第1章 帰国

珍しい彼女の姿

 もう日常の風景と化している朝の会議。



「………」



 キリハは配られた資料にざっと目を通し、頬杖をついてじっと前を見つめていた。



 視線の先では、ターニャがいつものように今後の予定などについて話している。

 そんなターニャのことを、キリハは食い入るように見つめていた。



「――― では、解散します。皆さん仕事に戻ってください。」



 ターニャのこの言葉を境に、会議室が一気に騒がしさを取り戻した。



「ねえ、ターニャ。」



 その喧騒に紛れて、キリハは目の前のターニャに呼びかける。



「なんですか?」



 微かに首を傾げるターニャに、キリハは今朝彼女を見た時からずっと抱いていた違和感について訊ねた。



「どうかしたの? なんか、そわそわしてない?」

「えっ…」



 ターニャの顔が、一瞬の内に動揺で彩られる。



「そ、その……なんでもないのです。」



 そうは言われても、恥ずかしげに赤らんだ顔が言葉の信憑しんぴょう性を完全に打ち壊している。



 キリハは小首を傾げた。



(なんか、いいことでもあったのかな?)



 彼女の表情から察する限り、別に悪いことがあったというわけではなさそうだ。

 だからキリハは特に追求せず、この場はこれでお開きとなった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る