第347話 聖女の誇りに想いを馳せて




「ずばばばば~!」


「ぐわー!」


 チャラ子なひきさんが謎な効果音を発し、ロリっ娘の奉谷ほうたにさんがキャッキャとはしゃいでいる。


 ちなみに奉谷さんは腕ごと胴体を疋さんのムチでグルグル巻きにされているわけで、見た目だけなら完全なる案件だ。

 もちろんこれは【魔力凝縮】を直接体験することで、受けた側に技能が生えないかという試みだ。いじめなどではないぞ。本人たちは軽いノリでやっているが、ウチのクラス的にはいつものことなので誰も気にしていない。とりわけ疋さんと奉谷さんがペアともなれば、こうなるのも当たり前だろう。


 ヤンキーな佩丘はきおかがため息を吐き、お坊ちゃんな田村たむらがムスっとしているが、心の中はどうなのやら。萌えていたりして。



「ふむ、一割増しといったところかな。上の姫殿下は三割くらいだったと記憶しているが、熟練の差なんだろうね」


 明後日からの迷宮の予定も決まり、アヴェステラさんとヒルロッドさんは、それぞれの持ち場に帰っていった。

 ちなみに明日の夕食にミームス隊のみなさんを招待するという上杉うえすぎさんの提案は、満場一致で採択され、彼女と副料理長の佩丘はメニューの選定に入っているようだ。


 で、残った担当者四人のうちのひとり、シシルノさんは興味深そうに疋さんの【魔力凝縮】を【魔力視】で観察している。同席者は俺とメガネ忍者の草間くさま


「うーん、全体のブワっとした感じはわかるんだけど、こういう細かいのはムリだなあ」


「なあに、クサマくんならいつか【魔力視】だって手に入れるさ。ヤヅくんも、ね」


 草間も【魔力察知】を使っているが、【魔力視】とは性質が違う。【魔力察知】は【魔力視】の下位互換という側面もあるが、これは向き不向きの問題だな。【魔力察知】は部屋単位の魔力とか、魔獣の存在を察知するという用途では十分な性能を持っているし、なにより視界が通っていなくてもイケるのがデカいのだ。


 それとシシルノさん、なにかにつけて俺を持ち上げてくれるが、個人的には【身体強化】が嬉しいんです。女王様がうらやましい。



「やはりワタハラさん、わたしの十一階位は……」


「優先組で大型魔獣を倒せそうなのってガラリエさんと朝顔あさがおくらいです。なので大物は全部食べちゃってください」


 キャイキャイしたじゃれ合いから少し離れたところでは、ガラリエさんが綿原わたはらさんに食い下がり、そして一蹴されていた。


 ガラリエさんからしてみれば、覚悟をキメている俺たちのレベリングを優先すべきだと思ってしまうのも仕方ないだろう。


「ですが」


「いいですか、ガラリエさん。ガラリエさんの十一階位はわたしたちの夢で、希望なんです。そうよね? りん


「え、ええ、そうね」


 ちょっとムキになっている感のある綿原さんに会話を振られた中宮なかみやさんは引き気味だ。

 どちらかといえば、ガラリエさんの階位上げについては中宮さんの方が積極派だったのにな。



「ほーら、雪乃ゆきのもビリビリ~!」


「うわー」


 翻ってこちらでは、疋さんの標的がアルビノ少女の深山みやまさんに切り替わっていた。

 声が平坦だなあ、深山さん。


「大丈夫っすか? 深山っち、痛くないっすか?」


 ペアたるチャラ男の藤永ふじながが心配そうに傍で見守っているが、痛いなんて要素があったらそもそも奉谷さんにやらせていない。


 それでも【魔力凝縮】でブーストした【魔力伝導】だ。それなり以上には外魔力を削られるから受けた側は魔力的に脱力するし、疋さんの持つ内魔力にだって限界はある。今晩については候補者を魔力タンクの四名に絞って続きは明日以降だな。


