使ってみれば、やはりこの部屋だって迷宮と同じく赤紫色で染まっている。濃さについてはかなり曖昧だが、魔力はどこにでも溢れているのだ。どこからだって補充はできるはず。


「条件を満たせば器が広がり、それが階位の上昇と表現される……。貯め込んだ魔力で拡張させるのではなく」


 大雑把な俺の説明に、アーケラさんは自分自身の言葉で見解を述べた。

 そうそう、この世界では『器』だったな。個人の持つ魔力の器が段階的に大きくなっていくイメージだ。


 トリガーになるのが所謂魔力の掌握か、情報としての経験値の蓄積かの違い。

 こうして議論が行われるのも、誰も魔力が蓄積されているところを『見たことがない』からだ。だからこそ異論反論の出る余地がある。


 そして、仮に魔獣討伐レコードみたいな情報が俺たちに書き込まれているとしたら……。

 実はこれに似た現象がこの世界では明確に存在している。それこそ一年一組が召喚された直後に経験したのだから。



「あの、もしやとは思いますが。わたくしの……」


「ほう。お気づきになられましたか」


 何かに気付いたかのように少し怯えたような表情で立ち上がった女王様を、シシルノさんは悪い笑みで褒め称えた。


「少々お待ちを、陛下」


 女王様に続きを語らせず、シシルノさんは愛用している薄緑の白衣のポケットからメモ帳のような物を取り出し、そこにペンを走らせる。


「ほら、アヴィ」


「シシィ、あなた何を」


「受け取ってくれればいいんだよ。そして、それを陛下にお見せするんだ」


 数秒だけでなにかを書き終えたシシルノさんはページを破り、女王様に並んで立ち上がっていたアヴェステラさんに手渡した。


 なんとも芝居がかったやり方だよな。


「【思術師】十階位……、それとこれは、魔獣の羅列?」


 タチの悪いイタズラでも書かれているのかと思ったのか、アヴェステラさんは女王様に見せる前にその紙の内容を確認して首を傾げる。

 専門外とはいえ、アヴェステラさんにしては察しが悪いな。シシルノさんの邪悪オーラにヤラれたのかも。



「アヴェステラ、見せてもらえますか? 手渡すのではなく、あなたが持っていたままで」


「はい……」


 完全に正解を引き当てている女王様が白々しい指示を出す。

 側近たるアヴェステラさんとしては、流されるまま従うしかないだろう。


「アヴェステラ、あなたは『十階位の【思術師】』ですね」


「あっ」


 女王様のその言葉でやっと理解が及んだのか、アヴェステラさんは片手を口に当てて驚きの表情となった。


 アヴェステラさんだけでなく、ヒルロッドさんやガラリエさんも驚愕している。ついでになぜか陸上女子のはるさん、チャラ男の藤永ふじながも。

 ダメだろ、日本人側がコレに気付かないとか。


「これが【神授認識】……、ですか」


「まさに『神に授けられた』情報を読み取る技能と言えますな。つまりわたしたちのどこかには、外部から参照できる魔力的な情報が存在しているのですよ。ならば階位が上昇する条件をどれくらい満たしているか、それも記載されているかもしれない。それを読み、魔力を授ける存在がいるとしたら」


「だからヤヅ様は迷宮か世界と仰ったわけですね」


 どこか納得したような女王様に対して大袈裟な表現を使うシシルノさんだけど、その神様とやらは、もしかしたら迷宮そのものかもしれないのがなあ。


 召喚の途中でテンプレな女神さまと出会っていたら、そういうものかと信じられたかもしれないけれど、あいにく俺たちはそういう存在を見た記憶がない。



 なんにしても、女王様が【神授認識】で他者の神授職と階位を見ることができるという現実が、今回の仮説に繋がるひとつの根拠だ。


 経験値なんていう単語からそこにまで思考を向けていたシシルノさんは、やっぱり大したものだと思う。それほど興味を持っていなかった魔力と階位の関係なんて、俺たちの『勇者チート』を知ってから考察を始めたのだろうに。

 いやいや、相手は大人の研究者だ、高校生の浅知恵とは下地が違うか。なにせ俺たちは数字で表現されたゲームという存在を知っているからこそ、わりと簡単にたどり着けただけで、それこそ知識チートの上で出てきた考え方だし。



