第196話 崇天祭三日目
崇天祭はこれまでにない盛り上がりを見せていた。
それもそのはず。今日は崇天祭三日目。お祭り騒ぎも最後の日だ。大学生たちは昼夜問わずテンション爆上げで過ごしているにも関わらず、この日はそれを超える盛り上がりだ。
あれだな、徹夜明けのテンションに近い。
しかし、理由はそれだけではないらしい。
文芸部の面々もそわそわした空気をまとっていた。
これはあれだ。角刈りが話していたナイトパレード需要。甘くて胸焼けする桃色空間。
「なんだか、今日は皆さん落ち着かないですね」
ケーキを取りに来たリーシャとばったり会った時、口をひそめて言ってきた。恋愛経験値幼稚園児のリーシャですら気づくのだから、相当なものだろう。
そう、崇天祭の三日目はナイトパレードがあるのだ。
広い競技場を開放し、そこで音楽を流して踊る舞踏会のようなものだ。
別にルールがあるわけではないが、大体皆恋人と一緒に参加するのが通例だ。
つまるところ、このナイトパレードに誘うというのはそういう意味。
さっき休憩に入ったら、会長が「頑張れ
金に目が眩んでいるうちに、
ちなみに竜胆について報告したのは俺である。楽しそうなんだもん。
そんな感じで各々そわそわしているわけだが、かくいう俺も人のことは言えないのだった。
今日は約束の日だ。
別れてから半年、まともに話す機会もないまま来てしまった月子との、久しぶりの約束。
『私は‥‥私は、もうあなたに傷ついて欲しくないの』
俺は未だに、あの言葉への答えを見つけていない。
それでも話さなければいけないことがある。大切な人だから隠していた事実を、大切な人だから伝えるのだ。
その時は、もう目の前まで近づいていた。
◇ ◇ ◇
約束の場所は、屋台が多く出ている通りからは外れた場所だった。
月子はにぎやかなところよりも静かなところを好む。
こういう文化祭の空気も嫌いじゃないだろうけど、きっと三日目にして疲れも出ているだろう。
何より彼女はこういう場所の方がよく似合った。
「勇輔」
「――」
黒地に薄桃色の花びらが散った袴を着る月子は、夜空に咲く花火のようだった。
やっばい。リーシャやカナミ、陽向も袴姿はよく似合っていたし、綺麗だった。
しかし月子は違う。
こんな近くで見たのは初めてだが、似合っているとかいう段階ではなく、この姿こそが本当の彼女だとさえ思えた。
はまりすぎてる。そういえば戦いの時も戦闘用の袴を着ていたな、普段から着慣れているのか。
「は、袴。綺麗だな」
「そう、ありがとう」
彼女はうっすらとほほ笑んだ。
どうしたんだ、こんなに月子が自然に笑っているのを見るのは久しぶりだ。それこそ、別れる前が最後じゃないか。
「それで、今日はどうするんだ? どこか行きたいところでもあるの?」
俺は月子に呼ばれたので、この後どうするかは聞いていない。呼び出した以上は何か用件があるのだろうが、ここで話すってこともないだろう。
「そうね、少し歩きましょうか」
「あ、ああ」
俺たちはとくに目的を決めることもなく歩き出した。
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