【魔力凝縮】を出現させてほしいメンバーは理想なら全員なのだけど、候補者四人に順位付けをするならば、トップは断然【騒術師】の白石しらいしさんだ。次点で【氷術師】の深山さんか【雷術師】の藤永。【奮術師】の奉谷さんはヒーラーとバッファーを兼任なので、魔力タンクに専念というワケにはいかないので最後となってしまう。


 時間当たりで相手に渡すことのできる魔力を増やせるのではないか、ロスを減らせるのではないかという目論見で【魔力凝縮】を狙っているのだから、魔力タンク全員が持っているのが理想だが、現時点では上杉さん専属が欲しいというのが目標だ。


 という前提からすれば白石さん一択だ。対人戦なら【音術】で無双する白石さんだが、魔獣相手では決め手に欠ける。迷宮の魔獣共は音に対して無神経なのがなあ。

 クーデターも終わり、今後は魔獣戦がメインになることに間違いはないはずで、ならば誰に後衛魔力タンク役をしてもらうのが理想かとなれば、それが彼女となるわけだな。


 それに対して対人戦での活躍が難しいのが、今そこでビリビリされている【氷術師】の深山さんだったりする。広範囲を凍らせるのを得意とする彼女は、人間相手の乱戦には向かない。

 本人も努力はしているのだが、精密操作は苦手なようなのだ。緻密さを第一にしている【石術師】の夏樹なつきや、【鮫術師】の綿原さんとは対極みたいな存在だな。



「で、その夏樹はなんで疋さんにシバかれる列に並んでいるのかな?」


「どれさ」


「いやお前だよ、夏樹」


 なんでナチュラルに列に入っているかな、この弟系男子は。


「だってさ、疋さんのムチに縛られたらさ、【身体強化】出るかもしれないしさ」


「なるほど!」


 いやいや、ないって。自分の中でノリツッコミを入れるわけだが、ホントに出たりしないだろうな?

 だがしかし、もしもがあり得る。ここは俺も並んだ方がいいのかな。四人が五人になったところで……。夏樹が邪魔だな。


はるさん、夏樹引き取って」


「んー、なにやってんのさ、ナツ」


「えー、いいじゃん。春姉はるねえ


 夏樹の操作に長けた姉の春さんにヤツの身柄はお願いして、と。

 さて、俺も疋さんに縛られる仲間に入れてもらうとするか。サメの監視態勢がどうなっているのかも確認しておかないとだな。


「あ、出たっす。【魔力凝縮】」


 そんな俺の暗躍を許す間もなく、藤永のチャラい声が談話室に気軽く響いた。

 だよなあ。そんな気がしていたんだよ。藤永って妙に器用で空気を読まないから。


 けれど、これはとてつもない朗報だ。

 この件については上杉さんの魔力不足が発端ではある。魔力タンクをしているメンバーの中で一番に【魔力凝縮】を取得して欲しかったのは白石さんで間違いないのだが、階位を上げて上杉さんに余裕ができてきた場合、どうなるか。


 そうなった場合、断然トップは藤永なのだ。なにせ後衛は白石さんと深山さん、補助的に奉谷さんが魔力タンクをしている。

 それに対して【身体強化】を持ち、前線に出ることができる藤永は貴重な存在なのだ。


「ちょっと予定と違うけど、頼んだぞ、藤永」


「藤永がいてくれて助かってるよ」


 チャラく頭を掻いている藤永に【岩騎士】の馬那まなと【聖騎士】の藍城あいしろ委員長が声を掛けていく。


 前線に並ぶ騎士職たちからすると、背後から魔力を送ってくれて、しかもタイミングが適切だとくるものだから、藤永に対する評価はすこぶる高い。

 俺からしてみても、目では見えていても口が追い付かないようなシチュエーションでは、前線での判断を藤永か疋さんに頼るなんていうケースもあるくらいだ。


 これから階位が上がるに従い、前衛職は技能を増やしていくことになる。

 そんな前衛たちは外魔力に優れる代わりに内魔力の伸びが悪いので、どうしても全ての技能を全力全開とはいかないのだ。アイツらは時と場合を随時判断しながら、使う技能を選んで戦うことになる。