「とはいえこれは仮説でしかありません。たとえば、ほかにも……、ヤヅくん?」


「なんで俺に振るんですか」


 女王様に自信満々な顔で講釈を垂れていたシシルノさんがこちらに振り返り、剛速球を投げてきた。


「君たちなら、ほかにもいろいろと思いついているんじゃないかと思ってね」


「……今のところは『情報説』が本命だと思ってますけど、『超圧縮魔力説』というのもアリかなって。ほら【魔力凝縮】がありますから」


 そう、あくまで仮説なのだ。


 複数の根拠があるとはいえ、そのうちのひとつが魔力が移動した形跡がないのと、色の違いだ。

 俺の【魔力観察】は取得してから三日目で検証が進んでいない上に、総長の一件でほぼ丸一日は使ってもいなかった。熟練も問題外といえるだろう。


 もしかしたら魔獣を倒すたびに圧縮された極小の魔力の粒子みたいなのが、瞬間的に色を変えて移動していたりするかもしれない。俺が捉えきれていないだけという可能性はあるのだ。

 女王様の【神授認識】にしたところで、階位上昇とは全く異なる理屈が働いていたっておかしくないのだし。


「あはっ、あはははっ、やはり君たちは最高だよ」


 腹を抱えて体をくの字に曲げたシシルノさんが大爆笑だ。

 ウケてくれたのならなによりだけど、周囲はドン引きしているぞ。



「同じ理屈を使えば、勇者の諸君がフィルド語を解するのにも説明がつくかもしれないね。だが紙一枚と辞書一冊。情報量が多すぎるのは、それこそ『勇者ちーと』のお陰かな?」


 ひとしきり笑い終えてから発せられたシシルノさんのセリフに、その件を気にしていた藍城あいしろ委員長と小太りな田村たむらがビクリと震えた。


 これは……、思いつかなかったな。翻訳用の何かしらが植え付けられていたのはわかるとしても、神授職や魔獣討伐レコードと同じような扱いだという考え方は。

 たしかにこれなら【フィルド語理解】なんていう技能が無いのにも理屈が通る、のか? 何かしらの効果を及ぼすのではなく、刻印された静的な情報としてなら。


「せっかく笑わせてもらったんだ。これくらいはやり返しておかないとね。さて、これにて今夜の魔力講座は終了だ。楽しかったよ」


 やってくれるな、シシルノさんめ。


 そんなシシルノさんだけど、会話の冒頭と最後にも『今夜の』と言った。

 マッドモードが抜け落ちた彼女は穏やかにニヤついているが、寂しさが混じっているのを隠しきれていない。

 そうだな、俺も寂しいよ。シシルノさんとの解析談義って、本当に楽しかったから。



「出てくる感想はひとつね」


「だな。せっかくだし一緒に言ってみようか」


 お祭りが終わったような空気の中、なんとも複雑そうな表情の綿原わたはらさんが、サメを浮かばせながらうしろから話しかけてきた。やっぱり綿原さんにも寂しさが混じっているんだろう。

 なので、せっかくだからと俺は誘いを掛けてみる。


 どうせ同じことを考えているのだろうし、ちょっとは明るく終わりにしたいから。


「せーの」


 俺が小さくコールすれば、綿原さんはモチャっと笑うのだ。魔力を纏ったサメが宙を舞う。


「『全部魔力が悪い』」


 同時に言葉を放ったのは俺と綿原さんだけでなく、周囲にいたクラスメイトたちもだった。ノリがいいなあ、おい。


 魔力談義で盛り上がる俺たちを眩しそうに女王様が見つめているが、小難しい政治や謀略よりは、こっちの方が高校生らしくていいんじゃないかと思うんだよ。

 女王様だって十六歳なんだし魔力会話も好きそうなんだから一緒に……、というのも今晩を限りで、次回がいつになるかはわからない、か。



 ◇◇◇



「最後に、ここからは情けない大人の言い訳になるのだけどね」


 時刻も二十三時を過ぎ、いよいよお開きな雰囲気になった談話室にシシルノさんの声が響いた。


 終了ムードも女王様が国の行く末を語り終えた段階を含めたら二度目ではあるのだけど、やはり名残惜しさは拭い去れるものではない。なかなか会話を終わりにできるようなものでもなあ。

 絨毯に座ったシシルノさんの声にしたところで、さっきまでの仁王立ちが嘘のように普段の覇気とは色合いが違っている。


 言い訳とシシルノさんは言ったけど、さて、どういうことだろう。

 まさかこの期に及んでどんでん返しもないだろうし、そんな人たちではないことくらい、わかっているつもりだ。


 クラスメイトたちは、シシルノさんとその傍に自然と集まり座っている勇者担当者プラス女王様に視線を送る。


「陛下が【魔力定着】を続けると仰っていたのは憶えているかな。不確定であるにせよ、君たちの帰還の可能性が含まれるならばと」


 シシルノさんのそんなセリフに、一年一組の面々が思い思いに頷く。


 俺たちの未来に少しでも可能性をもたらすことができるなら、出来る限り【魔力定着】を続けようと、女王様はたしかに言った。アレは、クーデターで迷宮に避難した時だったか。


