第415話 どこか似た風景




「話には聞いてたけど、マジかよ」


「ああ、すげぇな」


 辿り着いた丘のからの風景を見た野球小僧な海藤かいとうが感嘆し、小太りでいつもは皮肉屋の田村たむらまでもが同意している。


 水が豊富で平野が多いのがアウローニヤの全体的な特徴だ。

 都市部以外は森ばっかりだけど、麦の生産量は近隣諸国でも屈指だとか。ただし近年は減少傾向だけど。


 北部にはメルファールとかいう景勝地もあるらしいが、個人的には今まさに目の前に広がるフェンタ領の中核都市、フェントラー一帯の眺めは悪くないと思う。うん、実に俺好みで素敵な光景だ。


 ここがアウローニヤらしくない土地だと、知識としては学んでいた。

 すぐ西側は中央部に連なる穀倉地帯。東側はペルマ山地と呼ばれる低い山並みが作り出すいくつかの盆地が存在していて、そこはすでに隣国。


 そういう東西の境界線上にあたる地域にフェンタ子爵領はあった。

 比較的標高の低い山々の中にある小さな盆地のひとつで、ペルマ山地から西側への出口。


 丘から見えるフェントラーは四方を山に囲まれた小さな街だった。

 宿場町としての役目を持つのだから、街道沿いにそこそこな大きさの建物が並んでいるのは店や宿屋ってところだろう。俺は【遠視】が使えるので、そこに幾つかの荷車が止められているのも見える。


 そんな街道沿いの街並みはすぐに途切れ、あとは麦畑の隙間にぽつりぽつりと小さな家があるくらいだ。

 ここからでも目立っている建物は、街の外れにあるそこそこな大きさの家。木造の多いこの街の建物と比較して、石造りの壁を持っているのが特徴だけど、とても古びているのがここからでもわかってしまう。

 たぶんあれがフェンタ子爵家の邸宅なんだろうな。


 街そのもののイメージとしてはイトル領のイトルタとそう変わらない。こっちの方が敷地が広いわりには古びているのが違っているかな。

 中核都市とはされているが、俺たちの感覚では普通に村だ。



 そして、俺たちが驚いて、感動しているのはそういう古びた街並みに対してではない。古風なフェンタ邸も対象外。


 山間の土地を最大限に生かそうとしているのか、山肌に沿うように緑の絨毯が敷かれている。それこそがフェンタ領最大の特徴だ。

 そう、緩やかな山地のふもとに『牧草』という名の植物が茂っていた。自然などではない。人工的に、明らかに人の意思が介入しているのがわかる区画もある。人が住むには大きいと思えるような木造の建築物が近くに建てられているのが、これまた。


 アレが牧草地であるとすれば、当然そこにはいるべきものが存在するはずだ。俺たちが慣れ親しみ、この世界では見たことの無かった愛すべき動物が。


 迷宮の四層にいた? アレは違う。別物だ、あんなものは。


「牛デス!」


「牛がたくさんいる。牧場だあ」


 野生なミアが盛り上がるのは当然として、文系少女な白石しらいしさんまでもがメガネを輝かせて嬉しそうにしている。


 まだ遠景にすぎず、詳細を捉え切れているのなんて一部の【遠視】持ちだけなのに、遠くからの見た目と【遠視】持ちな連中からの伝聞でクラスのテンションはマックスだ。

 ちなみにウチのクラスの【遠視】使いは、ミアと白石さん、海藤、石使いの夏樹なつきと俺。俺以外の全員が遠距離攻撃の使い手ということになる。

 今後狙いにいきそうなのは、サメ使いの綿原わたはらさん、水を扱う笹見ささみさん、深山みやまさん、藤永ふじながあたりになるかな。遠距離サメ攻撃を目論む綿原さんは絶対に取る側だ。



「っぱ、アガるよな」


「ああ、燃える」


 俺の近くにやってきた海藤牧場の跡取りは、矢瀬やぜ牧場に居候する俺と並んで、遠くの放牧地を見つめていた。


八津やづ。牛って、いいよなあ」


「ああ、とてもいい。茶色いけど、それでもカッコいい」


「ジャージー種なのかな」


「さあ。ホルスタインじゃないのが残念だけど、そもそもこの世界の牛ってどういう種とかになるんだろう」


「種別不明か。それもまた燃えるな」


「ああ、萌える」


 綿原さん、海藤と俺の会話を聞いて距離を取るのはどうなのかな。

 ほら、牛とサメを置き換えれば俺たちの気持ちだってわかってくれるだろう?


