第179話 いざ裏天祭
日もあらかた落ち、涼しい風が吹き始める頃。崇天祭の一日目は無事に終了した。
「ぬっふふーん」
お客様がいなくなり、見慣れた文芸部の面々が集う『大正文芸喫茶』。そこでは会長が気味の悪い笑みを浮かべて本日の売上を数えていた。
なんだろう。貞子が皿の枚数を数えているように見えてしまう。
常に人が並んでいるような状況だったし、売上良かったんだろうなあ。
看板娘といえば聞こえはいいが、聖女を客寄せパンダにして荒稼ぎしているなんて教会に知れたら、神殿騎士による聖伐軍不可避だ。
マジで異世界でよかったと思う。
「終わったねー」
「ああ、普段のバイトより疲れたぞ」
袴姿の総司が珍しく肩を落としていた。女性客に人気だった君は、多分俺とは違う種類の疲れだと思うぞ。俺は今日で聖者になれるほどの徳を積んだ。舌打ちに被せてこちらも舌打ちをするイライラハーモニーなる技まで完成させてしまったほどだ。全然徳積めてなかったわ。
そんなことを思いだしていると、数え終わったらしい会長が満面の笑みで顔を上げた。
「よし! 出だしは上々だ! 今日は明日に備えて大いに飲んでくれていいぞ! 酒代は売上から出す!」
その言葉に周りの面々が歓声を上げた。
あのどケチな会長が飲み代をサークルの売上で出すなんて、並大抵のことではない。どんだけ儲かったんだよ。
「さて」
普段の俺たちであれば、一緒になって楽しむところだが、今日はちょっとばかり別の用がある。
「どうした? 山本たちは飲まないのか?」
「今日は行く所があるんだよ。ほらリーシャ、これ被れ」
「ごめんねー。みんなで楽しんで」
「悪いな」
俺はリーシャに少し大きめの帽子をかぶせ、松田と総司と共に部屋を出た。リーシャは既にシンプルな服に着替え、髪もまとめている。これなら昼間のように騒ぎにはならないだろう。
楽しいお祭りの時間は終わりだ。ここから先は欲望と雑念にまみれた大人の時間。
この感覚には覚えがある。初めてビデオ屋さんで十八歳以下立ち入り禁止と書かれた暖簾をくぐったあの日。肌色の壁面にいたたまれず、誰が見てるわけでもないのに顔を俯かせた。
だが今の俺はあの時とは違う。戦いだけでなく、数々の経験を積み重ねてきた。たとえ何が出てこようと屈することはない。
俺たちは一度顔を見合わせ、裏天祭へと繰り出した。
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