第153話 へー、あいつが

 そんなこんなあって、カナミの意識が戻り、俺たちはお互いに何があったのか報告した。


 本当はイリアルさんたちもいてほしかったけど、起き上がれる状態じゃなかったため断念。


 俺はそこで思いもよらない名前を聞くことになった。


「メヴィア⁉ メヴィアがここに来たのか⁉」


「はい、わたくしの傷を治してすぐに立ち去ってしまいましたが」


「そうか‥‥そういうことか」


 それは予想外だけど、それなら納得がいく。


 むしろ彼女以外こんな奇跡を起こせる人間はいないだろう。


 破戒はかい聖女、メヴィア。


 彼女は俺たちと共に魔王を倒す旅をした、かけがえのない仲間だ。


 その言動は聖女というにはあまりに傍若無人ぼうじゃくぶじんというか、わがままというか‥‥まあ面倒くさかった。しかし腹立たしいけども、魔術の腕は一流中の一流。


 俺の知る限り、最高の治癒魔術師だ。


 彼女ならカナミを全快させるのもわけない。どうせ鼻歌交じりに「楽勝~」とか言いながら治したんだろう。死人すら兵士に変えると言われた力は伊達ではない。


 性格には難あれど、人類最高の魔術師、『サイン』の一人だ。


 やっぱりあいつも『鍵』の一人として参加してたのか‥‥。


 リーシャやユネアが『鍵』に選ばれている時点で可能性は高いんじゃないかって気はしてたけど、聖女としての力をもつ人間が『鍵』になってるのかね。

 

 とりあえずあいつは別の『鍵』を探しに行ったらしいけど、心配する必要がないから気が楽だ。

カナミの話を聞く限りでは、守護者にはセバスさんがついている。


 あの人も表に立って戦うことはほとんどなかったけど、化け物染みて強いし。


「おかげで私もまた戦えるようになりましたわ」


「メヴィア様は私も知ってます。会ったことはないですけど、ユースケさんはその方と一緒に戦っていたんですよね」


 リーシャの言葉にカナミが俺の方を見た。


 カナミには、俺が勇者だってこと口止めしてたからな。俺はカナミに知らせるようにうなずいた。


「そうだよ。メヴィアは俺と一緒に旅した仲間だ」


 そう、目を閉じれば思い出せる。


 エリスにあることないこと吹きこんだり、悪人をなぶっては治癒魔術をかけて永久機関だぜ! とかやってたり、本当ろくでもないなあいつ。


 月に一回はムカついて「ツルペタロリ娘! 腹黒胸板聖女!」と叫んでは「神罰だぶっ殺す」と半殺しにされたもんだ。あいつ治せばいいやって感覚で本気で殴りにくるから痛いんだよね。


 しかしあいつがいなければ、俺たちの旅は成しえなかった。俺なんて百回は死んでる。


「にしても、妙な動きね。メヴィアはともかく、セバスさんもいるし本当なんだろうな」


「魔族でしょうか」


「可能性としてはそれが一番高いだろうけど、ラルカンを超える奴なんてそうそういないはずなんだよなあ」


 はっきり言って、どんな暗躍をされようと、正面から襲い掛かるラルカン以上の脅威はそうそうない。


 どちらにせよ警戒を強める他ない。幸いカナミも動けるようになったから、片方はリーシャの護衛で、片方は調査にいける。


 唯一の懸念は、魔将ロードの存在だ。


 魔将ロードは先の戦いでほとんどが死亡した。俺が倒した者もいれば、サインに倒された者もいる。


 知る限りでは、生き残ったのは『夢想パラノイズ』だけのはず。あいつはラルカンと違って戦争に興味がないし、今回の戦いに参加する可能性は低い。


 故に魔将が出てくることはないはずだが、ラルカンのように生き残っている可能性もなくはない。何せ全員化け物ばかりだ。


 あいつらが出てくると話が変わってくるな。そうそうないとは思うけど、可能性は考えておかないと。


 そうして俺たちは日々警戒を強めながら生活をすることになった。


 だが予想に反して何が起こることもなく夏休みが終わり、大学の二学期が始まった。

 神魔大戦も重要だが、日常はそんなこと配慮してはくれない。


 大学の二学期もまた、学生にとって戦場なのである。

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