「みなさん……」


 本来ならば胸を張って領地自慢を始めるはずのガラリエさんが気勢を制されて、何も言い出せずに困っているのが申し訳ないけれど、一年一組は盛り上がりっぱなしだぞ。



「牛乳と卵、か」


「オムレツが作れますね」


「だし巻き卵を食いてぇ。『うえすぎ』のアレ、美味いんだよなぁ」


「ありがとうございます。こちらではお出汁が難しいですね」


 料理番たる強面な佩丘はきおかと、絶対的料理長の上杉うえすぎさんは、また別方面から熱が入っているようだ。


 そう、この地では養鶏も盛んであったりする。


 フェンタ領は、中央のアラウド迷宮よりも、隣国ペルメッダのペルマ迷宮の方が距離的に近いくらいの『迷宮僻地』だ。

 迷宮が近くに無いイコール、炭水化物や野菜などは畑で確保できても、タンパク質、つまり肉類『ですら』地上で確保しなければならないことを意味する。


 海や湖が近ければ魚類を、山地では猪や鹿、兎などを狩るのが基本で、これは日本人感覚としてとても自然に感じられることだ。けれども迷宮依存型社会ではそうはならない。

 迷宮が無い土地は、そもそも人が生活するのに向いていないとされるからだ。


 地球の人間が大河のほとりから発展していったように、この世界では迷宮を起点にして街が発生し、国を形作る。

 迷宮から得られる素材こそが生活の基盤になるのは当たり前だろう。


 だからこそ王城で卵が高級品であったのだ。

 迷宮から豊富に肉類、つまりタンパク質が採れるのに、なんで鶏を育てなければいけないのか。そういう理屈が発生してしまうのだから。


 北海道的に表現すれば、イクラがあるんだからキャビアなんてどうでもいいじゃん、ということになるのかな。最近では北海道産のイクラも結構高級品らしいけど、比喩としてはそういう感じでいいと思う。

 言うならばキャビアを食べたいごく一部の裕福層のために、王都近郊で小さく高級養鶏場を営んでいる人がいるってことだな。



 対してここ、フェンタ領ではそんな肉事情は逆転する。


 付近に大きな川や湖が無く、海にも面していないため漁業は成り立たない。かといって猟師だけでは供給が間に合わないし、野生動物の乱獲は地域の未来のためにならないのは明白だった。


 三十年前に起きたペルメール離反の前なら一日の距離にペルマ迷宮があったので、そこを頼れば良かったのだけど、今は別の国。当然のように中央が関税を吹っかけて、だからといってアラウド迷宮から運ぼうにも四日もかかるわけで、【冷術】使いがいるとはいえ輸送コストが高くつくというありさまだ。

