どうして彼は―――

 時間は無情にも、刻一刻と過ぎていく。

 キリハは宮殿内をうろうろと動き回っては、ルカやカレンからの連絡がないかと確認し、落胆して肩を落とすを繰り返していた。



 まだサーシャが見つかったという報告はない。

 たまに来るメールもサーシャが戻っていないかという確認のためのもので、その度にまだ戻っていないという答えを返すしかなかった。



 事故や事件に巻き込まれていないといいのだけど……



 そんなことはないと思いたいが、今朝のサーシャの取り乱しようを思い返すと否定できないから怖い。



 割と任務に楽観的な自分でも、ターニャの発言にはあれだけ驚かされたのだ。

 常にぎりぎりの精神状態だったサーシャが、どれだけのショックを受けたかは想像にかたくない。



 どうして……



 ただ待つしかないキリハの思考は、ある一点に収束していく。



 何故こんな風に、望まない戦いに身を投じなければならないのだろう。

 自分たちが竜使いだから?

 自分たちの先祖がかつての災厄を招いたから、今こうして尻拭いをしなければならいのだろうか。





 ならば何故、先祖は――― ユアンは、ドラゴンと血を交わしたのだろう。





 巨大なドラゴンを敵に回したくなかったから?

 それとも、ドラゴンを支配したかったから?



 いや違う。

 理由は、もっと単純なのだ。

 種族も策略も関係ない。





 彼らはただ、共に歩みたかっただけなのではないだろうか。





「―――っ」



 急に耳から脳にかけて耳ざわりな音が貫いて、キリハは思わず立ち止まる。

 耳を押さえていると、追い打ちをかけるように地面が揺れた。



「うわっ…」



 今までの規模を遥かに上回る揺れ。

 とっさに壁に寄りかかって、揺れが収まるのを待つ。



「………」



 キリハは目元を険しくする。



 ドラゴンの目覚めは近い。

 ターニャとフールの言葉を裏付けするような地震。



 ざわざわと胸が騒ぐ。

 その胸騒ぎは、ドラゴンになんて敵うわけがないと訴えてくるようだった。



 それでも、目を背けるわけにはいかないから―――



 今まで自分を支えてくれたたくさんの人々の姿を思い浮かべながら、キリハは改めて自分に言い聞かせるのだった。


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