第422話 ほかの国から見えるコト




「なるほど、迷宮に泊ったか」


「ペルメッダの冒険者でも、やっぱり嫌がられてるんですか」


「そうだな。迷宮に逃げ込んだ不逞な冒険者共がひとりひとりと消えていった、などという噂話はいくらでも聞く」


 俺の説明にこの国で一番偉い人、つまり侯王様が苦笑を浮かべながら返事をした。

 なんかこう、この状況が本来おかしいはずなのに、クラスの誰もが諦めたようになっている。


 綿原わたはらさんのサメをはじめ、いろいろなメンバーと手合わせみたいなコトをした侯王様は終始ご機嫌で、最初にブチ上げた俺たちの話を聞くということも忘れていなかった。


 なぜか初手で力試しみたいな流れになってしまったが侯王様も満足そうなので、これはこれでアリということにしておこう。でないと俺たちの精神がヤバい。



 同じ十六階位だった近衛騎士総長とは大違いで、侯王様はキッチリと受けに徹して、一年一組の力を測るように動いてくれた。


 こちらはこちらで攻めっ気の強いミアやはるさんはノリノリに、逆に滝沢たきざわ先生や中宮なかみやさんなどは技を隠しながらも、それでも各人なりに二人目となる十六階位の力を確認していたようだ。

 騎士職な面々も侯王様の拳を盾で受けてみたり、逆にシールドチャージをかましてみたり、綿原さんだけでなく【石術師】の夏樹なつきが四つ操れるようになった石を飛ばし、躱されていたりして。


 勢いで【鮫術師】を試したところから始まった模擬戦っぽい行動だけど、双方に利益があったような雰囲気でひと段落したところで、俺たちがどうやって階位を上げていったかに話は移行した。


 俺がメインで説明する形になったのが解せないのだけどな。

 綿原さんはサメを披露したことで自分の役目は終わったとばかりに、俺に全部をぶん投げた。



「戦闘可能な時間そのものを伸ばすための技能取得、か」


「狙ってやったわけじゃなくて、結果的にです。俺たちはこの世界に慣れていなかったから」


「まさに結果としては、だな。それを有効に使いこなしているのが面白い。全員が【平静】と【痛覚軽減】に【睡眠】とは、恐れ入ったな」


 俺の説明を受けてとくに侯王様が感銘を受けていたのは、所謂勇者三点セットである【平静】【痛覚軽減】【睡眠】だった。


 これらはありふれた、それこそちょっと迷宮で活動すれば誰にでも出現するありふれた技能だ。アウローニヤの王城では惰弱の象徴みたいに扱われていたのだが、それとは別にペルメッダの冒険者基準でも全部を兼ね揃えているのは珍しいらしい。【痛覚軽減】はまだしも【平静】と【睡眠】持ちは少ないのだとか。



 迷宮を忌避していたアウローニヤ貴族とは異なる理屈でペルメッダでも迷宮泊は積極的に行われるようなモノではない。

 当然と言えば当然だ。いつでも入れる迷宮に、なんで好き好んで泊るのか。そのためにわざわざ貴重な内魔力を使ってまで【睡眠】を取得する必要を感じないのは道理だ。

 もしもこれが常に緊張を強いられて、逃れることのできない戦場の兵士ならばまだわかる。だけど迷宮は立ち去ることのできる場所なのだから。


 そう考えれば迷宮に泊るために【睡眠】を取るのは、たしかに不健全だ。そもそも俺たちだって、魔獣の、しかも死骸を刺したことによる精神ダメージを受けても眠れるためにと取得した技能であって、けっして迷宮でキャンプをすることが前提ではなかった。