「ハッキリと言ってはいなかったが、わたしが君たちに同行しない理由もそれに近いんだよ。たしかに陛下は傑物で、そんなお方の行く末を見てみたいと思っているのは本音だ。手助けをするのもやぶさかではない。わたしとて王国貴族の端くれだからね」


 これまで見たことのないくらい申し訳なさそうになっているシシルノさんがそこにいた。こんなの、こちらまで胸が苦しくなってしまう。


「君たちがこの世界に現れてから七十四日だったかな。わたしなりに帰還の術が存在しないのかと模索はしてみたんだが……、申し訳ない。当代随一の迷宮研究者、魔力探求の最前線を謳っておきながらこれだ」


 自信たっぷりでいつだって悪い笑顔をしてくれていたシシルノさんが、神妙そうに頭を下げた。


 そんな光景を見てしまった仲間の誰かがひゅっと息を呑んだのが聞こえる。

 ああ、そんなのはシシルノさん、似合っていないよ。



「約束しよう。言い訳にしか聞こえなくても、それでもだ。わたしはこの国で召喚の謎を暴き続ける」


 俺たちの心の声が聞こえたわけでもないのに、顔を上げたシシルノさんはどこかキマった表情になっていた。


「君たちは外で、わたしはここで調べ抜くんだ。帰還の手段を。事情はあれど、手数は多い方がいい」


 いつも見ている邪悪な笑みでもなく、さっきまでの悲しそうな顔でもない。

 目標を達成するための努力を決して惜しまないという決意が伝わるそんな目を、俺は知っている。その人は、すぐ傍にいるのだから。


 そうか、滝沢たきざわ先生は、こんな気持ちを抱きながら俺たちと一緒にいてくれたんだ。


「わたくしも、そうですね。ウニエラにてまた別の切り口がないのか、調べることをお約束いたします」


 続けてアーケラさんも、微笑みを浮かべながら、シシルノさんと同じ輝きを瞳に込めて宣言する。


 勇者担当者六人と女王様の表情は、決意溢れるモノになっていた。

 女王様はさておき、最年長のヒルロッドさんが三十の後半ならば、最年少でも旧メイド三人衆は二十歳を過ぎた人たちだ。全員が俺たちよりもずっと大人なわけで、そんな面々が真剣な表情を一年一組向けている。



「わたくしもっ、可能な限りを振り絞り──」


「全部じゃなくって、いい。無茶なんて、願い下げだ」


「ハキオカ様……」


 空気に流されたわけでもないだろうけど、熱くなった女王様が宣誓じみたコトを言いかけたところで、ウチ一番の強面野郎が口を挟んだ。


「この国には人がいる。帝国とやらでヤバいことになってるのも、わかった。ならよぉ、ちゃんとしなきゃダメだろ。女王様はそのために俺たちを利用したんだろ?」


「……はい」


 その名の通り、吐き捨てるような言いたい放題に、女王様はただ俯くことしかできない。


「俺たちが出てかなきゃならねぇ理屈もわかった。俺たちは俺たちでやるからよぉ。アンタはアンタたちで、絶対にやらなきゃならねぇコト、やっててくれ。この国を真っ当にするんだろ? それが大人の責任だよな? たくさん人が死んだじゃねぇか」


 強面の顔を普段以上に厳めしくした佩丘はきおかが、叫ぶように言葉を並べていく。


 一年一組の中で一番に、今この瞬間ですら山士幌に戻りたいと思っているはずの佩丘は、大人たちに想いをぶつけている。

 父親がいない母子家庭で育ったんだ。母親が必死で働いて、それをサポートするような生き方をしてきた佩丘が、大人に対して責任を問う。俺なんかとは肝の据わりが……。


 アイツの言葉に大切なナニカがこもっているのが伝わってくる。それが悔しくて羨ましい。


「ヘタクソかよ、佩丘」


「んだ手前ぇ、海藤かいとう


「言い方だよ、言い方。お前はいっつもそれだ」


 俺などは勢いに押されっぱなしだったのに、野球小僧の海藤はあっさり間合いに飛び込める。

 これが付き合いの差とでもいうのなら……、積み上げてやりたいな。出遅れている俺だけど、この世界でも日本でも、ずっと。


「面倒くさいヤツだよ。おい田村たむら、翻訳してやれ」


「なんで俺に振るんだよ」


「俺も似たようなもんだからだよ。いいから」


 会話を奪った海藤は、自分でなにかを主張するわけでもなく、こんどは口の悪い田村たむらを頼る。

 この三人は、いつもこんなノリをするんだ。


 女王様相手に無礼がすぎる佩丘を見かねて、立ち上がりかけていた副委員長の中宮なかみやさんが座り直すのが視界に入った。

 藍城あいしろ委員長に至っては不動。焦ったような表情になっているのはチャラい藤永ふじながや弟系の夏樹なつき、文系少女の白石しらいしさん、アネゴな笹見ささみさんくらいのもので、ほかのメンツは様子を窺う構えだ。


