第12話 一年一組と担当者たち




 談話室のドアがノックされたのは、五刻の鐘が鳴るのとほぼ同時だった。絶対エントランスで張っていたんだろう。


「どうぞお入りください」


 滝沢たきざわ先生が応答した。

 昨日『先生をやめるぞ!』みたいな宣言をしていたわけだが年長者ではあるし、相手もいることだ。俺たちも自由に発言していいけれど、基本的な応対は先生に任せることになっている。



 入ってきたのは六人。ひとりは昨日会った焦げ茶ショートの女性、アヴェステラさん。肩書は忘れた。

 さらに表情が微笑で凍り付いたままのメイドさんが三人。ここまでは知っている人たちだ。

 残り二人はといえば。


「初めまして」


 ひとりはアヴェステラさんと同世代くらいの人、肩にかかる金髪がきれいな女性だ。

 この世界、定番だけど西洋風の顔立ちの人たちばかりだな。


「やあ、こんにちは。……まずは準備からかな」


 もうひとりは相手方で唯一の男だ。これまた金髪を短くしたなかなかカッコイイおじさんだけど、なんか疲れた空気を纏っている。苦労人とでもいうか。

 彼は壁際に避けられたテーブルとイスを見渡していた。会議の準備ってことかな。



 事実そのとおりだったらしく、メイドさんたちがそそくさと動き出した。アヴェステラさんたちも。

 それを見てしまったこっちはこっちで、男女リーダー格の委員長と中宮なかみやさんが目線でみんなに指示をだした。結局手伝うわけだ。



 ◇◇◇



 さて、アヴェステラさんと他二人が並んで俺たちの正面に立っている。

 それに立ち向かうクラスメイトたちは、元々あったテーブルを並べ直して四班に分かれた感じでイスに座っている。グループ学習みたいだな。

 そして背後にある閉じた扉の前にはメイドさんが三人。ここから逃がさないつもりにも見えてしまう。


「勇者様方には昨日に引き続きのお付き合い、ありがとうございます」


「アヴェステラさん」


 やたら丁寧なアヴェステラさんに、早速先生がツッコんだ。


「過剰な謙遜は必要ありません。それに『勇者様』も止めていただけると助かります」


「それは──」


「言語の違いは理解しているつもりですが、特別な呼ばれ方はどうにも。普通に接していただける方が助かるのです」


 この世界の『勇者』という単語には日本以上に重みを感じてしまうのだ。俺たちはまだここにいるだけで、何もしていないのに。


 アヴェステラさんは少し悩む素振りをしながら、横にいる二人と頷きあった。


「わたくしたちとしましては、みなさんは『法的に勇者』なのです。ですがそうですね、公式の場以外ではこのような調子でどうでしょう」


「……ありがとうございます」


 実際、アヴェステラさんの口調は柔らかくなった。『法的に勇者』ね。



「まずは正式な自己紹介からですね。わたくしはアヴェステラ・フォウ・ラルドール。王室付筆頭事務官として法衣子爵位を賜っています。王国側としてみなさんに応対する責任者ということになりますね」


 子爵ときたか。脳内にあるフィルド語辞典でカチリと単語が嵌った。この感覚はどうにもムズ痒い。


「わたしはシシルノ・ジェサルだ。魔力研究者としてそちらを重点的に担当する」


 次に挨拶してくれたシシルノさんはキツ目の表情をしている。アヴェステラさんとは大違いだけど、仕事ができるクールな女の人ってところだ。嫌な仕事だと思っているのか、それとも素なのかはわからない。俺の【観察】、さっきから使っているつもりだけど、全然仕事をしてくれないな。


「口調を崩して構わないのは大歓迎だよ。俺はヒルロッド・ミームス。第六近衛騎士団、通称『灰羽』副長兼ミームス隊の隊長だ。長い肩書ですまないね。主に君たちを鍛えるのが任務になる」