 なんかこう考えると、アヴェステラさんたちに申し訳なくなるな。あの人たちって勇者についていくためにと、喜んで【睡眠】を取っていたし。

 できれば普段の生活で安らかな眠りを得るために有効活用してくれていればいいのだけど。



「面白いのは『魔力渡し』の存在だな。ペルマの冒険者にもいるとは聞くが、それが四人ともなると」


 勇者三点セット以外で侯王様が注目したのは、【魔力譲渡】で魔力を融通する、俺たち的表現をするならば魔力タンクの存在だ。


 アウローニヤではほぼ見かけなかったそんなロールを持つ存在だけど、ペルマ迷宮の冒険者では少数ながらそういう人たちもいるらしい。

 戦闘向きではない後衛職が担うことが多く、魔力タンクと運び屋とを共存する形でパーティ、こちらの用語では『隊』に貢献するという。


「俺たちは【聖術】使いが多いですし、経験の浅さを技能で補ってますから。魔力の都合をつけるのが大変で」


 どこまで情報が漏れているかは知らないけれど、こちらから俺たちが魔力量に優れる『勇者チート』や、魔力の融通でロスが少ない『クラスチート』を持つことをバラしていくつもりはない。

 相手の話題に合わせて、俺はそれなりの理屈で返事をしている。まるっきりの嘘を吐けばどこかで矛盾を突かれそうなので、基本的には本当のことを話しているけれど。


 しかも侯王様、俺たちの持っている技能についても事前にいろいろと知っていた節があるのだ。

 本当にアウローニヤの情報管理をどうにかして欲しい。女王様に代替わりして少しはマシになるといいのだけど。


 なあみんな、俺に話をさせておいて大丈夫なのか?



「二か月たらずで四層に挑むなど、なかなか聞く話ではないな。役割分担を明確にしているようだが」


「騎士が守りで戦士が攻めっていうのを徹底しているつもりです。じゃないと中途半端になりますし」


「その若さでよくぞ自制できるものだ。前衛職ならば普通は我も我もと斬りたがるというのに……」


 侯王様の感想や意見はとにかく鋭い。


 チートを抜きにしたとすれば、一年一組の最も誇るべき点は、各自が役割を徹底してこなしていることだと俺も思うのだ。とくに騎士の面々が。

 減らず口やグチこそこぼれることも多いけど、だからといって不貞腐れてやるべきことを放棄するヤツはひとりだっていない。


 本質を突く形で仲間たちを褒められて嬉しくならないはずもなく、俺の口は軽くなっていく。


「ウチのクラスの騎士たちは真面目ぞろいですから。委員長と馬那まなが自己回復──」


「ワタシだってマジメデス!」


 それを台無しにしてくれるのがミアなんだけどな。

 ついでに俺の脳みそをクールダウンさせてくれるのだから、効果も抜群だ。俺今、言う必要ないこと口走りかけていなかったか?

 だよな。サメが至近距離まで接近していたし。


 という感じで俺たちはこの国のトップとの初接触をなんとか無難にこなしていった。



 ◇◇◇



「思った以上に有意義な時間であった。ヤヅの本領を見ることができなかったのが残念ではあるがな。『指揮官』よ」


「……アレは持ち上げられすぎです」


「であるか。ならばいずれ機会を設けるとしよう」


 いい感じで会談も終了かなと思ったあたりで、話題の焦点を俺に当てた侯王様に対し、クラスメイトたちが警戒の視線を集中させる。


 それを受けた侯王様は両手を上げて降参の姿勢と取るが、それでも俺に向ける興味深げな視線は変わらない。厄介なのに目を付けられたという恐怖が心に湧き上がるのを実感してしまう。それこそヴァフターに拉致された経験もあるわけだから。

 クラスメイトたちが全力阻止をしてくれるのはわかっていても、俺自身だって警戒はしておかないとだな。

 どうにも周囲の大人たちは俺のことを過大評価しがちな気がする。


 ところでなんだが、つぎの機会ってあるのだろうか。



「さて、いい話を聞かせてもらったからには相応の礼が必要だろう。スメスタ・ハキュバよ、先ほどのような紙ひとつでは、こやつらの利益にはならんだろう」


「……どのような」


 侯王様が立ち上がり、最後の最後でご褒美っぽいコトを言い出した。途端スメスタさんの表情が曇る。


 気遣いのできる吟遊詩人みたいなポジションのスメスタさんだけど、ホームなはずのアウローニヤ大使館に戻ってきてからは気苦労が絶えないようだ。

 むしろ俺たちより胃を痛めているような。


「拠点を斡旋しやろう。内市街に幾つか候補がある。アウローニヤ側でも用意はしているだろうが、選択の幅だと捉えればいい。無論相応の代金はいただくぞ? でなければ貴様らの言うように悪目立ちになるからな」