「早く取れるといいな。十一階位ならすぐだろ」


「僕も【風術】で結構魔力使うし、期待してる」


 騎士たちの輪に【霧騎士】の古韮ふるにらと【風騎士】の野来のきも加わった。


「俺はやるっすよ」


 四方を騎士に囲まれた形になった藤永は、それでもチャラく笑顔を見せている。

 ちなみに騎士の残りひとり、【重騎士】の佩丘はレシピの検討を続けているので輪に加わってはいない。そこは参加するところだろ。



「見込んでいるのは【魔力譲渡】の時間短縮かい?」


 顎に手を当て騎士たちの喜びようを眺めていたシシルノさんは、言われずとも核心を捉えていた。


「そうですね。前衛の一秒の怖さは、昨日味わったばかりですから」


 シシルノさんに向き直って答える俺だが、わかっている人との会話は早くて楽しい。だから俺はシシルノさんとのやり取りが、カッコ良く感じられて好きなのだ。

 もちろん綿原さんとの会話は格別なんだけどな。


 それはさておき、【魔力凝縮】と【魔力譲渡】の合わせ技は、この場の誰もまだ実現できていないのだけど、効果は予想できる。

 単位時間当たりに渡すことのできる魔力量を増やすことが可能となるはず。これがデカい。もちろん魔力を凝縮することで譲渡時のロスを減らす効果も大きいのだけれど。


 器用な藤永は動き回る騎士たちの行く先や、やろうとしていることを予想しながら【魔力譲渡】を使っている。けれどどうしたって対象に接触をしていなければ技能は使えないという縛りがネックとなるのだ。

 最近では【風術】を使っての高速移動を武器にする野来へのサポートが、とくに難しくなってきている。そこにきての福音が【魔力凝縮】だ。


 接触時間、言い換えれば技能の発動時間を短縮できるのは、本当に素晴らしい。是非藤永には……、って本命は白石さんか深山さんなんだけどなっ!



「こうなるとアレだね。フジナガくんには【魔力受領】を出してもらって──」


 シシルノさんが好き勝手を言っているが、藤永は魔力変換器かなにかなんだろうか。もしくは充電可能な電池とか。


 みんなから魔力を集めて、適切な相手に配る。まるで税金か、はたまたアイツが得意な電気みたいに。あれ?

 藤永は【雷術師】で電気使いという最強ジョブっぽい神授職に就いている。その割に【雷術】の出力は今のところ弱いけれど、まさかこういう方向で適性があったとかだろうか。


 そんな謎の疑惑を残したまま、クーデター翌日の夜は更けていった。



 ◇◇◇



 そして一夜明け。


『【魔力受領】は出てないっすね』


 朝のミーティングで申し訳なさそうにする藤永だったが、使っているところを見もしないで生やした奉谷さんが異常なだけで、謝ることではないだろう。

 藤永のことだ、夕方あたりにやっぱり出たっす、とか言い出してもおかしくない。



「なんか今日は穏やかよね」


「だな。けど綿原さん、それを言ったらトラブルとか入ってくるパターンだから」


「そうよね。サメには気を付けないと」


 サメ使いがサメの出没を警戒するのはどうなんだろうと思いつつも、俺と綿原さんはテーブルに向き合いながら『迷宮のしおり、アラウド迷宮最終バージョン』を作成中だ。

 これからヒルロッドさんたちミームス隊を迎え入れるために、離宮にある大広間にはテーブルも並べて終えているし、料理は上杉さんや佩丘たちが準備中。それ以外のサプライズは昨日の夜と、今日の午前中で仕込みを終えた。


 気付けば時間は夕方に近づいている。

 本日アヴェステラさんは一度も離宮に登場していないが、事件というわけではない。明後日に迷宮で合流するまでは、地上での事務仕事に専念するのだとか。お誘いした側としてはなんか申し訳なくなるが、同時にそこまで頑張ってくれているのを嬉しくも思う。