 だからといって数百年に渡りペルマ迷宮の肉に頼っていた食生活様式を、一気に変えることも困難だったはず。


 よって先代のフェンタ子爵は畜産と養鶏を推進した。

 卵と牛乳、そして肉そのもの。継続的に得られるタンパク質は三十年を掛けて、地元限定でフェンタの特産となっているのだ。


 キャルシヤさんの故郷なイトル領も頑張っていたけど、フェンタ領だって最高じゃないか。


 アウローニヤとペルメールのあいだで日和見を決め込んでヘタを打った先代フェンタ子爵ではあるが、この光景を生み出してくれたことには感謝したい。


「俺、帰れなかったらココに定住したいかも」


「海藤……」


 ついさっき絶対に山士幌に帰るのだと決意を新たにした俺だけど、しみじみとした海藤の言葉を聞くとちょっと揺らぐものがあるな。

 いや、俺は酪農家になりたいわけではない。牛は好きだけどさ。どちらかというとジャガイモ畑とかの方がいいかも。


 迷宮のジャガイモって地上では種イモにならないのがなあ。あれ、結構美味しいし、迷宮では珍しい炭水化物なんだけど。



「でも羊は、いないのよね。鮭も……」


 変なノリで帰郷への想いをグラつかせていた俺たちの心を、綿原さんがぶった切った。

 ごめん、謝るから呆れたような顔で俺を見ないでくれ。


 そう、アラウド迷宮にヒツジがいて、そこで羊毛が入手できる以上、地方で育てる必要性は薄いのだ。肉だけを目的にっていうのなら農耕にも転用できる牛で十分なのだし。

 迷宮が絡むと日本の常識が通用しなくなるというか、ややこしくなるのがいけない。


 なんで異世界で農業に従事する将来を考えてしまっているのやら。スローライフモノは嫌いではないが、それとこれは別問題だ。


 そんなしてはいけない妄想から俺の精神を引きずり戻してくれた綿原さんには感謝だな。総長の影の時といい、頭が上がる気がしない。


「八津くん。深そうで深くないコトを考えている顔だけど、いつまでも景色ばかりじゃ」


 そうか、俺はそんな顔になっていたんだ。綿原さんは随分と俺に詳しいんだなあ。


「落ち着いたか? 八津、海藤」


「みんな、ごめん」


「すまん」


 苦笑いを浮かべるイケメンオタの古韮ふるにらが、周囲を代表して声を掛けてきた。


 俺と海藤が突出してアガっていたのか、すでに周りは綿原さんと同じく、そこそこに落ち着きを取り戻していたようだ。


「いや、気持ちはわかる。やっぱり牧場を見るって、いいよな。なんか俺もぐっときたし」


「だよなっ。古韮もそう思うよな」


「ほらほら、その辺にしておきなさい」


 古韮の言葉に再びテンションが上がりかける俺を、副委員長の中宮なかみやさんがたしなめてくれた。



「ミトラーさんが先触れに走ってくれたよ。僕たちもそろそろ移動しよう」


 藍城あいしろ委員長も苦笑いで中宮さんに続く。


 ミトラーさんがシャルフォさんに耳打ちされて走っていったのは見えていたけど、重ね重ね申し訳ないな。


「ほら、八津くん。シャキっとして」


「最後まで気を抜かないでいこう。全員で周辺警戒。イトルのベゼースさんの時みたいな失敗は無しで」


「おう!」


 綿原さんに促された俺は、いまさら何様だと言われそうなセリフを吐いたのだけど、クラスメイトたちは元気な声で答えてくれた。



 ◇◇◇



「勇者のみなさんがフェンタの風景を気に入ってくれたようで、とても嬉しく思っています」


「いえ、故郷に似たところがあったもので」


「わたしとしては光栄に思います。ですがみなさんは……、思い出してしまうのでしょうね」


「お気遣い、ありがとうございます。わたしはフェンタ領を見ることができて嬉しく思っています。生徒たちも同じ気持ちでしょう」


 前の方からガラリエさんと滝沢たきざわ先生が大人の会話をしているのが聞こえてくる。

 お互いに謙遜し合うというか、やっぱり気遣いが大変そうだ。


 俺たちの隊列はすでに丘を降り切り、宿場町へと続く主街道から外れ、領主邸へと向かう小道に入っていた。

 空はすっかり夕陽に染まり、西側からここに到達した俺たちは伸びた影を追いかけるように歩いている。山肌も赤く染まり始めていて、放牧している牛を呼び寄せているのか、牧場の人たちが動いているのが遠くに見てた。いいなあ、ああいうのも。


 王城と迷宮ばかりだった俺としては、たしかにここは異世界なんだけど、とてつもない異世界から理解出来る異世界にやってきたような気持になっている。

 いろいろあった今回の旅だけど、異世界を抜きにしてもフィールドを知ることができてよかったと思うのだ。いい出会いもあって、イヤなこともあったし、この国の現実がちょっとだけでも体験できた。


