第317話 神様にもいろいろいるんだな
「そうですよね。ほら、聞いた――はい?」
思わずまじまじと加賀見さんの顔を見てしまう。
「え、いるんですか」
「いるわよ」
「マジで?」
「マジよ」
俺は加賀見さんを信じていないわけではないが、ここは情報を確かなものにしておく必要がる。
隣の月子の方を見ると、彼女はためらいがちに言った。
「神と呼ばれる存在はいるわ」
「だそうだ、コウ」
「お前さっきから言ってること全然ちげーじゃねーか。馬鹿か?」
言い返すこともできないわ。
しかし待て。
「本当に神様なんているんですか? 俺もこの世界に戻ってきてから結構経ちますけど、そんな気配感じたことないですよ」
「そりゃ、都会で生活していたら会うことはないわね」
仕方ない、という表情で加賀見さんは説明をしてくれた。
「日本に関して言えば、神様と怪異って、意外と紙一重なの。マイナス方面の思念が集まれば怪異が生まれて、プラス方面の思念が集まれば神様が生まれるから、場合によっては怪異から神に、神から怪異に転ずることも珍しくないわけ」
へー。怪異が生まれる経緯はなんとなく知ってたけど、わりと曖昧な存在なんだな。
「それこそ、勇輔君と月子が戦った鬼だって、
「にしてはあいつ、普通に危険な存在でしたけど」
「本質的に恐れが集まることは変わらないから、正の存在にはならないってことよ。まあどちらにせよ、現代における土地神様なんてのは、それこそ秘境だとか、現代文明の発達していない部落にでも行かないかぎり、そうそうお目にはかかれないわね」
「どうしてです?」
「科学文明の発達と、インターネットの普及ね」
加賀見さんは端的に答えた。
俺たちが疑問符を浮かべていると、加賀見さんはスマホを取り出して言った。
「科学技術っていうのは、神秘や魔術とは正反対の存在だから、科学が発達するにつれて神様や怪異っていうのは、力を失ってきたのよ。更にいえば、インターネットのおかげで人々は簡単に答えを見付けられるようになった。奇跡として信じられてきたものが、実際はただの物理現象でしたって、言われたら、興味なくなるでしょ」
「あー、ありますね、そういうの」
正解か不正解かはともかく、とりあえず説明がつく、っていう状況がほとんどだろう。
「だから神様がいるかって問いに対しては、私たちはイエスと答えるわ。現代で大規模な奇跡を起こせる神がいるかって聞かれると、分からないけどね」
加賀見さんはそう締めくくった。
はーん、勉強になった。人の思いが、神様や怪異を生み出してきたと。
なんか似たような話を聞いたことがあるな。
同じことを思ったのか、リーシャがぽつりつ呟いた。
「なんだか、この間聞いた勇者様のお話に似てますね」
「『
あれも勇者に対しての思いを力に変えるものだったからな。
「じゃあやっぱり、勇輔さんも場合によってはお化けになっていたかもしれないんですね‥‥」
「話としては間違ってないけど、もう少し適切な言葉なかった?」
お化けだと、一気に可愛くなっちゃうだろ。そうなると、エリスの危惧も間違っていなかたってことだ。
俺とリーシャが納得している中、コウはなんとも言えない顔をしていた。
「どうしたんだよ」
「いや、こっちの世界にも神がいることは分かったが、俺たちのそれとは大分違うだろ」
「あん?」
なんのこっちゃと思って後ろのカナミを見ると、彼女もまたコウと似たような顔をしていた。
「そうですわね。本質的に別のものかと」
「どういうこと?」
月子が聞いた。
「女神様や魔神は、創世の時より存在していたとされていますわ。聖なる女神様がご誕生されるとともに、影なる存在である魔神が生まれたのです。故に神々の意志によって生まれた私たちもまた、相反する存在なのなのですわ」
「ん、つまり人より神が先にいたから違うってこと?」
「端的に申せば、そうなりますわね」
卵が先か鶏が先か的な話ね。違うか。
カナミの話を聞いていた加賀見さんがなるほどねーと口を開いた。
「アステリスの神様は、うちでいう神話体系の神様と同義なのね。そういったガチ伝説クラスの神様とか英雄とかになってくると、昔はいたかもしれないけど、現代じゃ観測は不可能でしょうね」
「そうなんですか? ギリシャ神話とか有名ですし、それこそさっきの理論で現れたりしそうですけど」
「あのね、有名だったらなんでもいいわけじゃないのよ。本当に神様として実在が信じられて、初めて実体が持てるんだから。あらゆる創作に駆り出されて、女体化までされてるのに、神性が保たれてると思う?」
「ないですね」
知名度イコール
「そんなわけだから、
俺たちはその結論を神妙な顔で聞いた。
どちらにせよ、この戦いが神魔大戦でなかろうと、今やるべきことは変わらない。リーシャたちを守り、戦いの全貌を暴く。
ある意味で、これはチャンスだ。
この戦いの術式を解明することができれば、神の魔術である神魔大戦に介入することもできるかもしれない。
カナミやリーシャがいる前では決して口にできないが、たとえ神の意志であろうと、種族同士が殺し合わされるような戦いは、あってはならない。
なんのためにヒトガタをばらまいているのかは知らないが、次に現れた時はそこから主とやらのところまで攻め入ってやろう。
しかしその決意とは裏腹に、ヒトガタが二度と現れることはなかった。
どうしてかと疑問に思う中、その答え合わせは、一週間後、最悪の形で訪れることになる。
十一月二十七日、日曜日。
影なるものを暴くのは、皮肉にもそれを隠し続けた
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