第199話 壊れた感覚

 そうか、つまり月子のコミュニケーション下手は生い立ちに理由があって、その上お家は魔術師家系の中でも相当な名家と。


 ‥‥ふむ。




「え、それだけか?」

「それだけ? それだけって言った? あなたは全然分かってないわ、私たちと関わるっていうことの意味を」


 待て待て、落ち着け。


「でもそれって、月子本人の話じゃないよな」

「‥‥それは、確かにそうだけれども」


 月子がぽかん、と口を丸くした。


 待て。俺の感覚がおかしいのか。


 確かに一般人の俺と魔術師の名家に生まれた月子ではつり合いはとれまい。

 しかしそんなことを言い出したら、エリスは王族だ。


 王族だぞ、名家とかいうレベルじゃなく、国のトップだ。アステリス自体が強国だったし、日本と違って完全王政だから、その権力は世界的に見ても最高峰。


 よくよく考えると、すごい相手に手出そうとしてたな、俺。


 ちなみにカナミさんもバチバチの皇族だし、リーシャなんて場合によってはその二人の上を行く身分だったりする。


 高貴な身分と神聖な身分で、ジャンル分けが違うから一概には言えないけども。


 冷静になると、俺の周りやばいな。


「あなたは‥‥本当に、どうしていつもそうなの」


 月子が心ここにあらずといった様子で呟いた。


 言葉が抽象的過ぎていまいちつかめないが、褒められてはいなさそうだ。


「ごめん。言われたこと、もっとよく考えるよ。それと、一つ聞きたいんだけど」

「‥‥何かしら。なんだか疲れたわ」


 それはマジでごめん。


 だがさっきの話を聞いていて、どうしても気になることがあった。こんなことを聞くのはどうかと思うし、死ぬほど恥ずかしいけど。


「月子の話を聞いてると、別れたのって、対魔官っていうのと、家が関係しているってこと、でいいんだよな?」

「そうね。それがどうしたの」

「つまり、そ、その、あれだ」

「? 何?」


 言え。さっき決めたばっかりだろ。対話をしなければ理解はない!


「つまり、月子の気持ちが変わったわけじゃなかったって、ことか?」


 言った直後、月子は何を言っているの? とばかりに半目で俺を睨み、それから言葉の意味を理解したのだろう。




「――‼」




 顔を真っ赤に染めて再びうつむいた。


 お、おおう。いや待て、それどっち? 


 心臓が破裂せんばかりに鼓動を打つ。


 分からない。その時の月子の気持ちと、半年経った今の彼女の気持ち。


 しかしそこで気付いた。


 今彼女のそれを聞くのは、フェアじゃない。俺はまだ自分のことを月子に話せていないのだ。


 この話の続きは、全てを打ち明けてからじゃないと、意味がない。


「月子、ごめん。その前に俺の話を聞いてほしい。俺も、君に話さなきゃいけないことがある」

「私に、話さなきゃいけないこと?」


 そうだ。俺が異世界に行き、勇者として戦っていたこと。今起こっている神魔大戦。その全てについて、きちんと話さなければいけない。その上で、今俺が思っていること、考えていることを。聞いてほしい。


 だから――。







「見つけた」






 背中に氷柱を突っ込まれたように、身体が固まった。

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