 くたびれたおじさんに見えたけれどそっち側の担当者だった。鍛える、ね。

 それでも表情は明るくて気さくな感じが伝わってくる。悪印象を持てなさそうなタイプの人だ。


 ちょっとまて、それってラスボスとか隠れボス系のパターンじゃないか? 中盤とか最後の方で、実はね、みたいな。

 ホント、疑いだしたらキリが無くて嫌になる。



「では、改めてご挨拶をさせていただきます。わたしは滝沢昇子たきざわしょうこと申します。今のところは、この場にいる異邦人の代表者として扱っていただいて構いません」


 最初に自己紹介したのは先生だった。


 女性としては比較的長身の百七十くらいで俺と同じくらいの身長だが、ゴツいという感じはない。

 むしろ線が細いくらいなのだけど聞いた限りでは空手をやっているとかで、もしそれがこの世界でも通用するならばそれが途轍もなく頼もしい。

 茶色のボブカットにメガネがクールな美人さんだ。やっぱり空手家というより英語の先生という方がシックリくるよな。



藍城真あいしろまことです。よろしくお願いします」


 生徒の自己紹介が委員長からなのは単純に出席番号が一番だからで、リーダーだから的意味はない。あえて委員長なんて肩書も付けない。いつかはバレると思うけれど、誰が統率しているかなんて相手に教える必要はないからだ。


 同時に俺は、こんどこそ全員のフルネームを頭に焼き付けなければいけないだろう。今後を考えれば、入学式のときのような追々でいいや、などという腑抜けた考えは捨てなければ。


 藍城あいしろ委員長はもはやテンプレと言っても過言のないくらいの委員長だ。

 黒髪を短めに切りそろえて、細く四角いフレームの知的なメガネの奥には理知的な光が輝いている。背丈は俺とそう変わりはないし、体がゴツいわけではない。どちらかというと運動よりも勉強に重点を置いたタイプだろうか。

 こう表現してはなんだが真面目メガネ男子の優男で、こういう異世界転移モノでは、いかにも勇者のリーダーを引っ張る存在に見える。


 だからこそ、俺の中では地雷に見えなくもないのだ。王女と手を組んでヤバい方向に行かないように気を付けたおいた方がいいのかも。



上杉美野里うえすぎみのりです。よろしくお願いします」


 続く上杉うえすぎさんは、とても穏便な人に見える。

 首のうしろで髪の毛を大きな団子にまとめ上げ、ちょっとだけふくよかではあるが、決してみっともなくはない。むしろ母性? そんな感じだ。こんな理不尽な状況でも微笑みを絶やさないので、そういう落ち着きがそれを増幅している。



海藤貴かいとうたかしだ」


 続けて名乗ったのは、昨日の夜にヤンキーな佩丘はきおかとのあいだを取り成してくれた海藤かいとうだ。

 俺より少し背が高く、髪を短くしていて妙に筋肉質な体格をしているお陰で、運動系の雰囲気を前面に出している。口調からも開けっぴろげな感じがあって、とっつきにくいという雰囲気はない。



「ミア・カッシュナーデス!」


 今さらではあるが彼女は加朱奈かっしゅなーミア。もはや外様の俺ですら感想を加えるまでもない存在だ。

 サラサラの金髪を雑なローポニーテルにまとめて、緑色の瞳をイタズラっぽく輝かせている。黒髪黒瞳が勇者の定義であることに真っ向から挑戦するする有様だが、それでもクラスメイトたちが協力し、断固として彼女は日本人であるということを言い張った。 



草間壮太くさまそうたです」


 続いて挨拶したのは線が細くて俺よりちょっと背の低い男子だ。

 太めのフレームのメガネとそこにかかる程度に長い前髪が特徴的で、悪い言い方をすれば陰キャという印象なのだが、挨拶の言葉自体はどもったりもせず、普通に淡々としている。

 そういえば、帰還問答の時も普通に会話をしていたし、わりと素直に人の意見を聞いていた気がする。どちらかというと俺たちオタ側の存在にも思えるが、まだよく話したことがないのでどういうヤツなのかはハッキリしていない。



