芽生えた迷い

 会議終了後、二人で訓練をしてくるという建前でシミュレート室にこもった。





「シアノの父親が、ドラゴンだったあ?」





 昨日の経緯を聞いたルカの第一声はそれだった。



 さすがに予想外だったのか、普段のしかめっ面は綺麗に吹っ飛び、純粋な驚きだけがその表情を満たしている。



「はあ…」



 ゆうに十秒ほどが経過してから、ルカは大仰な溜め息を吐き出した。



「なんの因果なんだかな…。ドラゴンなんかこりごりだってのに、どこまでドラゴン三昧ざんまいにさせる気だよ……」



 心底現状を嘆く声が、今は耳に痛い。



「………」



 キリハは黙して、床に視線を落とす。



 さすがに、ルカにドラゴン大戦にまつわる話はできなかった。



 いくらシアノと関わりがあったとはいっても、こんな話を聞いてしまったら、ルカはレクトを嫌うだろう。

 というか、これはルカだけじゃないはずだ。



 あの戦争の真実を聞いて、それでもレクトの友になりたいと思った自分の方が少数派なのだ。

 それは、言われずとも分かっている。



「だから、関わっちゃいけない……か。」

「え…?」



 ふいにルカがそう呟いたので、キリハは顔をあげる。

 それに対し、ルカは何やら思案げな様子で口を開いた。



「いや……シアノを拾った時、フールの奴がやたらと慌ててたのを思い出したんだ。」

「あ…」



 そういえば、そんなこともあった。

 指摘されてそこに思い至るキリハの前で、ルカは自身の推測を述べる。



「レティシアたちのことも普通に知ってたあいつだ。十中八九、レクトのことも知ってるんだろう。そしてシアノの話を聞いた時、レクトがオレたちに接触する可能性を危ぶんだ……そう考えるのが筋か。あいつがレクトの何をそこまで危険視しているのか、そこまでは分からねぇけど……」



「………」



 考え込むルカに、キリハは何も言えない。

 それはルカ同様に答えが分からないのではなく、答えを知っているからこその無言だった。



 きっとフールは、ドラゴン大戦の真実を知っているのだ。

 そしておそらくは、レクトに手を差し伸べた結果、自ら命を絶ったという少女のことも。



 もしもそれを知っていて―――いや、その場にいて、実際に悲しい思いをしたのだとしたら……



 フールにとってレクトは、とても手を伸ばせる相手ではあるまい。

 どちらかといえば人間寄りの物言いをするフールのことだから、レクトを憎んでさえいるかもしれない。



 そう考えると、あの時の彼の動揺にも納得がいく。

 レクトに関わった人間がまた死んでしまうと思ったら、自分だって動揺するだろう。



 ルカの推測を通して見えた、あの時のフールの気持ち。

 そこに共感はできるけど……





(ここからやり直す方法は……ないのかな…?)





 そう思ってしまうこの気持ちは、間違ったものなのだろうか…?


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