「それは……」


「選ぶのは勇者たちであろう? 押し付けはしないと誓おう」


「それならば」


「仔細は明日の朝にでも届けさせよう」


 ご褒美のネタは『拠点』、すなわちペルメッダにおける俺たちの住まいについてだった。


 侯王様が好き勝手なコトを言い放ち、対するスメスタさんは曖昧に返事を返すだけ。

 立場というか、格の違いがありすぎて、一年一組に関係する話題なのに、見ていてスメスタさんが可哀想だ。

 だからといって、ここまでのやり取りで侯王様のことを強引な人だとは思うけれど、嫌だとは感じないんだよなあ。


 侯王様は一年一組がアウローニヤ大使館に住み着くことはなく、真っ当な冒険者として活動する一環としてホームを求めていることを察しているようだ。

 あらかじめそういうお土産を出す心構えがあったんだろうか、それともアドリブか。規模が大きい話だから、まさかこんなに早いタイミングで出てくるとは想像もできなかったけど。



「貴様らの勇躍を楽しみにしているぞ。心からだ」


 最後はスメスタさんではなく一年一組全員に向かって、これまた含みのある言い方をした侯王様は、そのまま部屋を出ていった。



 ◇◇◇



「なんだったんでしょうね、あの人」


「ああいうお方だとはわかっていたつもりですが、今回ばかりは想定以上です。アイシロさんもお疲れ様でした」


「それは、なんというか、スメスタさんこそお疲れ様です」


「ええ、本当に。勘違いされるといけませんから言っておきますが、本来侯王陛下は無礼でもありませんし、無理を押し通すことをするような方ではありません」


「ギリギリを狙ってくるってことですか」


「はい。今日は少々踏み込みが大きかったようですが、無体は働かない方です」


 委員長とスメスタさんが謎の相互理解を果たすくらい、侯王様の来訪は刺激的だったのだろう。

 精神を削られたという意味で本当に疲れ果てた様子の二人は、お互いに苦笑を交わしている。


 途中から俺に労力を分散させていた委員長だけど、危ない一線があれば、ためらいなく割り込むのは知っての通りだし、いつでも口を挟む気構えをしていたんだろう。やはりお疲れ様としか言いようがない。



