自身にあった新たな能力

 きっかけは、ささやかな悪意だった。



 たまたま散歩に出かけた先で、暢気のんきたわむれる子供のドラゴンと人間を見かけたのだ。



 リュドルフリアは、今日もユアンと空の旅に勤しんでいる。



 神経がささくれ立っていた私は―――つい、憎たらしい子供に冗談で牙を向けてみたのだ。



 結果としてそれは、とっさに私を攻撃した子ドラゴンに阻止されたが……その時に、人間の子供が私の血を被ってしまってな。



 それからだ。

 時おり、妙な映像を見るようになったのだ。



 不自然に低い視界。

 上を見上げると、優しく微笑んだ男女が両手を広げて自分を迎え入れてくれる。



 外に出れば、自分と同じ背丈の子供たちが呼びかけてくる。

 それに応えて、日が暮れるまで遊んだ。



 家に帰ったら、また両親と笑い合って。

 何かの拍子に見えた鏡には、見覚えのある子供の顔が映っていて……



 これは、まさかあの子供の視界か?



 疑問に思ったのでリュドルフリアに訪ねてみると、彼は珍しく言葉を濁した。



 どうやらリュドルフリアには、この視界の意味が分かっているようだ。

 そして、この力のからくりを表沙汰にはしたくないと見える。



 そういえば、とある時期からリュドルフリアは、人間に血を与えたがらなくなったな。



 これは―――何かある。



 確信した私は、この前の乱暴を詫びたいと偽って、子ドラゴンにあの子供を連れてこさせた。



 子供とは、かくも無邪気な生き物だな。

 私がちょっと謝ってやっただけで気を許して、友達の証だと言って血を渡せば、喜んでそれを飲み干した。



 これが―――ただの実験だとも知らずに。



 これは、二人だけの秘密。

 お前だけ特別だからと子供心に訴えると、子供は自ら口を閉ざした。



 そうして子供に血を与え続け、私はやがて、この能力の仕組みを知る。



 視覚の次は聴覚、その次は嗅覚と。

 与える血が多くなるほど、リンクする感覚が広がっていく。

 果てには、子供の体を自由に操れるほどにまで。



 何故だ。

 何故、こんなに便利な力を使わないのだ。



 これは、私たちが人間より格上である何よりの証拠ではないか。

 我が物顔でドラゴンにまたがる人間など血でじ伏せて、私たちが上であると思い知らせてやればいい。



 そう訴えた私に、リュドルフリアは切ない声で首を横に振った。



 われは、彼らと対等でありたいのだ。

 彼らを好き勝手に操って、彼らを傷つけるようなことはしたくない。



 そう語ったリュドルフリアは、ひどく頑なだった。



 私の言葉を聞き入れたくない。

 全身でそう語っていた。



 またなのか。





 ここでも彼は、私ではなく―――人間を優先するというのか。





 傷つけたくないだと?

 彼らは私たちに操られている自覚がないのだから、自分の仕業だと言わなければ、それで済む話ではないか。



 それなのにそう思うということは、混乱する人間を見て、お前が傷つくということか?





 それはやはり、竜使いと呼ばれ始めた彼らに―――ユアンの血を示す赤い瞳があるからなのか?





 そこまで思い至って、ようやく悟った。

 もはや彼は……人間が生きている限り、私が認めた神には戻らないのだと。





 ならば……ならば、人間など―――




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る