第428話 拳士の資質




「リン・ナカミヤ。【豪剣士】のあなたがこうして無手で戦った意味を聞きたく思いますわ」


 三十分くらいに渡って戦っていたクセに、リンパッティア様の問いは戦いが終わってからだった。


 腕組みをしてその様子を見ている滝沢たきざわ先生をチラ見しているあたり、【豪拳士】ではなく【豪剣士】の中宮なかみやさんが出張ったことに思うところがあるのかもしれない。

 しかも剣士が剣を持たず素手でのバトルだったのに、リンパッティア様は完封された。


 額に汗を貼り付け、どことなくドリルヘアーがへんにょりしてしまっているように見えるリンパッティア様に対し、中宮さんは涼しげなものだ。

 中宮さん、最小限の動きで相手の攻撃を捌いていたもんなあ。七階位だというリンパッティア様と十一階位の中宮さんというだけでなく、技の差も明らかだったのは、普段から『北方中宮流』の歩法を練習しているクラスメイトの誰もが理解しているだろう。


 ただ思うのだ。リンパッティア様は戦う前には文句をつけず、最後になって問いかけた。戦っている最中などは夢中で、しかも楽しそうなくらいにしていたし、問いの言葉にしたって批判の色を感じない。

 それこそがリンパッティア様の美学なんじゃないかって。


「とはいえわたくしの攻撃は当たらず、そちらは避けに徹していたのですから、聞いても詮無きことですわね」


「たしかに剣を持って打ち込むことはできましたが、受けや捌きについては同じような型になっていたはずです」


 らしくもなく自嘲気味なリンパッティア様に対し、中宮さんは真面目顔で答える。


「わたしの持つ術理とは違いましたが、よく練習されていると思います。階位に甘えず、自分の技を鍛えているのが伝わってきました」


「リン……、ナカミヤっ」


 続けた中宮さんの言葉はリンパッティア様にとってどういう響きで伝わったのだろう。

 すっと目を細めたリンパッティア様は、邪悪な笑みを引っ込めてこれまで見たことのない冷たげな表情になった。


 会ったばかりのリンパッティア様だけど、本気で怒っているシーンは一度も無かったな。

 むしろ婚約破棄からスタートして、勇者をからかい、拠点決めでも一本取ったことで総じて上機嫌だった。それこそ手も足も出なかった中宮さんとのバトルの最中ですら。

 そんなお人が、まさかここにきてお怒りか?



 こと武術が絡むと中宮さんはガチになる。つまり彼女のセリフは本当なのだ。

 さっきリンパッティア様が先生に殴りかかった時にも思ったが、今さっきまでの戦いで思い知った。彼女は本当に訓練を積んでいる。

 対魔獣を重視しているのか、威力にこだわった大振りが多い気もしたが、決して力任せの荒い技ではなかった。同じくらいの階位なら、剣を相手にしてもなんとかできるんじゃないかってくらいには強いと思う。


 なにぶん俺は一階位の頃からの先生や中宮さんを観察してきた。ついでにヒルロッドさんやラウックスさん、キャルシヤさんやミルーマさん、シャルフォさん、ついでにヴァフターなんていう本当の強者も見たお陰で目が肥えている。近衛騎士総長についてはトラウマが再発したら嫌なので、記憶のすみっこだけどな。


 要はこの世界の武術を修めた人たちの動きを知っているということだ。


 アウローニヤで出会った七階位となると、真っ先に思い浮かぶのが当初チンピラ貴族騎士だったハウーズ一党が思い浮かぶが、アイツらよりもリンパッティア様の方が間違いなく強い。