「つぎは僕かな、酒季夏樹さかきなつきです」


 おつぎは双子姉弟の片割れ酒季さかきの弟の方だった。

 クラスの中では一番背が小さいけれど、だからといってオドオドとした感じはない。むしろ明るく、見た目の印象は女顔で線が細くて守ってやりたくなるような、子犬系な印象を抱かせる不思議にヤツだ。


「ハルは酒季春風さかきはるかだよ。はるでいいからね」


 酒季弟に続いて元気に自己紹介をしたのは酒季姉こと春さんだ。

 たしか日本での自己紹介では陸上部に入るとか言っていたような記憶がある。ベリーショートの髪を揺らす元気いっぱいの快活な女子。女顔な弟と大した背も変わらないし、こちらはカッコイイ系女子だ。弟との組み合わせが絶妙だな。



「じゃああたしだね。笹見玲子ささみれいこだよ、よろしくね」


 続いて発言したのは、あきらかに一年一組の女子で一番背が高く、アネゴな口調の女子だ。

 古韮ふるにらと『召喚の間』で話題が出たように、高身長で口調が砕けているので、親しみやすくて頼りにしたくなるような空気を持っている。たしか【熱導師】とかで王国側が盛り上がっていた記憶がある。



「あの、白石碧しらいしあおいです。よろしくです」


 続いては俺も話したことがある、大人し系ダブルおさげ文学少女の白石しらいしさんだ。大きく丸いメガネがアクセントだな。

 彼女は俺たちオタ側だというのは判明している。俺はまだガッツリ話し込んだことはないが、いつかマッチする話題があれば是非ともお願いしたい人物だ。とくにアニソン系でよろしくしたい。

 昨日聞こえてきた歌だけでも、俺との話題には事欠かないだろう。



田村仍一たむらじょういちだ。よろしくな」


 ぶっきらぼうに続いたのは小太りでお坊ちゃんヘアをした、典型的な嫌味キャラっぽい田村たむらだった。

 こいつこそメガネキャラっぽいのだが、そういうことはない。というか、俺と直接話をしたことはほとんどないので、口が悪いヤツだとしか印象しか持てていないのだ。俺からしてみればクラスの中でも接点が薄い存在だな。さて、どんなヤツなんだろう。



中宮凛なかみやりんです。よろしくお願いします」


 そしていわずもがなのクラス二大美人の片割れ、学級副委員長をやっている中宮なかみやさんが丁寧に挨拶をした。

 長い黒髪を高い位置でポニーテールにまとめ、目つきは鋭く、名の通りに凛とした印象を抱く美少女。それが中宮さんだ。印象は一言、バリバリの和風美人。委員長とペアを組みことが多くて、やはりそういうことなのかと邪推するが、今の段階でそれを疑っても始まらないか。



野来孝則のきたかのりです。よろしく」


 続けては、クラスで古韮の次に俺と仲良くしてくれているオタ系男子の野来のきの出番だった。

 線が細くて背も高くはない。顔立ちは優しげで、会話をしていても大人しめではあるが、オタネタにはしっかりと乗ってきてくれる中々楽しいヤツでもある。



「はっ。佩丘駿平はきおかしゅんぺいだ」


 で、昨日の夜に会話することになった不良というか、ヤンキー系な空気を纏うのが佩丘はきおかだ。口調自体はさっきの田村と負けず劣らずぶっきらぼうだが、こっちは言葉数が足りないタイプだろうか。

 俺と一緒で母子家庭という話を軽くは聞いたが、デカい体と鋭い目つきからはそういう不遇要素は感じられない。



「アタシは疋朝顔ひきあさがおだよ~。よろしくってねぇ」


 茶色っぽく色を抜いた髪をパーマかなにかでウェーブさせ、口調がチャラいのがひきさんだ。

 帰還の話でちょっとゴネたのは、こういう異世界モノを知っていたのが理由だとは聞いている。俺としては積極的に仲良くなりたいとは思わないが、そっち系の話題を出されたら食いついてしまうかもしれないな。