「改めて、みなさんのご協力に感謝します」


 ひとしきり委員長とグチっぽい会話をしていたスメスタさんが立ち上り、俺たちを一通り見渡してから軽く頭を下げた。


「いえ、僕たちにとっても恩返しになれば」


 それに対して苦笑を浮かべながらも委員長は爽やかに返事をしてみせる。恩返しときたか。


 ミアや夏樹なつきあたりを筆頭にクラスメイトの何名かが首を傾げているが、俺には二人のやり取りが理解できる……、できていると思うぞ。

 これでも王城の生活で少しは成長したつもりだし、旅の道中で見たこと聞いたことまで含めればなあ。


「アウローニヤ本国内部の混乱が収まるまでは、今しばらくの時間が必要です。南方に関しては年単位になる可能性すらあるのですから」


 スメスタさんの始めた状況説明に、皆が聞く側に回る。


「それでも天秤は傾き切りました。国内については陛下やラルドール閣下、ラハイド侯がなんとかするでしょう」


 国内については、ここからの逆転はないとスメスタさんは言い切る。

 ラハイド侯爵は女王派の筆頭領主貴族として当然出てくる名前だけど、そこに政治家としてアヴェステラさんが並ぶのが、ちょっとくすぐったいな。


「さて、ここで重要になるのは外交です。アウローニヤは東西南北の四か国と国境を持つわけですが、南の帝国についてはいまさら言うまでもないでしょう」


「仲悪いんですよね?」


「クサマさんの言うとおりですが、僕も『密約』を知る者のひとりです」


「げっ!?」


 知ったかぶりをしたメガネ忍者の草間くさまの振りを、スメスタさんは軽く受け止めてみせる。


 危ない。合いの手を入れたのが俺でなくて良かった。たぶん草間と似たような言い方になっていたはずだし。

 俺と並んでこういうのに口を挟みがちなイケメンオタの古韮ふるにらが肩を竦めているのが視界に入った。助かったな、お互いに。



「帝国第二皇子との密約は次の段階に進みました。予定通りということですね」


 草間を出し抜けたせいか、スメスタさんの調子が戻ってきたようだ。すなわち授業モード。


 第二皇子との密約は、女王様がクーデターを成功させるまでが第一段階で、そこから二年の猶予でどこまでまともな国に出来るかが勝負になる。

 ちゃんとした国になっているからアウローニヤ王国のままで帝国の属国ね、なんていう展開に持ち込めたら、それこそが女王様の完全勝利だ。


 だからこそ、残り三国が外交的にアウローニヤと友好のままであることが望ましい。

 スメスタさんの説明はそう物語っていた。


「西の聖法国アァサについては、悪化する可能性があります」


「それは勇者が出奔したせいですね。とくにわたしが」


「そのとおりではありますが、ウエスギさん本人に言われてしまうと、困りますね」


「事実は事実ですから」


 自分が悪いと言いつつも、【聖導術】を使ったことで『聖女』となった上杉うえすぎさんは涼しい顔のままだ。むしろスメスタさんが申し訳なさそうにしている。


 ウチのクラスのお母さん役は、本当に肝が据わっている人なのだ。崇めなくてはいけないほどに。


「ですが聖法国との交渉は薄く、基本は教会経由でもあります。そして先々王の治世によってアウローニヤ国内で教会勢力は強くありません」


 アウローニヤは西の聖法国との交易が盛んではないので、四か国の中では一番軽く考えていい国ともいえる。

 あちらから軍を差し向けようとすれば帝国からの横槍が確実なのでそれもできないし、勇者は逃げ切り、現在はここペルメッダだ。


 弱小勢力の教会を窓口にして女王様は無視を決め込む腹らしい。

 たしか信仰税だか教会税だか、そんなのを導入したのが先々代の王様だったか。それでアウローニヤの教会が弱まったわけだけど、宰相に乗せられて悪政のお手本みたいなことをした人が、微妙なところで役に立ってくれていてなにより。


 実はこのあたりも一般への勇者パレードをやらなかった理由のひとつだと、アヴェステラさんが教えてくれたこともある。なにがどう影響するかなんて、わかったものではないという話だな。



「難しいのは北のウニエラ公国です」


「親戚同士の喧嘩ですもんねえ」


 今度こそ間違いないと踏んだのか、古韮が軽く会話に踏み込んだ。見切りの上手いことで。


「まさにです。現公王陛下の姪が甥と争い、親族を追い出した形です。落としどころを作る必要がありますね」


「だから前の王妃様にお金を持たせて、ベルサリア様にも挨拶してもらうってことですか」


「公王陛下の姪に当たる方が訪問されるのですから、そう無体なことにはならないでしょう。それに、ウニエラにとってアウローニヤとの交易は重要ですし、帝国との防波堤としての意味も持ちます」


「その点はペルメッダと似てるってことですね」


 ポンポンと会話を回すスメスタさんと古韮を見て、草間がちょっとしょげている。

 あとでフォローしてやらないとだな。ロボット談義でもしようか。


 ともあれ、ウニエラ公国からしてみればアウローニヤは大事な交易相手であり、妹や甥と姪が政治の中央にいた国なわけで、内紛などはゴメンであっただろう。

 同時に対帝国を考えれば盾になるべく、もっとマシな国であってほしいという思いもあったはずだ。


 女王様はそういうところをつついた根回しをシッカリするタイプだし、外交特使としてベルサリア様とラハイド侯爵を送り込むのは、理解できる話だな。



「そしてここ、ペルメッダ侯国です。状況はウニエラとよく似ていて、加えるならば先ほどまでおわした侯王陛下は商売を知るお方です」


「そっか。だから外交特使はウニエラを先にしたんですね」


 続けて会話に参加したのは文系男子の野来のきだった。


「はい。ノキさんの仰るとおり、ペルメッダがアウローニヤに敵対する未来はあり得ません。ただし商人らしく、たかりにくる可能性はそれなりに。言い掛かりをつける材料もありましたし」


