第191話 少佐! 上院議員? そうだ大砲か


     ◇   ◇   ◇




 ふと我に帰った時、俺の前には空になったグラスがいくつも置いてあった。


「お兄さん、お酒強いね」

「本当本当、これだけ飲んで倒れなかった人初めて見た」


 あれ、どうしたんだっけ。そうだ、メルティーフロアで飲んでたんだ。

気づかない間に結構飲んでいたらしい。今日は身体強化でアルコールを一気に分解しているからあまり酔っていないけど、松田はベロベロに酔って揺れていた。


 総司はまだ平然とした顔をしているけど、頬が赤くなっている。


 女の子たちは流石。一、二杯は飲んでいるはずだけどケロッとしている。プロ意識高いわ。


「本当だ! お兄さんこんなに飲んだんだ、すごいね!」


 そんな時、もう一人の女性が近寄って声をかけてきた。


 自分を武装するような厚めの化粧にひまわり色のドレス。


 少し前に百均で出会った袴田千穂はかまだちほだ。


 メルティーマーケットの所属員だから、ここにいるのはまったく不思議ではない。ただ彼女がここで近寄ってきたのには、理由がある。


 待ってたぜ。危うく酔いつぶれるところだった。‥‥いや、マジで危なかった。ふとした瞬間に顔を出すエリスが凶悪すぎる。


「‥‥」


 袴田さんが俺に下手な目配せをしてくる。やめなさいやめなさい。総司が怪しんでるでしょ。


「ああ、ちょっと前まであんまり酒強くなかったんだけどな」

「えー嘘ー」

「そんな簡単に強くならないでしょ」

「それがさ、簡単に強くなる方法があるのよ」


 俺はそこまで言って、小袋を取り出した。口から滑り出てきたのは、何枚もの魔法のコイン。


「ええ! 魔法のコインじゃん! 何枚あるの⁉」


 そこですかさず袴田さんがわざとらしい声を上げた。できればもう少しうまく演技してほしいんだけど、二人の女の子はコインに夢中でそれどころではなかった。


 むしろその言葉に反応したのは、周囲で接客をしたり、ドリンクを運んだりしている女性たちだった。


 あからさまに視線をこちらによこしたり、そわそわし始めている。


 想像以上の効果だな。昨日のポーカーたちの男もそうだけど、大学内の噂は相当なものらしい。


 しかもここにいるのは、ブランドに憑りつかれた女性たち。そういった話題には人一倍敏感だ。


 カスミさんとヒカリさんも明らかに目の色が変わっていた。


「え、これ本当に魔法のコイン?」

「本物っぽいけど‥‥どうだろ」

「触ってもいいよ」


 俺はできるだけ態度を大きくして言った。正直、ちょっと怖いです。


 獲物を狩る時の魔物と同じ眼をしてるじゃん。昨日の男たちが可愛く思える。


 さて、本題はここからだ。


「そうだ、ちょっとゲームをしないか?」

「ゲーム?」

「そうそう。君たちが勝てばこのコイン、好きなの一枚持っていっていいよ」

「本当⁉」


 袴田さん、君が本気で反応してどうする。


「本当だ。代わりに負けたら、お酒を一杯飲んでもらう。飲めなくなったらギブアップだ。どうする?」

「ゲームの内容は?」


 そうだな、わりといろいろとあるんだけど、折角だし店として盛り上がってもらおうか。


「誰でもいい、君たちが選んだ男と俺が腕相撲で勝負する。片手でも両手でもいいぞ」

「え、いいの?」

「そんなに強そうに見えないけどなあ」


 いいぞいいぞ、なんだったら二人がかりでかかってきてもいい。


 挑戦者が来なくなっても困る。まずは盛り上げて参加者を増やさないと、わざわざここまで来た意味がない。


「ユースケさん、すごい悪い顔してますよ」


 隣でドン引きしているリーシャがぼやく。うるさいですよ。


「じゃ、じゃあすぐ探してくるね!」

「私も!」


 カスミさんとヒカリさんはそう言うと、すぐに二人の男を連れてきた。


「腕相撲だって?」

「面白そうだな、早くやろうぜ!」


 二人とも見るからに運動部といった感じだった。日々しっかり鍛えているのが分かるし、あまり酔ってもいない。


 俺はまず一人と手を組んだ。


「両手でもいいぞ」

「馬鹿言うな」


 男はニッと笑った。女の子に頼まれて来たんだ、そりゃ両手でとは言わないよな。


 袴田さんが楽しそうに叫んだ。


「レディ、GO!」


 まずは数秒拮抗する。ここは戦場じゃない、求められているのはエンターテイメント。闘技場に出たこともある勇輔さんのエンタメ力を見せてやろう。


「うお、意外とつよ!」


 男がこれまで以上の力で俺の腕を倒そうとする。


 ここだな。


「せいっ!」


 一気に男の手を机に倒した。袴田さんのジャッジがうるさいくらいに響く。


「カンカンカン! 勝負ありー!」

「マジかよ、強いんだけど!」

「えー、負けちゃったの?」

「次俺、俺やる!」


 流石に魔力で身体強化したら卑怯だから、純粋な腕力勝負だ。腕を振って感覚を確かめる。大丈夫、まだ負けない。


 さあ、次やろうか。

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