第370話 招待状
◇ ◇ ◇
月子の衝撃の言葉から一夜明け、俺は俺の歴史上において最も呆けた
起きた瞬間から、自然と昨日の夜のことが思い起こされる。
月子は衝撃の一言の後に言葉を続けた。
『だから勇輔、あなたは何も心配しなくていい。全力で、あなたが一番納得できる道を進んだらいいわ。私はそれを全部肯定する』
あの自他ともに厳しい月子から出たとは思えない発言に、俺は驚いた顔をしたんだろう。
そんな俺の顔を見て、月子は笑った。
『結局、あなたが選ぶものが、一番の正解よ。逆に言えば、あなたが選ばなきゃいけない。誰も、それを手助けはできないわ』
それはいつも通り、厳しくも優しい言葉だった。
『何よりも、信じているからかしら』
ふっと、声が和らぐ。
『きっとあなたなら誰もが救われる道を選べるわ』
彼女がその言葉を言うのに、どれだけの覚悟を要したのか、想像すらできない。
陽向が、月子が覚悟を見せてくれたのに、俺が何もしないわけにはいかないだろう。
「‥‥」
昨日のリーシャとカナミの顔。
泣きはらして帰ってきた。
何も話さないままでいれば、楽しい思い出だけをもってアステリスに帰れるかもしれないと思っていたが、そんなことはなかった。
俺は彼女たちにそんな顔をさせたいわけじゃない。
どうすればいいのか、考え、決めなければならない。
そう決心した朝、それを見はからかったかのように、朝日を隠して知らせは訪れた。
最後の戦いへといざなう招待状と共に。
「こいつは‥‥」
「なんだ、来るのが遅かったな」
俺がすぐさま屋根に上ると、そこには既にコウが立っていた。
他の面々も起きて、警戒をしている。
それほどまでにあからさまに、己の存在を主張するように、そいつは現れた。
光を浴びてなお黒い、二対の翼をもつ|烏『からす』。
明らかに地上の生物ではない。
かといって、魔術で造られた生物かと思えば、そういうわけではない。
「神‥‥か?」
この烏は、まぎれもなく神性をまとっていた。
神か、それに通ずる使い。
しかし今ここでは、魔術領域はおろか、魔術の気配さえ感じない。
ただそこに、純然たる神の気配が存在している。
俺の隣で烏を見上げていたコウが言った。
「お前は見るの初めてか。あれが俺たちをこの世界に呼んだんだ」
「あれが?」
「ああ。だから誰も疑問に思わなかった。あれに人の意志が介在する余地はない」
まさしくコウの言う通りだ。
これを見て人族や魔族の魔術だと思う人間はいない。
こいつの存在そのものが、神魔大戦の証明だ。
だが、月子と綾香さんが教えてくれた。
地球において神の存在は決してあり得ない存在ではないと。存在の強度に差はあれど、たしかに存在していると。
「
「は、だとしたら、ますます燃える話じゃねえの」
「あんまり喜べる話じゃねーよ」
少なくとも、
いつでも剣を抜けるように構えていると、
俺がそれをキャッチすると同時に、まるで初めから存在しなかったかのように、そこには青い空が広がっていた。
封筒を開くと、そこには一枚の古めかしい便せんが入っていた。
何も書かれていない、空白の手紙。
しかし俺が開いたその瞬間、焼け付くようにしてそこに日本語で文字が現れた。
『旅巡る終わりの日、
‥‥まったく、回りくどい言い回しだ。
ただ俺にも意味は分かる。
アステリスでは当たり前に使われている言葉だ。
旅巡る終わりの日とは、一年の終わりを示す。つまり地球では十二月三十一日。
そして満陽とは、アステリスの太陽と、その周囲に浮かぶ光の円環が重なる瞬間。つまり、正午のことだ。
この手紙の意図していることはよく伝わった。
意訳すればこうだ。
『十二月三十一日の正午に戦ってやるから、かかって来いよ』
である。
日本語が示すのは地球、この言い回しはアステリスを示しているのだろう。
つまり地球とアステリスの魔術師が所属する組織、『
罠の可能性が高い。
相手は俺たちを迎えうつために、最善の準備をしているだろう。
神魔大戦の期日は今年の最後。つまり指定された十二月三十一日だ。俺たちが逃げようと隠れようと、一日で『鍵』を全員確保する自信があるのだろう。
それに、向こうにはメヴィアたちが捕らえられている。
戦わないという選択肢はない。
俺は空を見上げた。そこから何かがこちらを見ているような、そんな気がしてならなかった。
魔力が燃え、嵐のように全身を回る。
ついにこの時が来た。
「決着をつけようか、
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