第252話 竜鬼食らい合う
拳と呼ぶにはあまりにおどろおどろしい魔力の塊が放たれた。悪鬼羅刹たちが、俺を殺し、あの世に引き
それはまさしく地獄の門が開いたかのような光景だった。触れるもの全てを破壊する魔術。
まともに受ければ無限の魔力を生み出す『我が真銘』でも、耐え切れない。
しかしなシキン。
技術を鍛えてきたのがお前だけだと思うなよ。
この技は今までの体術ではなく、魔力を放出して打った魔術。
つまり、俺なら
天井を蹴り、自分から俺を掴もうとする鬼の
その虎口、貫いて行くぞ。
どれだけ恐ろしい異様をしていても、
それらは俺の目に眩く輝いて見えた。
全身を魔力で加速させ、星を繋ぐように剣を走らせる。
『
迫り来る鬼の拳を霧散させ、驚愕に目を見開くシキンへと迫る。
凄まじい魔術だ。初見ということもあるが、あまりに濃密な魔力に剣が通り切らなかった。直撃は避けていたはずなのに、鎧は焦げてひび割れ、身体のあちこちから血が噴き出しているのが分かる。
沁霊術式ですらないというのに、この威力。
やはりシキンの『
しかしどれ程の強かろうと、自分自身の攻撃がそのまま跳ね返ってきたら、ただでは済まないだろう。
『
さあ、竜の牙はどこまで食い込む。
剣が周囲の魔力を巻き混み、翡翠の
「『
斬ッッ‼
部屋ごと両断せん勢いで振った斬撃は、シキンごと鬼たちを切り裂き、一本の道を開いた。
少なくとも今の状態で俺が使える最強の技。
まともな人間なら今ので決着だが。
「‥‥本当に素晴らしい一撃だ」
床に刻まれた派手な
身体には肩から脇腹まで縦一閃の切り傷が入り、そこから血が流れていた。
だが、そこまでだ。
一目見ただけで分かる。傷は筋肉を断ったところで止まり、内臓までは達していない。
全ての魔力を使い切れたわけじゃないが、それでも
それを受けても倒れない。
「我が魔力を己の技に乗せたのか。惚れ惚れする技量、感服する他あるまい」
「『光栄だ』」
そう思うなら、もう少し効いてる感じで言ってほしいものだ。
にしても、今の竜剣で倒せないとなると、本格的に打つ手がない。一方的に攻撃を続けられれば話は別だが、いかんせんシキンは戦闘技術も別格だ。
もう同じ手は通じない。
シキンは傷を閉じながら、不思議そうに言った。
「今のままでも強きことに変わりはないが、まだ何かを持っているのだろう。何故使わない?」
‥‥おいおい、そんなことまでバレてるのか。
「『安心しろ、時が来ればその身をもって知ることになる』」
シキンが言っているのは、恐らく『
だがそれでシキンを倒しきれるかと問われると、確信がもてない。それ程までにこいつの魔術は異常だ。そして『
少なくとも、ここで切るべきではない。
ただの勘だが、その勘を頼りに生きてきた。
さて、どうやって崩したものかな。
『勇輔、勇輔』
そんなことを思っていたら、耳元で声がした。
え、四辻か? よかった、標的が俺だったから大丈夫だろうと思っていたけど、生きてはいるらしい。
『今は君のポケットに忍ばせておいたカードを通して喋ってるんだ。そのまま聞いて』
え、そんなの入れられてたの。普通に言っといてくれよ。
思わず鎧の外側からポケットを確認しようとしたら、次の言葉で動きを止めることになった。
『多分だけど、シキンの正体が分かった』
――何?
シキンの正体?
その言葉には少し違和感があった。俺が頼んだのは魔術についてだ。確かに人かどうかと言われると、若干返しに困るけど。
『だから一つだけ、シキンに聞いて欲しいことがあるんだ』
そりゃもちろん聞くけど、そんな簡単に分かるものなのか。
俺もシキンと直接打ち合って、一つだけ分かったことがある。しかし四辻は見ていただけだ。
俺は四辻が何を探ろうとしているのか分からないまま、シキンに話しかけた。
「『俺も一つ聞かせてもらいたい』」
「む、勿論よいぞ。やはり双修を行う気になったか?」
「『‥‥違う』」
一瞬女体化したシキンの姿が目に浮かんだが、それは頭の中から追いやる。
「『それ程の力を持ちながら、何故修練を続けようとする。
四辻に言われて気付いたが、シキンは
武人や魔術師が強さを追い求めること自体は珍しい話ではないけど、四辻はそこに何か引っかかりを覚えたらしい。
「修練を重ねる理由か‥‥。お主の言う通り、全ては我が主のためよ」
「『そのために千年も生きたと?』」
「左様。我が人生は主のためにある」
シキンはそう言い切った。
その瞳には少しの曇りもなく、心の底から出た言葉だということが理解できた。
直後、四辻が言った。
『――やっぱり、そういうことか』
「『何か分かったのか?』」
俺には
しかし四辻は今の言葉から何か別のことを確信したらしい。
『よく聞いて勇輔。シキンの正体は伝説の魔術師でも、
「『何?』」
四辻は一度息を吸うと、その正体を告げた。
『彼は
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