第344話 閑話 ドキドキ! リーシャのマジカルクッキング! 隠し味編

 先手、リーシャ。


「えーと、まずは鰹節と昆布の合わせ出汁を作って、それをカレーと混ぜ合わせます。弱火で水分を飛ばしながら、とろみがつくまで混ぜます」


 リーシャはカナミが作ってくれたレシピの通りに、丁寧に作業を進める。もう力加減が難しいことはないので、失敗の要素もない。


「最後に白味噌を小さじ半分加えて、溶かしきったら完成です!」


 隠し味を加え、リーシャはそう宣言した。


『へえ、味噌を入れるなんてきいたことなかったなあ。普通に美味しそう』


 和風カレーというから、めんつゆにねぎでも加えるのかと思ったが、想像以上にきっちりしたアレンジだ。


 とても異世界人が考案したものとは思えない。


「なるほど、一口味見をさせていただいても?」

「ええ、大丈夫です」


 リーシャから許可をもらったノワが、和風カレーを一口食べる。


『うわ、おいしっ!』


 味覚を共有している陽向は、思わずそう声を上げた。


 カレーらしい辛みは残しつつ、全体的にマイルドな仕上がりになっている。最後にいれた味噌のおかげか、普段のカレーには感じない深みが感じられた。


 勇輔に限らず、日本人であれば誰でも好きだろう。


「ふむ、美味しいですね。流石はカナミのレシピといったところでしょうか。それにあなたの手際もとても素晴らしかったです。まさしく優しさと愛情のこもった逸品ですね」

「そんな、そこまで言われるほどでは‥‥」

「ですが!」


 ノワはカッと目を見開いた。


「男性は優しいだけでは物足りぬものです。必要なのは刺激とときめき。愛を燃え上がらせる最高のスパイスこそが、カレーの味を決めるのです!」


「‥‥」


『‥‥』


 リーシャも陽向も、ノワが何を言っているのかいまいち分からず、目を白黒させる。


 ノワは不敵な笑みを浮かべたまま、戸棚をごそごそと漁り、何かを取り出した。それは調味料なのか、はたまた料理の材料なのかさえ不明な怪しい品の数々。


「あ、あの、それは一体?」



「これは私がひそかに集めた薬膳やくぜんの材料たちです」


「薬‥‥膳‥‥?」


「ええ、男性の機能を強化し、気持ちを昂らせる異界の魔術。この世界は本当に便利ですね。ボタン一つであらゆる情報と物が手に入るのですから」


 見る者が見ればすぐに分かっただろう。ノワが持っているそれらは、マムシにすっぽん、マカ、牡蠣、ニンニクと、いわゆる精力剤とも呼ばれる食材たちだった。


『なっ、いつの間にそんなもの⁉』


「これを食べればユースケもいちころです。食後のデザートまでしっかり味わっていただくとしましょう」


「しょ、食後のデザート‥‥?」


 リーシャがごくりと喉を鳴らした。


 それに対し、ノワは小さく唇を下で舐めた。


「ええ、最高の品質を保証しますよ」

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