第318話 オープニング

 それは誰も知らない場所。主さえも、この場所がどこにあるかは知らない。


 それでいい。自分という存在はこの物語シナリオにおいて、表に立つ必要はない。


 怨念はない。復讐でもない。


 しいたげられ、排斥はいせきされた過去など、自分にとっては一考の価値もない。


 しかし主がそれを望むのであれば、オープニングをかなでよう。


 できるだけ派手に、鮮烈に、これから訪れる新しい世界を歓迎しよう。


 榊綴さかきつづりは、空中で指を踊らせながら、誰もいない空間で、喉に息を吹き込んだ。


「沁霊術式――解放」 


 掠れた声とは対照的に、尋常ならざる魔力が暗い空間に幾何学模様を描き、青白く輝いた。




「『私たちの物語フェアリーゲーム』」




 その瞬間、魔力は爆発するように広がり、東京都の中心を覆った。


 都心三区から副都心四区――すなわち千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区、豊島区、文京区の範囲は、対魔特戦部の活動の中心であった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る