 勇者担当の人たちの口からだったり、資料の文章や絵とかで知識だけは得ていたけれど、実際に歩いて、見て、触れて、人と出会って、そうしないと実感できないことなんてたくさんあるんだよな。

 とくにフェンタ領についてはガラリエさんから散々聞かせてもらっていたのに、見た瞬間に精神を持っていかれたくらいだったし。



「──ちゃーん」


「姉様ー!」


 そんな感慨にふけっていた俺だけど、前方から駆けてくる四つの人影を見落とすなんてマネはしていない。


 四人のうちの二人は騎士服みたいなのを着た子供で、もう二人は金属と革の部分鎧に二メートルくらいの槍を持ったお兄さんとお姉さん。

 そんな四人だけど、子供二人は全力で走っていて、大人二人はそれを守るように追いかけているといった様相だ。


「あの、ヤヅさん」


「いいですよ、ガラリエさん。先に行ってください」


「ありがとうございます」


 前を歩いていたガラリエさんが、念のためといった感じで俺に確認をしてくるけれど、そんなの必要ないのにな。

 やっぱりガラリエさんは真面目な人だよ。


「キャス! カル!」


「おねえちゃんなの?」


「姉様!」


 文字通り風を纏って先行したガラリエさんと、子供二人の影がひとつになった。



 ガラリエさんが近衛騎士となるために故郷を離れて三年と少し。

 俺たちの大切な姉貴分は弟二人を両手で抱き、膝を突いて肩を震わせていた。


「ガラリエさん。良かったなあ」


「だね~。海藤、お姉ちゃん盗られて悔しいっしょ?」


「なにがだよ」


 そんな光景を見て、もらい泣きをこらえている海藤をチャラいひきさんがからかう。

 不愉快そうに声を作っている海藤だけど、一塊になった三人を見る目は優しい。


「むしろ帰る気が増えたってとこだよ。姉ちゃんも心配しているだろうしな」


「ほんと、海藤ってお姉ちゃんっ子だよねぇ」


「うるせえよ」


 俺もガラリエさんたちを見て心尋みひろのことを思い出したから、海藤の気持ちはわかるぞ。


 クラスのそこかしこで鼻をすする音が聞こえる。ヘピーニム隊の人たちすらも。

 独り身の人もいるかもしれなけれど、ここにいる大半の人たちにだって家族がいる。ヘピーニム隊なら王都に、俺たちは地球に。


 どこの世界であっても、喜ばしい再会っていうのは素敵な出来事なんだ。



 ◇◇◇



「キャスパート・フェンタですっ!」


 姉と弟たちの感動の再会から少し、ガラリエさんの弟さんたちが挨拶をしてくれた。


 フェンタ子爵家長男のキャスパート君は十一歳。ガラリエさんと同じ金髪碧眼で、顔立ちも姉に似ている美少年だ。身長は百五十には届いていなくて、ウチのクラスのロリっ娘な奉谷ほうたにさんと同じくらいかな。