 クーデターから二日目ということもあり、離宮から一歩も出ていない俺たちだけど、各自がそれぞれやるべきことをやりながら平穏無事な一日を過ごしている。



「あのね、八津くん。気付いてないみたいだから、ここで質問です」


「ん? 質問?」


 迷宮に持ち込む備品のチェックリストをイジっていた綿原さんが、ふと顔を上げた。

 なにかイタズラっぽくモチョリと笑っているけれど、どういうことだろう。


「もうすぐヒルロッドさんたちが来るじゃない」


「だな。もうそんな時間かあ」


「だけど、ちょっと義理に欠けてるって思わない?」


 北に退避したご家族が王都に戻ってきていないヒルロッドさんたちミームス隊は、『灰羽』の宿舎に詰めている。たしかにそろそろ現れてもいい時間だけど。


 そんなタイミングで綿原さんの口から飛び出したのは、危ない職業の人たちが言いそうな単語だった。


「義理?」


「たしかにヒルロッドさんはウチの顧問だし、ミームス隊にはお世話になったわね」


「あっ」


『緑山』のことをウチと表現する綿原さんは、たしかに元陸上部らしいなあと思いつつも、ここまで言われれば俺にだって思い至る。

 というか半分気付いていたはずなんだ。ミームス隊を迎えるための準備中に、別の方向から。


「ジェブリーさんたちも、か」


「そ。ジェブリーさんにヴェッツさんたちカリハ隊。それに──」



「迷宮を一緒したんなら、イトル隊とヘピーニム隊もだなぁ。ヴァフターたちは、いくらなんでも違うだろうけどよ」


 隣のテーブルで地図とにらめっこをしていた田村たむらがお得意の口調で会話に割り込んできた。


 ジェブリーさんのカリハ隊は初期の迷宮でお世話になったし、滑落事件では捜索に力を尽くしてくれた。

 キャルシヤさんたちイトル隊は、向こうからの押しかけとはいえ迷宮泊をご一緒したし、一時期宙ぶらりんの立場だった俺たちの後見もしてくれた仲だ。シャルフォさん率いるヘピーニム隊とは二度も迷宮で共闘し、一昨日に至っては協力して総長撃破を成し遂げている。


 ヴァフターたちは犯罪者ということもあり、今は牢屋で沙汰待ちだから、俺たちにはどうしようもない。むしろハウーズたちの方を呼びたいくらいだけど、彼らも拘束されている。パード? ケスリャー? 知らん。

 ミルーマさんも気になるところだけど、ヘルベット隊とは親しいって程でもないから迷宮食でいいだろう。ゲイヘン軍団長はヘピーニム隊を送り込んでくれたという、それこそ義理があるか。