「力を見せつけられた以上、返す言葉が思いつきませんわね。口惜しいですわ」


「いえ、このまま鍛錬を続けて階位を上げていけば間違いなく──」


「拳士であっても?」


 中宮さんは決してお世辞を言ったわけではない。けれどもリンパッティア様は自虐で返した。


 どうしてそうなのか、俺やクラスメイトたちは理由を知っている。



 そもそも拳士系の神授職を持つ人は少ない。

 人の神授職を決定する要素はいちおう三つ。血筋、幼少からの行動、そして性格だ。


 リンパッティア様の父親である侯王様は【土騎士】で、血統的には前衛系の条件を満たしている。

 そして小さい頃からの訓練なのだけど、兵士になるにしろ、近衛騎士を目指すにしろ、あるいは貴族のステータスを目指すにしても、前衛系を狙うなら誰だって『剣を振る』練習を繰り返す。


 当たり前すぎる理屈だな。

 なにしろ階位を上げるためには迷宮で魔獣を倒さなければならないのだから。素手で戦うのと剣を持つのとどっちが有利かなんて、言うまでもないだろう。

 もしも剣に自信がないならば、弓でも使えばいい。


 いまさらだけど【槍士】などという神授職は存在していない。

 ゲームと違って神授職によるアイテム制限などはないのだから、剣士や騎士が槍を持って戦うだけの話になる。槍にだってちゃんと【鋭刃】がかかることは実証されているしな。


 ここで当然出てくる疑問として、剣と盾で似たような技能が別個に存在しているのかについては謎のままだ。

 当人の認識なのか、それとも魔力システム的な何かが関与しているのかは不明なんだよな。武器と防具の違いなのかなあ、くらいのぼんやりしたイメージでしかない。



 ちなみにだけど【槍士】系が存在していないのに、だったら【裂鞭士】のひきさんは何なのかといえば、【魔力伝導】と【魔力凝縮】が特徴の前衛系なだけで、要は技能の生え方が神授職の名称に反映されているだけなのだ。


 このあたりの議論はシステム考察をしていた頃に出てきた神授職が先か技能が先かって話題で考えて、結果としてどっちでもいいんじゃないかで流された部分となる。

 なにしろ一年一組には『クラスチート』があって、技能の発生が連鎖する傾向が強いのだから、前衛と後衛以外、神授職そのものに対するこだわりは薄いのだ。


 俺にも生えろよ【身体強化】。



 話は戻って【拳士】だ。

 血筋は問題なくて、まず間違いなく幼少から剣を振り回していたはずのリンパッティア様が、どうして【強拳士】なんていう神授職になったのか。


 そんなのは自明だ。性格に決まっている。

 殴りたがりの性根が、それまでの訓練を超えたとしか思えないんだよな。


 繰り返しになるが、この世界には神授職による装備品制限やペナルティは存在していない。【拳士】が剣で戦っても問題はないのだ。

 ただし【拳士】には【鉄拳】が当然のように生えるのだけど【鋭刃】や【剛剣】は難しい。


 神授職、神様からの判定は残酷だ。

 リンパッティア様は階位を上げれば上げる程、剣士としては未完成の存在になっていくことになる。


 以前シシルノさんから聞かせてもらった後衛から前衛に神授職を書き換えた人の話では、たとえ実話であったにしても長年に渡る相当な努力と死闘の末の結果だ。

 そこにリアルな強さがあるかといえば、自分本来の神授職に沿って戦い続ける方が、余程マシになるだろう。


 リンパッティア様の場合、剣を振る暇があるならば、サンドバッグでも殴っていた方が強くなれるということだ。



 ここからが本命なのだが、【拳士】は前衛職でありながら『迷宮に向かない』、つまり冒険者になるには難しい神授職とされている。冒険者どころか兵士としても。

 これもまた当たり前の話で、剣を持てば【剣士】以下でしかない存在なのだ。取得できる技能を存分に発揮するならば素手はやりすぎにしても、せいぜい手甲、脚甲くらいが限度だろう。


