第384話 鍵の役割

     ◇ ◇ ◇




「‥‥馬鹿な。ユリアス・ローデストが、六千年以上、この世界で生きてきただと‥‥?」


 シュルカから語られた真実に、リーシャたちは言葉を失っていた。


 ただメヴィアだけが情報を噛み砕くように、呟く。


「いくらなんでも、あり得ない。六千年なんて、いくら長命の魔族でも生きていられるはずがない」


 『無窮錬』を使うシキンですら、千年。


 ユリアスの魔術は命を引き延ばすようなものではなかったはずだ。


 シュルカはなんて事のないように言った。


「私がユリアスと出会ったのは、もっとずっと後だから、それが事実かどうか確かめようはないけど、嘘ついている様子もないし、本当なんじゃないかしら。正直、あいつは魔術がどうとかで測るような存在じゃないから、一万年以上生きてたって言われても信じるけど」


「‥‥お前は、一体なんなんだ」


 シュルカは脚を組み、小悪魔のような笑みを浮かべた。


新世界トライオーダーのシュルカ。この組織は私とユリアスで作ったのよ」


「『鍵』は七人だったはずだ。そして、一人は既に死んでいる」

「もう分かっているでしょ。最初に死んだことになったのは、私よ。魔族に狙われても面倒だし、死んだことにしていたの」


 シュルカはあっけらかんと言った。


「『鍵』が死ねば扉が開かれるなんてのも作り話。神魔大戦を強引に書き換えたせいで、時間が経てば経つほど、術式にほころびが生まれて、新しい守護者たちが呼ばれるようになってしまったのよね」


「そうまでして、何故私たちをここに集めた。聖女の資格なら、お前も持ってるんだろ」


「ええそうね。けれど、それじゃ不十分だった。初代聖女リィラは、この場にいる七人全ての魔術を一人で操ったそうよ」


「そんな――⁉︎」


 リーシャが驚きの声を上げるのも無理はない。


 メヴィアの『天剣』やリーシャの『聖域』、シャーラの『冥開』は、それだけで国家間のパワーバランスを崩壊させかねない力だ。


 それに加えてユネアの持つ魂への干渉、ベルティナの時間操作、フィオナの『我城』、そして未だ見ることのないシュルカの魔術。


 それら全てを扱える魔術師なんて、おとぎ話の存在だ。


「聖女リィラは、その力で地球から多くの魔術師を連れ、アステリスに旅立ち、女神の原型モデルとなった。私たちが欲したのは、彼女の力を引き継ぐあなたたちなのよ」


 ユリアスの目的は、初めから聖女の資格を持つ『鍵』だけ。


 しかし空間を超えて彼女たちだけをこの世界にさらうのは、ユリアスをして不可能だった。


「そのために、神魔大戦を利用したのか」


「その通り。神魔大戦の術式には、過去に異世界を渡航した聖女リィラの魔術が組み込まれている。それを利用して、戦いの勝利条件としてあなたたちを呼ぶことができた」


「代わりに、守護者までついてきたってわけか」


「流石、世界を旅した人間は理解が早いわね。本来私たちの目的には守護者どころか、魔族すらも必要なかった。けれど、神魔大戦としての形を維持するために、どうしても人族と魔族の戦士が必要だったのよ」


「駒が欲しいからって、ゲームボードごと持ってきたのかよ。ふざけた発想だな」


 面白いたとえね、とシュルカは笑った。


「これで分かったでしょう。私たちの運命はこの戦いにかかっている」


「‥‥お前らが勝ったら、どうなる」


「この昊橋カケハシはまだ未完成なの。最も重要なパーツが抜けているせいでね」


 シュルカは肩をすくめた。


 そのパーツが何なのか、あるいは誰なのかは聞かなくても分かった。


 つまりユリアスたちが勝てば、ここにいる『鍵』は全員、昊橋カケハシの魔術の一部になるということだろう。


「聖女を人柱にしてまで完成させる魔術か‥‥。一体何をしようとしている、お前たちは」


 メヴィアの問いに、シュルカはただほほ笑むだけだった。


 まるで、その答えを言うのは自分ではないかのように。


 メヴィアは深く椅子に腰かける。


 上を見れば、今まさに戦いが激化していくところだった。


 結局真実を知ろうと何だろうとできることは変わらない。


 仲間が勝つことを信じて、待つだけだ。

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