藤永陽介ふじながようすけっす。よろしくっす。へへっ」


 クラス一のチャラ子が疋さんならば、チャラ男となれば藤永ふじながとなるだろう。

 ひょろ長い背格好だが、見た目はなかなかカッコいいというか、やっぱりチャラい。髪の毛こそ長めだが、金髪にしているわけでもピアス穴があるわけでもない。ごく普通のチャラ男なのだが、口調がいただけない。

 っす、っすと語尾がつながるものだから、どうしても下っ端感が出てしまい、どういうスタンスで付き合えばいいのか、話したことのない俺には判定できない存在だ。



古韮譲ふるにらゆずるです。よろしく」


 そして俺にとって一番の友人、というか今の段階では縋る対象になってしまうのが、クラスのオタリーダーたる古韮ふるにらだ。

 背丈は俺とさほど変わらないが、なにげにイケメン……、ちょいイケメンなあたりからはオタク風を感じない。だけど本人はオタな部分を全く隠す様子もなく、俺ともそっち系の話題で野来と三人で話してしまうのが、山士幌高校における俺の交友のスタート地点になった。

 入学初日に向こうから話しかけてきてくれたのもあって、俺としては是非とも末永い付き合いを期待したいところだ。



「ボクは奉谷鳴子ほうたにめいこです。よろしく!」


 クラスの中で飛び抜けて低身長だけど、元気な空気を持っている、いわば元気ロリっ娘が奉谷ほうたにさんだ。

 まだ付き合いが三日目でまともに話したこともないけれど、昨日は女子部屋のみんなを励ますみたいに白石さんと一緒になって歌って、今朝は湖の景色で大騒ぎした元気娘の印象だ。見ているとこっちが元気にさせられてしまうような、そんな明るい女子だな。



馬那昌一郎まなしょういちろう、です」


 続いてはガタイのいい馬那まなだ。背丈は佩丘と並んでクラス最高で百七十五くらいだろうか。佩丘と違うのは横幅もガッチリしていて、いかにも筋肉質といった感じなヤツだな。

 昨日の話では自衛官を志望して親とイザコザを抱えているらしいが、踏み入る立場にない俺には何とも言えない。けれど、馬那の振りまく雰囲気からはまさに実直といった空気を感じるあたり、向いているんじゃないかという気分にはなる。いやいや、人の家の事情に口をツッコムのはちょっと違う。



深山雪乃みやまゆきの、です。よろしく、です」


 いよいよ俺の直前で挨拶しているのが深山みやまさんなのだが、彼女は性格より先に外見が印象に残る女子だ。ミアと似ていると言えばそうなのだが、所謂アルビノ系というやつで、長くて前髪パッツンな髪は染めてもいないのに栗色で、瞳は赤褐色をしている。表情はオドオドしていて、どうにも引っ込み思案な印象を隠しきれていない。

 今のところ俺との接点は皆無と言っていいだろう。


八津広志やづこうしです。よろしくお願いします」


 で、俺の番だ。

 自分のコトとなると言うべきことはなにもなくなる。背の高さは百七十くらいで我ながら普通、顔も多分普通。長くもなく短くもない黒髪がこれまた普通。

 ここでベラベラオタク趣味をぶちまけるような度胸もない、これまた普通のオタクキャラだ。ま、まあ、俺のことはこれくらいにしておいてもらいたい。



綿原凪わたはらなぎです」


 最後に綿原わたはらさんが名乗って全員の挨拶は終了となる。


 出席番号順で最後になる彼女は青いフレームのメガネをかけて、目線の鋭い、一見すればクールな美少女だ。

 何故か俺に話しかけてくれるし、美人さんなのに笑うとモチャっと口元が緩むのが面白い人だと思う。これからどうなっていくのかはわからないが、できれば仲良くしていきたいと俺自身は心から思っているんだけど、あっちはどうなんだろうな。


