第185話 お客様は神様? はん?

     ◇   ◇   ◇




 祭りも二日目となれば、祭りの雰囲気にも接客もこなれてきて、どんな客がきても笑顔で対応できるようになる。


「ちっ」


「ちっ」


「ちっ」


 ちっ。


 なるわけねーだろ。


 男三人組に思わずこぼれそうになる舌打ちを、舌を噛んで止める。


 今日も今日とて忍耐の修行中だ。我らが『大正文芸喫茶』は大盛況。


 むしろ昨日の評判が評判を呼び、より多くの客が並んでいるような状態である。


「なあ、いつまで待たせるんだよ!」

「別に店に入らなくていいからさあ、動画だけ撮らせてくれって!」


 そして母数が多くなると、本来大学の文化祭になんて来ないような性質の悪い連中も来るようになる。


 今日だけで脅し、横入り、動画配信と迷惑客のオンパレードだ。祭りだからってそんなオールスター取り揃えなくていいのに。


 初めは俺たちも穏便に対応していたのだが、流石に数を重ねてくると我慢の限界。会長に目をやると、彼女はお客様に見えないように親指を下に向けた。


 ラジャー。


「はいはいお客様。そういったクレームは受けかねておりますので、さっさとお帰りやがれください」

「は? 何お前?」

「お呼びじゃないって」


 今度の手合いはごつい坊主の男と、キャップを被って手にカメラを持った男だった。坊主とカメラ小僧が、しょうぶをしかけてきた! 


 言っても聞かない輩は、柔らかくご退場いただくほかない。そんなわけで、坊主の腕を掴む。


「は、おい手放せよてめえ。おい、放せって、いてててて!」

「お客様、困ります。乱暴はおやめくださいお客様」


 坊主が何やらわめいているが、手は離さない。


 次に文句を言ったのはカメラ小僧の方だった。


「なっ、お前こっちは動画撮ってんだぞ!」

「おやお客様、手がお滑りになっているようですよ!」


 秘技、はたき落とし!


 俺は目にも止まらぬ早業でカメラ小僧のカメラを叩き落とした。凄まじい速度で地面にぶつかったカメラは、ガシャン! と鈍い音と共にひしゃげた。ちょっとばかり魔力も流したから、中のSDカードも壊れただろう。


 すまないカメラ、愚かな持ち主を恨んでくれ。


「なぁぁああああ⁉ てめえ何してくれてんだよ⁉」

「言いがかりです、私は何もしていません。お客様が落としてしまったのでしょう?」

「そんなわけ、いだだだだだ!」

「ではお店の営業妨害として、このまま管理事務所の方に行っていただきますね」


 小僧の腕も掴み、坊主共々引きずっていった。途中までは何か言っていたが、少しの抵抗もできないことに気付くと、そのうち静かになっていた。


 管理事務所に着くと、既に何度も来ているせいで、職員と文化祭実行委員の人も苦笑いだった。


「山本勇輔、戻りました」

「ご苦労山本。総司にやってもらおうと思ったが、意外な戦力だったな」

「能ある鷹なので、爪隠してたんです」


 会長は笑った。


 今更、喧嘩に強い程度隠す必要もない。周りの反応は意外と淡泊で、そうなんだ、意外ーってくらいだ。


 俺が思うより他人は俺に興味がない。


 そんな当たり前の事実に気付いたのは、ここ数日のことである。


 どうにも勇者時代、周りに見られていた時の考え方が抜けてない。自意識過剰だ。


 けれど、そんな中で一人だけ、明らかに他と違う視線で俺を見る目があった。


 シフト交代の時間。俺はリーシャとカナミを店に置いて外に出た。一足先に出た彼女は、人混みの中でもすぐに見つけられた。


「あ、先輩。待ってましたよ」


 陽向紫が木陰の下で俺を待っていた。

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