 姉の横に立ち、ムリに頑張ってはきはきとしているのが丸わかりだけど、クラスメイトたちの目は優しい。


「カルマット・フェンタ……」


 弟にして次男のカルマット君は八歳で、ちょっと大人しめな雰囲気だ。茶色い髪に碧い目をしている、こちらも美少年。

 兄より頭一つ小さくて、姉の足にしがみついたまま、どこか不安げにこちらの様子を窺っている。


 美形ばっかりだな、フェンタ家。


 弟のカルマット君は庇護欲をかきたてるタイプなのか、クラスの女子の一部がキュンキュンしているようだ。

 連れ去ったりしないように気を付けてもらいたい。


 そんな兄弟二人は目の端を赤くしたままで、あいだに挟まって立っているガラリエさんも似たような感じで苦笑している。実に微笑ましくて羨ましい光景だ。



 三年ぶりの再会ということは、別れた時にはキャスパート君が八歳で、カルマット君が五歳だから、うん、弟さんの方は記憶に残るかギリギリってところだったんだろう。

 ガラリエさんに抱き着いたはいいものの、最初は疑問形だったもんなあ。


「勇者のみなさん、こんにちは!」


「こんにち、は」


 黒目黒髪なんていう俺たちに、ちゃんと頭を下げて挨拶をしてくれるのだから、いい子たちなんだと思う。

 ほとんどガラリエさんにへばりついたままだけど。


「はい。こんにちは!」


 そんな二人に俺たちも声を揃えて挨拶をするわけだ。

 ちょっとビクっとなった子供たちが可愛い。


 個別の自己紹介は何度も繰り返すものじゃないから、屋敷に落ち着いてからということになり、俺たちは移動を再開した。


 ちなみに部分鎧のお二人はフェンタ家の私兵さんたちで、メインは屋敷と兄弟の護衛や訓練なんだとか。



「それで姉様。今日も頑張って訓練してたんだよ!」


「ぼ、僕も、えいってしてた」


「そうですか。頑張っていたんですね、キャルもカルも」


 神授職があるせいで、この世界の貴族は幼いうちから頭と体を鍛えなければならない。二人を日本で換算したら小学五年と二年なのに、訓練なんていう単語が飛び出すのがなあ。


 先頭を歩く姉弟三人の歩幅に合わせて、隊列はゆっくりと進む。


 山間の盆地ということですっかり太陽は隠れてしまったが、行く先の建物はもはや目の前で、正門のあたりにはかがり火が焚かれていた。



 ◇◇◇



 イタルトの領主邸より古くて高いフェンタ邸の塀と門を潜り抜けたところで、俺たちの車列は停止する。


 あちらには兵士を含めた十人くらいが整列していて、その中から四十くらいの男女が一歩前に出て、こちらを出迎えてくれていた。


「さあ、キャル、カル。わたしたちはあちら側ですよ」


「はい!」


「うん」


 ガラリエさんが兄弟の背中を押して、二人の兵士たちと共に俺たちの集団から離れ、フェンタ家側の列に参加する。

 むこうからは先触れとして先行してくれていたミトラーさんがヘピーニム隊に戻ってきた。


 これであちらの前列が五人。

 俺たちもヘピーニム隊の人たちも、荷車から離れて対峙するように整列する。ガラリエさんが離脱したので、こちらは三十六名だ。


 このメンバーでの旅は、ここで終わりを迎えることになる。


「ようこそフェンタ領へ。勇者のみなさんのお噂はかねがね。私は王国子爵、ダイキス・ハイ・フェンタ。ガラリエの父です。そしてこちらが妻の──」


「アルーテル・フェンタと申します。ようこそいらしてくださいました。勇者の皆様を迎えることを嬉しく思います」


 柔らかい物腰の二人だった。


 ガラリエさんのお父さん、当代のフェンタ家当主、ダイキス・ハイ・フェンタ子爵は茶髪碧眼で口ひげが特徴な細身のおじさんで、お母さんのアルーテルさんは青い目で長い金髪をおろした、こちらも細身。

 二人ともガラリエさんと同じくらいの身長で、三人が並んでいるとやっぱり親子なんだと実感させられるくらいに容貌のそこかしこが似ている。


 ガラリエさんは両親との再会を祝うより先に、俺たちとフェンタ子爵家との邂逅を優先した。

 そういうところが彼女らしい律儀さだな。



「はじめまして。王室直轄第七特別迷宮近衛騎士団『緑山』団長、ショウコ・タキザワです」


「お出迎え、ありがとうございます。王都軍ヘピーニム隊、隊長、シャルフォ・ヘピーニムです」


 こちらのメンバーで頭を張ってくれている二人が挨拶を返す。

 先生、ちゃんと『緑山』の正式名称憶えていたんだな。俺なんて曖昧なのに。


 こうして俺たちはアウローニヤ最東端、ペルメッダと国境を接する地、フェンタ領。すなわちガラリエさんの故郷に到着したのだ。


 王都を出立して四日。俺たちがアウローニヤに召喚されてから七十八日が経っていた。


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