第267話 閑話 一生ゲーム 前編
それはシェアハウスが決まって少し経った時の話。
リビングでは勇輔がテレビを見て、その肩には当然の顔をしてシャーラがもたれかかっている。勇輔も初めのうちはどかそうと努力していたが、万力のような力と決して諦めない心に折れた。
ソファではカナミが座って読書をしていた。
月子は自室で大学から出た課題に取り組んでおり、ここにはいない。
そんな平穏な部屋に、リーシャが現れた。
「ユースケさん、これなんですか?」
「ん?」
顔を上げた先には、部屋着のリーシャが立っていた。その手には、大きな箱が抱えられている。
カラフルなルーレットに、無駄に楽しそうな子供たちの絵柄。
日本人なら誰もが一度は遊んだことがある、『一生ゲーム』である。言ってしまえばすごろくのようなものであり、ルーレットで出た出目に応じて自分の駒を動かし、止まったマスに書かれたことが起こるという、ボードゲームである。
あー、そういえば昔松田が「みんなでやろうよ!」と持ってきたやつだな。
一人でやるようなゲームでもないので、押し入れに突っ込んでおいたのだが、対魔官の人たちはわざわざ運び込んでおいてくれたらしい。
「ボードゲームだよ。すごろく‥‥って言っても伝わらないか」
「ボードゲームですか」
リーシャの目がキラキラしている。
そう、やってみたいのね。
シャーラと月子のことは勇輔はよく知っているが、カナミとリーシャは違う。親睦を深めるためにもちょうどいいだろうと勇輔は腰を上げた。
そんなわけで、月子にも声をかけて山本さんちの『一生ゲーム』が始まったのである。
しかし始めようとしたところでいきなり、
「‥‥私はいい。ユースケの見てる」
というゴーイングマイウェイなシャーラの一言により、参加者は勇輔、リーシャ、カナミ、月子の四人となった。
「一生ゲームって、そういえば私、やったことないわ‥‥」
「マジか?」
月子の言葉に驚愕する勇輔だったが、その実家を思い出して口を閉じた。確かに正月にみんなで集まって一生ゲームをするようなイメージはなかった。
結局参加者の中できちんとルールを把握しているのは勇輔だけだったが、やることといえばルーレット回すだけである。
「これを回せばいいんですよね」
「ああ、まずはそれで順番決めだな」
ルーレットの出目で順番を決める。
結果、俺、リーシャ、カナミ、月子の順番となった。
「じゃあ始めるか」
俺はルーレットを回す。この一生ゲーム、とりあえず最初は職業マスというところに止まるようにできている。給料マスに止まると、その職業マスに合った給料がもらえるという仕組みだ。
一番給料が高いのは、『医者』か。狙って止まれるものでもないけど。
「これはどれが一番いいのですか?」
「安定して高いのは医者ね。ルーレットの出目によっては配信者が一番高いけれど、期待値は低いわ。最悪なのは一を出すと止まる無職よ」
月子がリーシャに説明する。何とも言えないけど、面白い絵面だな。
俺はルーレットを回しながら会話に参加する。
「こういうの、大体は会社員とかに落ち着くんだよな」
カチカチカチ、カチ。
一。
「‥‥あの、これは?」
「一だから、無職ね」
冷静な月子の声。
「誰もこんなフラグ回収は望んでなかったんだけど」
なんだよ無職って。もはや職業ではないだろ。
あれか、勇者は実質無職ってことか。職業差別反対!
「次は私の番ですね」
リーシャか、どうせ医者のマスに止まるんだろう。
そう思っていたが、彼女が止まったのは『配信者』のマスだった。
「配信者、動画を配信している方々ですよね! 私もやってみたかったんです!」
「確かにいつも見てるな」
「あちらに戻ったら、教会の人間に何を言われるか分かったものではありませんわね」
それなら大丈夫。何を言ったところで、むこうからしたら何言ってんだとしかならないから。
正直清貧を美徳とする女神聖教会の聖女を、現代社会の最先端技術で堕落させているのは恐ろしく背徳的だ。あちらにはマグロナルドもないしな、もう生きていけないかもしれない。
「ぷんぷんハロー、リーシャです」
リーシャは小声でそんなことを呟いていた。
もし動画を配信することになったとしても、絶対にそちらの路線ではないと思う。
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いつもお読みいただきありがとうございます。
前回は私の図々しいお願いに感想や星をくださり、ありがとうございました。言ってみるものだなと思いました。
皆様のご期待に沿うため、執筆を進めたいところなのですが、申し訳ありません。現在プライベートと仕事で手が離せず、中々筆が進みません。
しばらくは温かく見守っていただければ幸いです。
繰り返しになりますが、感想や応援、ありがとうございました。励みになります。
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