第182話 バレなきゃイカサマじゃないんですよ

 それからもゲームは進み、何度か小さな勝ちこそあるものの、トータルで見れば俺が大きく負けている。おかしい。


 なんなの君たち、もしかして異世界帰りか転生者だったりする?


 そんな時、ふとゲーム中に相手を見ていると、違和感を覚えた。さっきからこいつらは酒を飲みながらやっているわけだが、その減り具合がやけに遅い。


 缶入りの酒だから気づかなかったが、よく聞けば、缶を置く時の音が重いのだ。中身が全然減ってない。


 ははーん、やってくれたな。


 こいつらチーミングしてやがる。缶を置く向きで、役があるか無いか、強いか弱いかを伝え合っているのだ。


 ポーカーは心理戦。たとえ手札の操作ができなくても、誰が勝つか予想ができれば、掛け金のコントロールは容易だ。


 さっきから俺が負ける時は掛け金が高くなっていると思っていたけど、まんまと踊らされていたのだ。


 酒が減らないのは、酔って負けるのを嫌ったんだろう。ここは酒を飲みながら適当にゲームをしていると見せかけて、迷い込んだ奴から搾り取る狩場。


 なるほど、裏天祭の名に恥じないアウトローっぷり。


 甘く見ていた。


 それからもゲームは進み、俺のチップはほぼゼロになってしまった。つまり五〇〇〇円分の負債だ。


 こちとら居候を二人抱えている身。こんな無駄遣いをしたと知れたら、我が家の家計を預かるカナミさんから雷を落とされること間違いなしだ。


 これ以上金を賭けるわけにはいかない。


「悪い、もうこれ以上賭けられねー」

「なんだよ、仕方ねーな。終わりにするか」

「そうだな、こういうのは程々にしといた方がいいぞ」


 男たちは頷きながら言った。いさかいにならない程度に巻き上げて、小遣いを稼ぐ。こいつら、プロかよ。


 だがその余裕の表情、いつまで保っていられるかな。


「いや、負けっぱなしじゃ寝られないからさ。今度は金じゃなくてこいつを賭けてもいいか」


 俺がそう言ってあるものを取り出すと、男たちの目の色が明らかに変わった。


 そう、ちゃぶ台の上に出したのは薄紫色のコイン。魔法のコインだ。


「なんだよ、それ」


 固まっていた男の一人が思いだしたように言ったが、それじゃあ知っていると言っているようなものだ。


「裏天祭に来るような人間が知らないわけないだろ。魔法のコインだよ、本物だ」

「そんなのが金の代わりになるかよ」

「まさか知らないのか? 今こいつにどれくらいの値がついてるのか」


 俺も知らんけど。



 なんか松田が言っていたことをそれっぽく言っているだけだ。


 しかし効果は抜群ばつぐん。生唾を飲む音が聞こえた。


 やっぱり、こいつらは魔法のコインを知っている。それだけじゃない、持ってる奴もいるな。目の色が明らかに変わった。


 こっちはただ賭け事しにきたわけじゃないんだよ。


「仕方ないな。それ一枚につき五〇〇〇のチップだ」

「おいおい、冗談はやめてくれよ。だったら別の卓に行くさ」

「分かった分かった。一五〇〇〇だ。それならいいだろ」


 え、そんなに高いの、これ? やばすぎるだろ。なんか吹っかけたらもう少しいきそうだけど、俺も相場を知らないのでこれくらいにしとこう。


「よし、それなら新しくチップをくれ。始めよう」


 男たちは興奮を抑えきれないといった様子で頷いた。


 そうだよな、鴨が更にネギまで取り出したんだ。美味しそうに見えて仕方ないだろうよ。俺は優しいから、更に餌を追加してやる。


「折角だし、リーシャ、やってみるか?」

「え、私がですか⁉︎」


 リーシャが驚いた顔で俺を見る。


 男たちも困惑した様子で顔を見合わせた。こちらの意図が読めず、かといっておずおず卓に座る少女を拒絶することもできず、ゲームは始まった。


 もう少し穏便な方法を考えていたが、お前らがチーミングをするというなら話は別だ。


 こっちも正々堂々ぶっ潰させてもらおうか。

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