第230話 決闘ッ‼
三条支部の訓練場は、学校の校庭と同じくらいの広さがあった。
明らかに建物に対して広さが見合ってないが、現代魔術を使っているらしい。家の地下訓練場も広かった。
月子が言うには、空間を広げているというよりは、結界によって場の広さを化かしているらしい。都市伝説なんかでも、延々と続く部屋とかよくあるし、それに近いものだとか。
まあ、カナミと違って俺はさっぱり分からんかったけどな。
「いやあ、話を聞く気になってくれてよかったよ。本当にあのまま殺されると思った」
「この後どうなるかは、お前の話次第だけどな」
「大丈夫さ。何せ僕は君たちの敵じゃないからね」
四辻は恐れる様子もなくにこやかに笑う。
「僕は今君たちが知りたい情報を知っている。そう、例えば櫛名命が所属する組織のこととか――ね」
「何?」
こいつが櫛名の情報を。
にわかには信じがたい。対魔特戦部の人たちが総力を挙げて探っても、何も出てこないんだぞ。
俺が視線を険しくしても、四辻は笑顔を崩さなかった。さっきの剣と言い、肝が据わっているのか、感覚がぶっ壊れているのか。
そう思っていたら、四辻が手首を振った。いつの間にか、その指には二枚のカードが挟まれている。
おい、どっから出したそれ。
「とはいえ僕が事前に話せるのはここまでだ。全てを聞きたいのなら、僕に力を見せて」
「突然だな。お前の条件は俺たちだけで話すことだろう。これ以上勝手に付け足されるのは、困るな」
「彼女を加えた時点で、なんとなく分かっていたんじゃないかな? それに僕が重要な情報を握っているということは教えてあげたんだ。無料はここまでってことさ」
四辻から魔力があふれ出した。一般人なんてなんの冗談だ。
これ程の力を持つ人間が、まともなわけがない。
目で見えるレベルにまで圧縮された魔力が、薄雲のように四辻を取り巻く。
まあこいつの言う通り、リーシャを同席させると聞いた時点で、こうなる展開はなんとなく予想はできていた。
「僕も今ここに立っているという事実だけで、既に大きなリスクを負っているんだ。適当な相手に渡せるほど、安いものじゃない」
嘘か本当かどうかは分からないが、少なくとも無関係ってわけじゃなさそうだ。四辻の目は本気だ。
「仕方ないな。リーシャ、聖域を張ってくれ」
「え、戦うんですか⁉」
「向こうがそれをお望みだからな」
俺は魔術『我が真銘』を発動し、銀の鎧を身に纏う。
それを見た四辻が子供のようにはしゃいだ。
「それが君の魔術か。本当に鎧姿になるんだね、情報では聞いていたけど、実物を見るのとでは大違いだ」
「『これで済ませてくれればいいのだがな』」
「まだだよ、まだ足りない。もっと見せてくれないと」
四辻はそう言うと、カードを投げた。それは回りながら飛ぶと、弾けるように広がった。
そこから現れたのは、二体の猫だった。
しかしあまりに大きい。
虎を悠々と超える巨体に、鋭く伸びた牙は剣もかくやだ。それでもしなやかな肉体と、大きな目は猫のものだ。
「『化け猫か』」
「そんな可愛げのない名前で呼ばないでほしいな。赤毛のが
「『その相棒、斬られることになるぞ』」
「斬れるものならね」
四辻は更に指にカードを挟むと、ボーイッシュな外見にそぐわない妖艶な流し目をこちらに送った。
「さて、それじゃあ見せてもらおうか。異世界の勇者ってやつの力をさ」
「『全て聞かせてもらうか』」
先に仕掛けてきたのは向こうだった。春光と冬鳴の二匹が、音もなく肉薄してくる。
そして春光が口を開き、そこから桜吹雪のような炎が放たれた。随分優美な技を使ってくる猫だな。
それを剣で弾き飛ばすと、その陰から冬鳴が飛び出した。
凍てついた青い爪が振るわれる。
身体を反らして避けると、そこに畳みかけるように春光が噛みに来た。冷気と熱気がかわるがわる襲うこの感覚は、スーパー銭湯のそれだ。サウナと水風呂の反復横跳び。
「余裕そうだね」
カードから魔術を発動しているようだが、原理的には魔法陣を利用した魔道具みたいなものだろう。
カードで魔術が撃てるとか、もはやゲームの世界だな。
俺は飛来する矢を躱しながら、二匹の猫の攻撃を捌く。
「やっぱり、この程度じゃ駄目かあ」
四辻が呟き、新たなカードを取り出す。ここまではお互い様子見といったところだ。
「そろそろ本気で行こうか。春光、冬鳴――『
猫たちが、一度退いた。
そして足並みをそろえて駆け出す。螺旋を描くように赤と青がまじりあい、一つの巨大な塊となって突撃してくる。
「『
更に俺の周囲を風が取り巻き、動きを止める。
そこへ臨界へと到達した猫の砲弾が叩き込まれた。空気と炎が食らい合いながら、一気に膨張して桜の花びらを満開に散らす。
爆ッ‼ と劫火が視界の全てを埋め尽くした。
間違いなくアステリスの人間ではない。魔術の質が地球の魔術師のそれだが、それにしても強い。少なくとも魔法のコインをやり取りしていた連中とは比べ物にならない。
一体何者なのか、ますます興味が湧いてきた。
俺は炎の中で剣を構え、爆ぜる火の粉よりも速く振るった。
『
銀の斬撃が、炎を十字に切り開いた。
それはそのまま四辻へと迫り、当たる寸前で猫たちが爪で弾き飛ばす。
四辻が驚愕の表情でこちらを見た。
「‥‥マジ? あれで傷一つ付かないの?」
そうだな。皆も待っているし、もう終わりにしよう。
俺の腕に翡翠が巻き付き、銀の刀身に幾何学模様が浮かぶ。
力を見せろと要求するのなら、受けきって見せろよ。
「『
斬撃の嵐が春光と冬鳴ごと、四辻を飲み込んだ。
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