未知との遭遇
事件が起きたのは、孤児院まであと少しといった場所でのこと。
「あれ?」
ふと、キリハは首を
孤児院までの一本道。
そのど真ん中に、何人かの子供たちが集まっていた。
近づきながら様子を
その笑い声の中に紛れて。
「やーめーてー…」
という、弱々しい声が耳に入ってくる。
「おーい、みんなー。」
キリハはひとまずその場にリヤカーを置き、子供たちの元に駆け寄ることにした。
「あ、キリハ兄ちゃん。」
「何やってんの?」
円形になった子供たちの真ん中を覗き込むと、子供の一人が何やら緑色の物体を持っていた。
「ん?」
キリハはそれをひょいと取り上げる。
緑色をしたそれは、ドラゴンを象ったぬいぐるみだった。
ドラゴンに好意的ではないこの国でドラゴンのぬいぐるみとは、随分な物好きもいたものだ。
「誰の?」
子供たちを見下ろして訊くと、子供たちは揃って首を振る。
「僕たちのじゃないよ。」
「え? 誰かの落とし物かな…?」
キリハは眉をひそめる。
しかし、子供たちはそれにも「違う。」とまた首を振った。
そして。
「そいつ、生きてるよ。」
「さっき飛んでたもん。」
と、世にも奇妙なことを言い出したのだ。
「い、生きてる?」
にわかには信じられず、キリハは尻尾を持ってぶら下げていたぬいぐるみをじろじろと見つめる。
どこからどう見ても、ただのぬいぐるみである。
生き物らしい温かさもないし、息遣いだって感じない。
「いやいやいや……」
みんなの見間違いじゃないの?
そう言おうとした時。
「うーん…」
聞き慣れない声を聞いた。
この辺りの子供たちとはよく顔を合わせているので、彼らの声なら見ずとも分かる。
しかし今聞こえた声は、記憶している誰の声にも当てはまらなかった。
(まさか…?)
キリハはおそるおそる、ぬいぐるみを目の高さまで掲げる。
すると。
「はっ!」
ずっと閉じていたぬいぐるみの目が、そんな声とともにぱっちりと開いた。
「うっわ!?」
予想外の出来事に、キリハは思わずぬいぐるみを放り投げる。
しかしぬいぐるみは地面に落ちることなく、翼を動かして空中にとどまった。
「んもう、ひどいじゃないかぁ。やめてって言ってるのにー。」
腰に手を当てるぬいぐるみは、ぷうっと頬を膨らませている。
「飛んだ……しゃべった……」
キリハは茫然と呟く。
いやはや、最近のおもちゃは進化していらっしゃる。
(――― いやいやいやいや。)
脳内で自分に突っ込んでいる間にも、子供たちは特に違和感も抱くことなくぬいぐるみに群がろうとする。
途端に慌てたぬいぐるみが、子供たちの手が届かない高さまで上昇した。
すると偶然にも自分の目線の高さでぬいぐるみが止まり、ごく自然な流れで目が合った。
「おんや?」
ぬいぐるみの目がきらりと輝いた――― 気がした。
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