味方になる理由

「人生? どうしたの、急に?」



 いきなり話が突飛な方向に飛んでいったので、キリハは目を丸くして訊ねる。

 しかし、ディアラントはそれに首を横に振った。



「いーや、ただの独り言。キリハのご両親には感謝だなって思ったのと、なんかオレはお前を騙してるみたいで、少し良心が痛んだだけだ。」

「えー? 何それー?」



「オレは、お前が思うほど大した人間じゃないもんでさ。キリハの中でオレの存在がでかくなってるのが、少しばかり複雑なんだよ。」

「だって、ディア兄ちゃんがすごいのは本当のことじゃん。」



 心からすごいと思える人を尊敬して何が悪いのか。

 自分としては当然のことを言ったまでだったのだが、それを聞いたディアラントはさらに顔を引きつらせてしまう。



「キリハ…。オレはな、別に聖人ってわけじゃないわけよ。」

「?」



「どんなに人並み外れた才能を持ってたって、結局は人間なわけでな…?」

「うん…。で?」



「うーん……」



 ディアラントは深刻そうな様子で眉間を押さえる。



「キリハ。お前がオレに味方してくれるのって、なんで?」

「なんでって…。ディア兄ちゃんが間違ってないって知ってるし、ディア兄ちゃんのことが好きだからだよ。」



「だろ? オレもおんなじ。」

「それって、ミゲルたちのこと?」



「まあ、そりゃあ先輩たちのことも好きだけど……」

「それとは違うの?」



「だから、その……」



 何があったのか、どんどん追い込まれていくディアラント。

 そして彼は、突然両手で顔を覆った。



「あーっ! もう無理! 純粋な子怖い! 勘弁してくれ!! これ以上口走ると、色んな意味でまずいんだって! とにかく、オレは十分不純なんだよー!!」



「ええっ!? 今の、ディア兄ちゃんがただ自滅したようにしか見えないよ!? 俺が悪いの!?」



 急に喚き始めたディアラントに、キリハはびっくりして目を剥く。

 ディアラントは、ただ首を横に振りまくるだけだった。



「なんでもない! とりあえず、なんかごめん!!」

「ごめんって言われても、意味分かんないんだけど!?」



「これ以上は訊くなーっ!!」

「ディア兄ちゃーん!!」



「やめろーっ!!」



 キリハとディアラントの押し問答で賑やかになる室内。

 その夜は穏やかに、そして優しく更けていくのだった。


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