第180話 寄り合い居酒屋
『裏天祭』と言っても、松田いわく店の種類は多岐に渡る。
俺たちの目的は裏天祭そのものを楽しむことではなく、コインと情報収集だ。
つまり行くべきは、最も人が集まるであろう場所。
そこでまず白羽の矢が立ったのが、『落語研究会』が開いている寄り合い居酒屋だった。
居酒屋といってもメニューがあるわけではなく、自分達が持ち込んだ料理と酒で一杯やれるという、休憩所だ。
ただの休憩所がそんな有名になるってどういうことだよ、と内心思っていたわけだが。
「
「どうせ安い手だろう」
「つまらん上がりで終わらせたら承知せんぞ」
「きへへへ。言ってろ、今日は尻の毛までむしってやるつもりだぜ」
ジャラジャラといたるところで鳴り響く
大学の一角にござと和傘によって作られた異質な空間が目の前に広がっていた。
ああ、こういう場所か。
「
「まあなんでもありが売りだからね。みんな好き勝手やってるよ」
総司と松田はひょうひょうと寄り合い居酒屋を見回した。俺も付き合いで雀荘には行ったことあるけど、似てるっちゃ似てるわ。
しかしここでは麻雀ばかりではないらしく、カードやボードゲームをやっている人たちも一定数いるようだった。
ただどいつもこいつも、明らかに賭けてるんだよなあ。
何がとは言わないが、アステリスならいざ知らず、現代日本の大学内でこのようなことが平然とまかり通っているのは、中々にショッキングな光景だ。
「ゆ、ユースケさん、これは一体何が行われているのですか?」
「ゲーム、かな‥‥」
間違ってはいないけど、明確に何かが間違っている。
リーシャは異様な空気感に帽子の下で目を白黒させていた。しかしリーシャ、言っとくけどアステリスの酒場はこれの百倍酷いぞ。
賭け事なんて当たり前で、賭けているものがお金ばかりとは限らない。盗品やら生物やら、違法な物品やら、あらゆるものがやりとりされていたし、刃傷沙汰なんてしょっちゅうだ。床に染み込んでいる模様が酒なんだか血なんだか分からないのである。
冒険者とか用心棒とか、喧嘩がコミュニケーションの一つって本気で信じてる連中だから、マジで頭おかしい。
郷に入っては郷に従えと言うし、ここは一つ、俺もゲームに興じるとしよう。
「んじゃ、一時間後に集合で」
「俺も適当に回ってくるわ」
二人はそう言うと、さっさと自分の興味があるところに歩き出してしまった。あいつらの辞書に協調性という言葉はない。
突っ立っていても仕方ないので、俺もリーシャと一緒に寄り合い居酒屋へと入っていった。
入場だか入店料だかに三百円を払い、ござの上を歩く。
ござの上にはちゃぶ台がいくつも置かれ、そこで様々なゲームが行われているらしかった。
空いている場所を選んで自分から入るシステムみたいだけど、俺の目的はゲームとは別だ。
耳に魔力を集中させ、周囲の音を拾う。雑多な音の中から人の言葉だけを識別し、歩きながら聞き分ける。
「これに負けたらもう──」
「知ってるか、第二外国語にいた可愛いあの子なんだけどさ──」
違う。
「今日さ、俺妖精さん見たんだよ、本物」
「マジかよ、あれって噂じゃ──」
違う。
「明日のミスコン、誰が優勝すると思う」
「そりゃ木崎だろ。モデルには勝てねーって。それより聞いたか、ミスコンの賞品に──」
違う。
「もう賭けるものねーって」
「まだまだあるだろ。知ってるんだぜ、例のやつが──」
これだ。
俺は声の聞こえた方へと向きを変えた。
そこでは若い男の大学生が三人、ポーカーをやっているところだった。ちゃぶ台の上には安っぽいチップが散らばっている。
良かった。麻雀やらボードゲームやらは、ルールがよく分からなくてやり辛い。トランプなら、いける。
できるだけにこやかな笑みを浮かべて俺は彼らに声をかけた。
「悪い、初めて来たんだけど、俺たちも混ぜてもらえないか?」
初めは何とも言えない顔で俺を見ていた男たちだったが、隣のリーシャに気付いたんだろう。女子がいると分かれば態度が変わるのは男であれば当然。
「もちろんいいぜ」
「ルールは分かるよな」
「ほら、そこ座れよ」
すぐに場所を空けてくれた。
リーシャを隣に座らせ、まずは俺だけで参加する。さて、闇のゲームを始めるとしよう。
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