前職、勇者やってました。ー王女にも彼女にも振られた元勇者、魔族と戦ってほしいと聖女に請われる。仕方ない、文系大学生の力を見せてやる。ー
第343話 閑話 ドキドキ! リーシャのマジカルクッキング! ゴング編
第343話 閑話 ドキドキ! リーシャのマジカルクッキング! ゴング編
『な、どうしていきなり出てくるの⁉』
無理矢理身体の主導権を奪われた陽向は、心の中でそう叫んだ。しかし表に出てきたノワは悪びれる様子もなく髪を払いながら言った。
「ユースケが気に入る味というのが気になりました。リーシャ、あなたはそれを知っているのですね?」
「あ、あれ、ノワさんですか? いつの間に出てこられたのですか?」
「そんなことはどうでもいいでしょう。それよりユースケの気に入る味というものに興味があります」
「そ、そうですか」
リーシャは戸惑いながらも答える。
「カナミさんから教わったのですけど、ユースケさんは出汁や醤油を使った素朴な味が好みらしいんです。なのでこのカレーもそういった調味料を足して、和風? に仕上げるとよいと言われました」
基本的に勇輔は出てきた料理に対して文句を言うことはない。アステリスでは戦場を渡り歩いてきたのだ。食べられるものが出てくるだけありがたいという、それはそれでハードルが低くて作り甲斐のない男なのである。
そのためカナミが作る 料理にもあーだこーだ言うことはほとんどなく、美味しく食べる。しかしカナミの目は些細な変化を見逃さない。
長年異世界にいたこともあり、勇輔は故郷の味に飢えていた。その思いが身体に染み付いているのである。
「和風、確かこちらの国の味付けでしたね」
ノワは陽向と身体を共有している影響で、異世界のメンバーの中でも特にこちらの世界に詳しい。
そのためリーシャが話しているカレーの味がどういったものなのか、なんとなくイメージできた。
『へえ、先輩って和風カレーが好きだったんですね‥‥』
身体を奪われていることも忘れ、陽向が呟く。
――まったく甘ちゃんですね陽向。好きな相手の好みの味も把握していないとは。
『なっ、だって仕方ないでしょ! 私が先輩にご飯作ることなんてほとんどないんだから!』
それは自分でその機会を作らなかった怠慢ですよ。それに作らずとも、一緒にいればなんとなく分かるでしょう。
『ぬぐぐ‥‥』
心の中だというのにぐうの音も出ず、陽向は唸った。
『それならノワは先輩が好きな味を知っているんですか?』
当然でしょう?
ノワは心の中でそう答えると、リーシャににこやかな笑顔を向けた。
「リーシャさん、一つ提案させてください」
「はい、どうかされましたか?」
「カレーを二つに分けて、それぞれに味付けをするというのはどうでしょう。私とあなたで、ユースケの気に入る味になるように」
「えっ‥‥」
リーシャが固まった。
それは事実上の宣戦布告だった。どちらがより勇輔の好きな味を作り出せるかという、乙女の意地とプライドを賭けた真剣勝負。
この負けず嫌いの
普段は陽向というストッパーもあり、カナミの助手の立場に甘んじているが、勇輔の気に入る味と言われて引き下がるわけにはいかないのだ。
今回の主役はリーシャだ。今日のためにカナミとレシピの相談もしたし、不器用なりに懸命に作ってきた。
『ノワ、勝手すぎるよ! リーシャちゃん、こんな話受けなくていいんだから!』
あなたは黙っていなさい陽向。彼女がどういう思いでユースケと接しているかは私には分かりませんが、本気だというのならそれにふさわしい選択を取るでしょう。
ノワたちの見ている前で、リーシャがゆっくりと頷いた。
「分かりました。私の方が美味しいカレーを作ってみせます」
「ええ。それでこそ女というのものです」
かくして、聖女と
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