 戦場と違い、迷宮では広さや部隊連携の難しさがあるため長い槍こそ使われないが、攻撃でも防御でも武器の長さというのは重要だ。

 素手と剣、どちらで魔獣に挑みたいかと言われれば、余程の何かが無い限り、後者を選ぶに決まっている。メイス装備がメインな俺たちが言うのもなんだけどな。


 そんな稀有な深層心理を持ってしまった人が【拳士】になるのかもしれない。

 それこそリンパッティア様や先生のように。先生の場合は日本出身だから違うかもしれないけれど、戦いっぷりを見ていると、どうしたって素手で当然に思えるから怖い。


『緑山』の団長が【豪拳士】だとか嘲られた記憶が蘇るが、相も変わらずウチの最強は先生のままだ。



 ◇◇◇



「わたしの一番尊敬している人物は空手家、【豪拳士】です。拳士を侮るなんて、絶対にあり得ません。ほかの誰が何と言おうと、心が揺らぐことなど」


「そう、でしたわね。資料からも読み取れた勇者最強のひとり、ショウコ・タキザワ」


「はい。わたしの信じる最強です」


「リン・ナカミヤは良き出会いをしたのですわね」


【強拳士】ネタでアンニュイになりかけていたリンパッティア様だったが、中宮さんにかかれば一刀両断だ。


 なにせ生きるお手本がすぐそこにいるのだから。

 先生の貫手は丸太の急所に突き刺さるぞ。俺が短剣を持っても全く歯が立たないのにだ。


 絶対の自信を見せる中宮さんにクラスメイトたちもうんうんと頷き、先生は平然としたまま……、ちょっと耳が赤いな。



「わたしはとある流派を修めようと鍛錬の途中ですが、リンパッティア様にそこでの言葉を贈ってもいいですか?」


「是非とも聞かせてくださいまし」


「拳は剣に通じ、逆もまたしかり。剣は自身の延長に過ぎず、拳も刃と化すんです」


「……心に刻みますわ。なるほどタキザワがあなたを指名した意味が理解できましたわ。わたくしはすでに、拳という剣を手に入れていたのですわね」


「はい。その意識を忘れないようにしてください」


 なんだか分かるような分からないコトを中宮さんがのたまえば、リンパッティア様はどこか感じ入っているようだ。

 それでいいのだろうか。俺にはさっぱりなんだけど。


 たぶん先生は中宮さんのガス抜きを狙ったんだと思うんだけど、ここまで考えていたのかなあ。

 それでも結果が良ければそれでよしだな。



「リンパッティア様、昼食のお時間ですがその前に湯を用意いたしました。どうでしょう」


「気が利きますわね、スメスタ・ハキュバ。大変よろしくてよ」


「お褒めに与り」


 バトル終盤で姿を消していたスメスタさんがデキる男モードとなって帰ってきた。


 やっぱり情けないスメスタさんより、ちょっとクセのある爽やかな方が似合っていると思う。

 元より俺はイケメンに対して思うところが強い方でもないし、むしろ知り合いならばその人が一番らしくあってもらいたいと考える方だ。


 中学の頃はあまり意識していなかった気がするけれど、一年一組のクラスメイトたちと話すようになってからは、そういう思いが強くなったような。


「ではリン・ナカミヤ、行きますわよ」


「え? わたしもですか?」


「あなたは汗をかくことすらなかったとでも?」


「……わかりました」


 高貴な人に風呂を一緒しようぜと誘われた中宮さんが引け腰になるが、リンパッティア様は嫌味を混ぜて篭絡をかけてきた。やるな、悪役令嬢め。



「ええっと、メーラハラさんも一緒ですか?」


「護衛なのですから当然ですわ。外で待機させるだけですわよ」


 焦ってはいても危機管理意識は残されていたのか、中宮さんはメーラハラさんが一緒かを確認する。

 いまさらリンパッティア様が中宮さんを無礼討ちするとも思えないが、タイマンどころか二対一という状況はよろしくないか。


「ならあたしも一緒するよ。はる、いいかい?」


「ん? あー、そゆことね。オッケー」


 そこで名乗りを上げたのはアネゴな笹見ささみさんで、さらにお声が掛ったのが陸上女子の春さんだった。