 謎の信頼感がすごいよな、ウチのクラスは。



「あー、えっとだなぁ。やることやった上で、こっちを気に掛けてくれって、あのバカはそう言ってるんだ。です」


 とてつもない面倒を背負ったかのような表情で田村が言ったのは、たしかに佩丘の主張なんだろう。


「んっとさ、ガラリエさん」


「……わたしにできることであれば」


「いや、そんなに気合入れられてもなぁ」


 田村に語り掛けられたガラリエさんは、冷静に言葉を返す。


 顔色を悪くした女王様だが、ほかの大人たちはそうでもない。真っすぐに佩丘の暴言を受け止めていたくらいだ。


「ガラリエさんだけじゃなくってベスティさんもだけどよ、『緑風』を強くして、ガンガン魔獣を倒して、迷宮を歩いて欲しい。もしかしたら、何か見つかるかもしれないんだから」


「はい、そうしましょう」


「了解だよっ」


 困ったように、ほとんど無理やりみたいな提案をする田村に対し、ガラリエさんとベスティさんは素直に返事をした。


「じゃあ俺は、彼女たち『緑風』を鍛えればいいのかな?」


「……頼み、ます」


 あぐらをかいたヒルロッドさんが堂々とした態度を見せれば、田村の声がしぼみがちになる。語尾が敬語になった。

 威勢の燃料が切れたみたいな尻つぼみだな。


「わたくしは国家の安定に全力を尽くしましょう。もちろん『緑風』の指揮もできるように努力を続けます」


 瞳に熱さを感じさせながら、それでも微笑むアヴェステラさんが、佩丘に向かって小さく頭を下げた。


 俺にもなんとか理解が及んだような気がする。結局はお互い様なんだ。


 この世界に一年一組が呼ばれたのは偶然で、誰が悪いわけでもない。それでも付き合いのあるアウローニヤの人たちは俺たちを利用しつつも、同時に引け目も感じていたんだろう。

 もしかしたら、子供に対する哀れみすら持っていたのかもしれない。別世界の何の関係もない俺たちに。


 そして一年一組はこの人たちに縋り、助けてもらえたから、ここまで無事に強くなれた。

 ああ、佩丘の気持ちがわかってきた。俺も似たような心になっているのに気付いたから。


 逆ギレに近いんだろうな。俺にだってやれるんだぞ、っていう。

 切羽詰まった顔をする女王様……、同世代の女子がいて、それと一緒に大人たちの覚悟を見せつけられたら、こっちだって嬉しいのはそうだけど、同時にこなくそという気分にもなるというものだ。


 苦しそうな女の子と責任を感じている大人たちに対する、ガキくさい意地がある。



「おぉい、委員長、あと頼む」


「最後まで頑張ってくれよ、田村」


「いいから」


 完全に力尽きた様子の田村は、ついに委員長を頼ることにしたようだ。


 いいんじゃないかな。俺も含まれるけど、佩丘や何人かの意地っ張りは伝わったはずだから。

 あとは委員長に任せていい感じに終わらせてくれれば。


「じゃあ、そうですね……、アウローニヤ王国を良い国にしてください。女王陛下から見てという意味で構いません。たぶんそれは、僕たちにとっても良い国だと思うので。その途中で、僕たちのことも気に掛けてくれたら助かります」


「アイシロ様っ……」


 立ち上がった委員長の完璧な模範解答に、顔を上げた女王様が絶句している。

 そんな顔もするんだな。元々が超絶美少女だけに、どんな表情でも可愛いのが反則だ。


「すげぇ勇者ムーブだな。アレで異世界モノを知らなかったとか、どれだけ天然なんだよ」


 俺のうしろのあたりに座っていたイケメンオタの古韮ふるにらが感嘆の声を上げた。

 いやはや、全くその通りだよ。ウチの委員長は大したタマだ。


「これでいいかい? 佩丘」


「……おう」


 強面ヤンキーが爽やかメガネにたしなめられる図でもって、最後の夜の会談は終了した。


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