第421話 勇輔の願い
◇ ◇ ◇
「――さん‼ カナミさん‼」
声が聞こえた。
たまにはゆっくり寝かせてほしいと思いながら、どうしてもその声が聞こえると目が覚めてしまう。
「何ですのリーシャ。朝は静かにしないとユースケ様が起きて――」
言葉は最後まで続かなかった。
「カナミさんっ‼」
全身がリーシャに包まれる。柔らかく温かな感触に、理解が追い付かない。
陽だまりの匂いがする。血が通っていて、温かい。
それを感じることができる。
「
カナミは状況が飲み込めず、リーシャの頭を抱いたまま周囲を見回した。
そこは山の中だった。
枝葉の隙間から陽光が降り注ぎ、風に葉が揺れる音がした。
そして、皆がいた。
「ノワーー‼ シャーラさんもぉぉおお‼」
「ちょっと、苦しいですよ陽向」
「‥‥暑苦しい」
そしてその横ではイリアルがユネアを窒息させんばかりに胸に抱き、ベルティナがネストの身体を調べていた。
「ユネア、ユネア、ユネアっ‼」
「ね、姉さん! 苦しっ!」
「ネスト、本当にどこも怪我していないのか? やせ我慢してないだろうな」
「‥‥いや、本当だから、むやみに男の身体に触れるのはよせ」
誰もが傷一つなくそこにいた。
まるであの戦いは夢であったかのように。
いや、そんなはずはない。
カナミは
間違いなく肉体は滅び、魂だけとなったはずだ。
そしてその後が思い出せない。
だが、そんなことよりも気になることがあった。
皆がいる。
しかし一番いなくてはならないはずの人が、そこにいなかった。
カナミはリーシャを首にぶら下げたまま立ち上がった。
そして少し離れたところで空を見上げる人たちの場所に向かった。
いち早くカナミに気付いたエリスが、こちらを向いた。
「カナミさん、身体はどう?」
「エリス様。私は大丈夫ですわ。一体何がありましたの?」
その問いに答えたのは、セバスを椅子代わりに座るメヴィアだった。
「私たちにもよく分かんねーよ。死んだと思ったらここにいた。どうせあの馬鹿が何かしらやったんだろうけどよ」
面白くなさそうにメヴィアは目を細める。
言葉を引き継いだのは月子だった。
「――勇輔だけが、帰って来ないの」
そう、ここには共に戦った皆がそろっている。
しかし勇輔だけがいなかった。
「どうして、一体どこに――」
「知るかよ。ただあいつは、ユリアスを斬った。それだけは、間違いなく事実だ」
空を見ながら、コウガルゥが言った。
もう空を覆っていた
本当に何事もなかったかのように太陽の光が揺れている。
再会を喜んでいた皆も、勇輔がいないことに気付いたのだろう。静かに近くに寄ってくる。それでも誰も答えを持ち合わせてはいなかった。
ただ一人を除いて。
「‥‥ユースケざんですか? ぞうでした! 一つ
全員の視線が涙でぐしゃぐしゃなリーシャに一斉に向けられた。
代表してエリスが聞いた。
「言‥‥伝‥‥? 一体誰から?」
「ユースケさんです。私が起き上がる時に頭の中に降りてきました!」
「‥‥え、ええ。そう、そうなの。もう少し早く言ってもらえると嬉しかったわね‥‥」
全員が気持ちを同じくしながらも、涙を拭いてにこにこ笑顔のリーシャには何も言えない。
「それで、どんな言伝を?」
たまらず月子が聞いた。
リーシャは一人一人の顔を見て、言葉を伝えた。
「『ちょっとごたごたで帰れなくなった。一年後に全員迎えに行くから、地球でもアステリスでも、どっちでもいいから待っといてくれ』だそうです」
その言葉に、全員が何と言っていいか分からなくて、顔を見合わせ、最後には小さく笑いが零れた。
あまりにもあの人らしい言葉だったから。
エリスが代弁して言う。
「一年も女性を待たせるなんて、とんだ色男になったものね」
会った時、どうしてやろうかしら、と皆は顔を見合わせた。
神魔大戦はかくして終わりを迎え、リーシャたちはアステリスに、月子たちは地球で元の生活に戻った。
一年という約束を誰もが胸に抱え。
再会の時を待ち続けた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
明日、最終回です。
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