 なるほど、荒事前提ではないけれど念のためで、しかもこの状況で役立つメンバーということか。



『せーのっ、ドライヤーだよ!』


【嵐剣士】で【風術】使いの春さんが、【熱導師】で【熱術】使いの笹見さんの作った『熱球』を風で押し出したことがある。

 というか、今でも風呂のたびにやっているそうだけど、俺たち男子からしてみればそれが現実なのか探ることはできていない。


 魔術ドライヤー。異世界知識チートなら普通に出てくる発想なんだけど、この世界ではすでに存在している技術でもあった。

 魔道具なんかは無い世界なので人力で、なんだけどな。ただしそれができる人はかなりのレアだ。


 なんといっても【風術】と【熱術】の両方が揃って初めて可能なコトだから、そうそう人材がいるわけではない。

【湯術師】のアーケラさんは【熱術】と【水術】を、【冷術師】のベスティさんは【冷術】と【水術】を使えるのだけど、彼女たちも結構レアな存在で、付け加えると術系統で一番メジャーなのが【水術】というのもある。続けて【熱術】。

 このあたりはたぶん生活に密着しているからなんじゃないか、なんていうのがシシルノさんの推測だけど、俗に言う四属性は、風土熱水の順番でレア度が高い。火じゃなくて熱っていうのがこの世界ならではだな。


 というわけで、ドライヤー属性の術師は希少なのだ。

 だったら複数人数でやればいいじゃないかとなるのが一年一組なのだけど、そこには魔力の干渉という邪魔が入る。

 たとえば『熱球』が維持されたままそこに風をぶつけても、魔力相互干渉が起きて両方の魔術が解ける。結果としては温かい風がゆっくりと散っていくという結果になるのだ。


 本当に不便な世界としか言いようがないな。

 ならば魔術によらない、たとえば団扇であおいだ風を【熱術】で温めればという話にもなったのだけど、【風術】を持っていないと強い風には熱を通しにくいという、これまた厄介な性質が発覚している。

 このあたりは綿原さんの【鮫術】にも通じるルールだな。


 だけどウチのクラスには友情パワーがあるので、そこはお互いの努力でカバーできるのだ。力業とも言う。

 春さんの掛け声に合わせて笹見さんが『熱球』を解除し、直後に風が吹けば、一定の風量と温度を保った熱風が生まれるのだ。


 ドライヤーのように継続的な熱風ではなく、ボフン、ボフン、みたいなちょっと面白い感じになるんだけどな。化学の実験動画で見たことがある気がする。

『熱球』を作る笹見さん、風を吹かせる春さん。そのたびに二人の掛け声がかかるものだから、その光景は餅つきのようだというのが綿原わたはらさんの談話だ。


 それでも【導師】だけあって笹見さんは候補に【風術】を出しているので、いつかはひとりでドライヤーを実現することだろう。



 と、長々と回想しているあいだに、笹見さんと春さんは護衛兼立ち合い兼ドライヤー係として中宮さんたちと立ち去って行った。

 もしかしたらリンパッティア様にもドライヤーを自慢したかったのかもしれないな。


「どうしたの八津やづくん、食堂戻るわよ?」


「だな」


 中庭から建物に戻る扉のあたりで綿原さんが俺に声を掛けてくる。

 気付けば中庭にはもう誰も残っていない。俺の黙考モードも大概だなあ。


 綿原さんの背中とサメのシッポを追いかけるように俺も中庭を後にした。



 ◇◇◇



「たまにはアウローニヤ風も悪くはありませんわね。ねえ、リン」


「そ、そうですね。リンパッ──」


「呼び方。それと口調」


「……そ、そうね。ティア」


 昼食の場に舞い戻ってきたリンパッティア様と中宮さんとの会話である。


 親しくなればタメでニックネーム。たしかに有りがちなケースで、なんならベスティさんが似たような行動に出たこともあるが、悪役令嬢にコレをされると破壊力が高いな。


 ちなみに中宮さんはさっきの騎士服のままだけど、リンパッティア様の方は緑色のドレスになっていた。戦うための服は持ってきていないのに換えのドレスがあるあたりがすごい。