「えっと、それってマズかったんじゃあ」


 もちろん参入するだけの自信があったのだろう野来だけど、続くスメスタさんの説明に顔色を悪くする。


 ところでだけど、言い掛かりの材料ってなんなんだろう。


「それを潰してくださったのがみなさんだったということです。立派な功績でしょう?」


「それはまあ、たしかにそうですけど、向こうが勝手に訪問してきただけですから」


 バトンは最初の委員長に戻され、結局スメスタさんと二人でなんともいえない苦笑いを交わすのだ。


 なるほどなあ、これが委員長の言っていた恩返しっていうことか。



 外国との交渉も大切なお仕事なのだろうけれど、女王様としては国内の立て直しが最優先だ。

 当然ペルメッダの侯王様だってそんなことはわかっているわけで、そこに付け込んで吹っかけることもできたはずなのに、あっさりと女王様を認めると言ってきた。


「勇者を見たかったというのも本当なんでしょうけど、この場合、僕たちをダシにして一番乗りを重視したように思います」


「アイシロさんはよく見ていますね。ともあれ結果は結果です。今回はその両方ということで納得してください。僕もそう考えることにしますので」


「そうですね。そういうことにしましょう」


 やっぱり委員長だけは、この手の話で一味違うよな。上杉さんもだけど、彼女は滅多に口出ししないし。


 とにもかくにも、アウローニヤの東部、とくにイトル領とフェンタ領が少しでも繁栄してくれれば俺たちも嬉しいし、そのためにはペルメッダ侯国との友好は大切だ。

 委員長が言うところの恩返しの対象は、なにも王都の女王様だけではない。俺たちの誰もが、途中で見てきたキャルシヤさんやガラリエさんの故郷にだって潤ってもらいたいと思っている。


 とくに東部はアウローニヤの中でも貧しいとされているだけに、なんとか復興してもらいたいものだ。とりわけフェンタ領の牧場とか。

 俺たちが侯王様と面会して、少々ネタばらしをした程度でそれが捗るならば、こちらとしては大歓迎と言ってもいいだろう。



「交渉のふだとして銅の関税を一割減とする権限もいただいているのですが、こちらもどこかで……」


「それってフェンタ領が困らないんですか?」


 所謂外交カードというヤツだろう、スメスタさんは女王様から交渉用のネタを受け取っていたようだ。


 ペルメッダからアウローニヤに流れている銅の関税は王国としても重要な財源だから、ガラリエさんの実家を心配するメガネ文学少女な白石しらいしさんの心配もわかる。

 せっかく利権を取り戻した、というか手に入れたばっかりなのにな。


「シライシさんの心配には及びません。フェンタ子爵家が持つのは徴税手数料であって、関税そのものではありませんので」


「あ、そうでした。ごめんなさい」


「いえいえ。それにですね、これは本国の調べなのですが、官僚貴族が抜いた分を差し引いて考えると、関税を一割減らしたところで王室に入る額は二割増えるんですよ。酷い話もあったものです」


 あんまりにあんまりな状況説明に白石さんをはじめとしたクラスメイトたちが絶句している。


 本国の調べって、アヴェステラさんあたりが頑張ったんだろうけど、どれだけ違法な中抜きしてたんだよ。実行犯はフェンタ領で徴税官をやってた白髪のおじいちゃん男爵か。ほんとうにろくでもない。



「ということで、初日から大成果を得られたということです。さて、そろそろ夕食の時間ですね」


「あ、その前にお風呂入りたいかなぁ」


「ご安心ください。そちらの準備も終わっているはずです」


「スメスタさん、やり手だねぇ」


「お褒めの言葉、ありがたく頂戴いたしましょう」


 チャラ子なひきさんに、ワザとらしいくらい恭しく頭を下げたスメスタさんは、やっぱり演技派なんだよなあ。

 それが似合っているのがズルいと思う。


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