ひとつの提案

「は…?」



 キリハの言葉を聞いたレクトは、それはもう奇妙な表情をしていた。

 それに対し、キリハはキラキラと輝いた目でレクトに告げる。



「俺、レクトと友達になりたい。ユアンの真似をするわけじゃないけど、レクトやシアノと出会えたことを、ただの偶然で終わらせたくないんだ。これまでは変えられないけど、これからは変えられるんだから!」



 大丈夫。

 どんなに変えるのが難しいことでも、きっかけを大事にして 真摯しんしに向き合えば、いつかは変えられる。



 それは、今までの経験から分かっているじゃないか。



 これは名案だと明るくなるキリハだったが、レクトはその意図を掴みあぐねて、胡乱うろんげに顔をしかめる。



「今さら何を……」

「そんなことないよ! 騙されたと思って、人間の友達を作ってみない?」

「………」



 無言のレクトは意地が先行しているのか、提案を受け入れずに渋っている。



 これは、もうひと押しが必要か。

 そう思ったキリハは、笑顔で畳み掛けた。



「レクトなら、きっと人間と仲良くなれるって。シアノを育ててくれてたのも、人間に興味があるからじゃないの?」



「どうだろうな……」



 そこで、レクトが複雑そうな口調で曖昧あいまいな一言を。

 彼はシアノの髪をひとつまみして、昔のことを語る。



「シアノの親がこの洞窟にこの子を捨てていったのが、四年前のことか…。別にその場で食ってやってもよかったが……この子のすさんだ目が、どことなく私と被ってな…。なんとなく、食う気が失せてしまった。」



 訥々とつとつと語るレクトは、何故か自嘲的だ。

 その理由は、すぐに彼自身が述べる。


 

「とはいえ、拾ったはいいものの……私は、シアノの人間嫌いを増長させる育て方しかできなかった。人間には期待などするなと、そう言い聞かせることしかできなかった。それはやはり、私が今も人間が嫌いだという証拠なのだろう。」



「それは……」



 返事に窮しながらも、キリハはなんとか言える言葉を紡ごうと努力する。



「でも、シアノを殺さなかったんでしょ? だったら、きっと大丈夫―――」

「いずれは。」



 その時、レクトが声を大きくしてキリハの言葉を遮る。



「いずれはまた、壊してしまうかもしれん。……あの時のように。」

「あの時…?」



 首をひねるキリハ。

 そんなキリハに、レクトは自嘲的な雰囲気をまとわせたまま笑う。



「そうだな、話しておこうか。お前はこれを聞いても、まだ私の友になりたいと願うか?」



 一度呼吸を入れ、彼はとんでもないことを言い放つ。





「三百年前のドラゴン大戦―――それを引き起こしたのは私だ。」




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