『これよりわたくしのことを『リン』と呼ぶのを許しますわ』


『ええっと、それは嫌です。あの、わたしの名前も』


『そうでしたわね。これは、困りましたわ』


『だったら……、ティアではどうでしょう』


『ティア……、ティアですわね。許しますわ、リン・ナカミヤ』


『わたしのことはリンでいいですよ。自分で自分の名前を呼びようで、不思議に感じるかもしれませんけど』


『そうですわね。それと口調ですけれど──』


 なんていうやり取りが成されていたのを風呂の扉の外で待機していた笹見さんと春さん、ついでにメーラハラが聞いていたらしい。

 ベタだよなあ。


 なんでもリンパッティア様は愛称が『リン』なのだそうで、なんと護衛のハーラメラさんもそう呼ぶらしい。だけど、それでは中宮さんの下の名前と丸被りだ。

 なんとか愛称で呼ばせたいリンパッティア様の圧に負け、中宮さんが出した答えがティアである。


 さらにはタメ口が許可というか強制されたようだけど、俺たちは除外されていて、現在のところは中宮さんだけの持つ特権ということになっている。


 中宮さんは気付いているだろうか、この時点で今後彼女がリンパッティア様専用窓口にされることが確定しているのを。

 ほら、委員長のメガネが輝いているぞ?



「根底にあるのは足捌き。いえ、そこを起点にした体動、ですわね」


「そう。それこそが先生に追いつく道のりの第一歩」


「それがタキザワへの──」


「先生」


「わかりましたわ。以後タキザワ先生とお呼びいたしますわ。リン」


「そうよ、ティア」


 とはいえ、なんなんだこれ。


 女子同士仲良くなるのはいいことだと思うけれど、話の根っこが武術っていうのがあの二人らしいというか、なんというか。

 それとも素で相性がいいのかもしれないな。中宮さんって融通が利かないけど芯が通っているタイプだし、そう言う意味ではリンパッティア様も似ているような気もするし。


 そんな二人のやり取りを見守るクラスメイトたちの視線は一部を除いて生暖かい。

 先生などは完全に可愛らしいものを見る目になっている。


 教師を目指すくらいに先生は子供好きだし、なにより悪役令嬢が大好物なのはさっきまでの挙動でわかっているんだ。それでも中宮さんにならば譲るくらいの度量を持ち合わせているんだろう。

 いや、もしかしたら自分の妹分と悪役令嬢の友情を愛でる方面かもしれない。


 問題なのはちょっとジト目になっている綿原さんの方だ。

 普段は中宮さんにまとわりつかれてすげなくするムーブを好む綿原さんだけに、リンパッティア様に持って行かれるのはちょっと面白くないのかもしれない。



「綿原さん」


「なに?」


 対面から声を掛けてみたけれど、やはり返事はいつもに比べて元気が足りていない。


「四六時中ってわけでもないんだし」


「なんのことかしら」


 話の持っていき方、ミスったかな。ちょっと綿原さんの声色が固い。


「俺としては担当者ができて助かるかなって思ってるんだけど」


「それはまあ、そうだけど」


「ああして困惑しているのも、見ていて面白いし」


「……そうね」


 あえて中宮さんという単語を出さずに会話を進める。


 綿原さんとしてもリンパッティア様専任が誰か居てくれるのは助かるのだろう。ただでさえ俺と一緒に迷宮委員なわけだし。


 なにしろ予感はビリビリしているのだ。今後、冒険者として拠点を構えた一年一組を、あのリンパッティア様が放っておくだろうか。

 悪さを仕掛けてくるという意味ではない。中宮さんと話して、先生を持ち上げているあの様子を見るに、ポジティブ方向ななにかで。



「仕方ないわね」


 そこで綿原さんは大きくため息を吐いてから、モチャっと笑った。切り替えが早い。


「なら、わたしもリンパッティア様に認められて、なぎって呼ばれることにしようかしら」


「前向きだなあ」


「そ」


 うん、それでこそ綿原さんだよ。


 けれどそれだと、綿原さんまでリンパッティア様担当にされてしまうのだけど。

 まあいいか。


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