 こうして一年一組二十二名の自己紹介も終わり、やっと具体的な話が始まろうとしていた。

 俺は俺で、クラスメイトたちの自己紹介を記憶するので必死だったりするのだが。



 ◇◇◇



「まずは確認となります。みなさんは『勇者との約定』に基づき我が国、アウローニヤ王国の庇護下に置かれることになりました」


「……」


 いまさら確認もなにもあるかといったところだが、必要な意思確認なのだろう。当然俺たちは黙ったまま続きを待つ。


「みなさんの生活については完全に保証します。居住についてはここ『水鳥の離宮』を提供しますので、ご要望がありましたら随時お知らせください」


 当面はここに閉じ込められるってことか。はたしてどこまで移動の自由があるのやら。

 だけど本当に知りたいのはそこじゃない。


「待遇には感謝いたします。ですがそれ以前、大前提をお伺いしたいのです」


「……どうぞ」


「わたしたちがこの国において『何者』であるのか、わたしたちは何を求められているのか」


 まずはここからだ。昨日の夜、強くなれと言われたくらいで、具体的にどうなのかは聞かされていない。なにをしたらいいのかわからない状況にはもうごめんだ。

 俺たちの召喚がこの国でも想定外だったのは知っているけれど、こうして正式な担当者が現われたのだから、向こう側の望む方向は決まっているはずだ。



「たしかに最初に明確にしておくべきですか。……みなさんが『勇者』である、という返答を期待しているわけではないのですね」


「はい」


「法的には『王家の客人』です。他国からの外交官と同等の待遇ですね。こちらの離宮が利用できる理由でもあります」


 意外とまともな扱いだった。


「ただし騎士相当の力を得るために努力していただく、という条件付きになりますが」


「……そうなるのでしょうね」


 先生を筆頭にほぼ全員がため息を吐いた。

 そりゃそうだ。さんざん勇者とおだてられたからには、こうなることは当然予想の範疇だった。


「正直に言いましょう。王陛下が『勇者との約定』を宣言していなければ『高位神授職を持つ平民』として、みなさんを扱っていた可能性がありました」


 おいおいおい、クラスの何人が気付いている? アヴェステラさんの発言が脅しや懐柔になっているなら、この国の平民はどれだけヤバい扱いなんだ!?


「わたしたちは同意なくこの国に呼ばれたのです。感謝しろとでも?」


 さすがに先生の言葉に怒気が混じった。怖いな。変なオーラが見えた気がする。


「そうは言いません。ですがお互いにそれを論じることに意味がないとは思いませんか」


「つまり、帰還の方法は開示できないと」


「持ち合わせていないのです」


 アヴェステラさんと先生が火花を散らしている。

 だけどこれも想定の範疇だ。俺たちの召喚成功はこの国も予想していなかった。和風に言えば神社で祈っていたらキツネの妖怪が出てきた。さあどうやってお帰り頂くか、そういう感じなんだろう。



「君たちが召喚された部屋の一角。あの場所を『迷宮』とする説がある」


 冷たい声で割り込んできたのはシシルノさんだった。


「あの部屋は『アウラド迷宮』の入り口に面しているが、召喚の場を含めた迷宮が先に存在し、そこから部屋を、そして王城が建造されたという推論だね。実はわたしも支持している」


「それって、俺たちは『迷宮』を使って呼ばれたということですか」


 ヤバい。思わず口を挟んでしまった。全員の目が俺を向く。

 こうなったら話し続けるしかないじゃないか。


「『使って』というのは難しいね。少なくともわたしの知る限り人の手によって、遠方はもとより別の世界から瞬時に人や物を移動するような手段は存在していない」


「そのえっと、特殊な『技能』でも」


「資料に残る限りで、そのような『技能』はない。おとぎ話なら別だろうが」


 俺たちはそのおとぎ話に巻き込まれている気分なんだよ!

『神授職』『技能』に続いて『迷宮』かよ。まるきりゲームの設定じゃないか。しかもレトロ寄りの。だけど話が見えてきた。


「つまり王国のみなさんが言いたいのは、帰還に関する何かは迷宮にあるかもしれない、ですか」


 俺の推察に正面に立つ三人が軽く頷いた。


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