 あ、シャーレアさんと工房長はなんとか挨拶だけでもしておきたいかな。


 こうして考えると知り合いも増えたよなあ。

 俺としてはそんな人たちも離宮にご招待したいところだけど、いまさら時間が作れるかどうか。


「あのなあ、綿原も八津で遊ぶなよ」


「お喋りの話題にしただけじゃない」


 どうしてくれようかと思案し始めたところで、田村と綿原さんのやり取りが挟まった。


 なんか俺をハブにして分かり合っている感じがあって、ちょっとモヤるな、これは。

 ん? 最初に綿原さんはなんと言った? 気付いているか、だったか。



「この件、言い出したの上杉だぞ?」


「あ、ああ。そういうことか」


「なんだ。八津もわかってんじゃないか」


「いや、今になって気付いた」


「名前だけでわかるんなら、それで十分だろ」


 相変わらず口が悪くて、そのくせ事実上は褒めている形になるから田村との会話はややこしい。佩丘とは一味違うツンデレだよなあ。


 そもそも今回の会食を提案したのは、あの上杉さんだ。『小料理屋うえすぎ』の跡取りが、こんな義理事でヘマをするはずがない。

 ということは、別の部隊の人たちを呼ぶのも織り込み済みということか。それならそうと、言っておいてくれてもいいだろうに。


「わたしは美野里みのりの考えが想像できるわよ?」


「綿原さん?」


 モチャリと口端を持ち上げた綿原さんが指を一本立てて、その周りにサメを泳がせる。


「引っ張っても仕方ないからネタバレするとね、美野里はキャパとウケを見てから判断しようとしているのよ」


「キャパ? ウケ?」


 謎の単語に俺は首を傾げてしまう。こちらを見た綿原さんは楽しそうで、田村は面倒くさそうな表情だ。



「『緑山』が二十六人で、ミームス隊は三十二人。合わせてだいたい六十人くらいだけど、会場の広さとしてのキャパシティーは大丈夫そうよね」


 離宮の広間は日本人の高校生感覚では不必要なくらいに広い。六十人程度ならこの談話室でも普通に収容できるんだけど、広間はそれ以上だ。

 そもそも他国の外交官向けの施設なのだから、パーティみたい行事をする前提の造りということだと理解はしているけれど、それにしたってな。


「キャパってそういう。……広さとしては?」


「そ。もうひとつは料理が間に合うかどうか。ウケるかウケないか。むしろ美野里はそっちを気にしてるんじゃないかしら」


 なるほど。六十人分の料理ともなると、そこまで考えなきゃならないのか。


 作り置きをするといっても、冷めたら美味しくない料理だってあるかもしれないし、凝ったモノを作るなら、手間だってかかるだろう。それが六十人分。ちょっと想像が追い付かないぞ。


「クーデター当日の朝にミームス隊も集まっていたから、必要そうな広さは見えていたし、食事の量もよね。けどバイキング形式とはいえ、今日は食事会だから」


「あの日の決起集会とは違うってことか。そこまで考えてるんだ」


「わたしたちの考えた食事会そのものがこの国の人たちにウケるかどうかもわからないし、料理だってそうでしょう?」


「そこまで含めてウケ、か。けど料理自体はミルーマさんや女王様だって……」


 少なくともこれまで食事に招待した人たちは、美味しいと言ってくれていた。それこそ決起の朝のミームス隊だって。


「美野里のことだもの、アウローニヤ風のパーティ形式なんかは調べてあるはずよね。それも含めて料理はギリギリを狙ってくると思うの。だって美野里と佩丘くんよ?」


「それは、たしかに」


 あの二人はアウローニヤ風と地球風料理の境界線を見極めようと、俺からすればそこまでするのかというくらいに研鑽を積んでいる。

 俄然今晩の食事が楽しみになってくる俺だが、上杉さんは真剣なんだろうな。迷宮とは別の形で戦っているみたいに。



「美野里がほかのお客さんたちのことを黙っていたのは、初回でウケなかったら自分の責任ってことにして、別の方法や料理でやり直そうって魂胆なんだと思うの。頑固でプライド高いのよ、美野里って」


「バレバレなんだよなあ。上杉も気付かれてるのをわかってて黙ってたんだろうけどよ」


 綿原さんが肩を竦めれば、ムスっとした田村は口を捻じ曲げている。


 そうか俺たちの聖女様は、誇り高きお人だと。俺はまだまだ知らないことだらけだ。

 だけどそう、頑固っていうのは、何故かシックリきてしまう。


「ちなみにミームス隊を最初にしたのは、ヒルロッドさんが顧問だし、特別扱いってこと。これも義理立てね」


「俺、気付いてなかったんだけど」


「クラスの半分くらいはわかってないぞ。ミアとか藤永とかの天然組」


 満場一致で決まったことだけど、田村が言うようにそれぞれで見えている深さが違ったということか。


「大丈夫、美野里は成功させるわ。自分自身が納得するようなおもてなしができていないと、ミームス隊の人たちに失礼って考えるのがあの子だもの」


 俺には理解しがたい理屈で綿原さんは上杉さんを信頼している。すごいな、これが付き合いの長さと深さってやつか。


「だから八津くんはちゃんと見ててあげて。【観察者】なんだから」


 最後にモチャっと笑った綿原さんだけど、謎の期待が重たいなあ。田村、そこで目を逸らさないでくれ。


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