対人訓練
昼休みが終わると、全員宮殿本部一階のホールに集まるよう指示が下った。
そこに行ってみると、ルカたち竜騎士だけではなく、ミゲルたちドラゴン殲滅部隊の人々の姿もあった。
「全員揃いましたね。では、今回の訓練について説明します。」
そこに集まった一人一人と目を合わせ、ターニャはそう切り出した。
「皆さんはドラゴン出現の際、協力して任務を遂行せねばなりません。そこで、今回は宮殿内を全面的に使用して訓練を行います。各人好きな場所に散り、開始の合図で動き始めて出会った人と好きなように剣を交えてください。仲間を募って共闘するもあり、一人で特攻するのもありです。互いに剣を交えることで、相手の剣の癖や自分に足りないものを学んでください。時間は休憩を挟んで、一時間を二セットです。」
その言葉の後、背後でこそこそと話し合う声が聞こえる。
おそらく皆、今後の行動について話しているのだろう。
「その稽古中って、例の命令は適用されるの?」
ルカをちらりと
「いいえ。これは訓練ですので、単独行動を取っても構いません。お互いに剣をぶつけ合うのもいいでしょう。」
そう言われ、自分だけではなく隣のルカもほっと息をついた。
「それと、竜騎士の皆さんにはこれを。」
彼女が渡してきたのは、一本の剣だ。
キリハは試しに
綺麗に磨かれた銀色の刀身は、特に今まで使っていた物と変わりはないように見える。
「それは、対ドラゴン用の武器になります。三百年以上前に作られた貴重な物ですので、扱いには気をつけてくださいね。」
「えっ!?」
キリハは目を丸くする。
「三百年前って……よくこんなに綺麗に保管してあるなぁ。」
剣には
とても三百年も昔に作られた物だとは思えなかった。
「その剣には、ドラゴンの鱗の粉末を練り込んであるのだそうですよ。文献によると、普通の剣よりも丈夫で、ドラゴンに効果的に傷をつけられるのだそうです。しかし、今ではその武器を生産する
そこまで言ったターニャの目に、これまで以上に真剣な光が宿った。
「あなた方には今後、一年間の任期が終わるまで帯剣が許されます。いつ何が起こってもいいように、常に持ち歩いておいてください。できる限りいつも使っていた物と似たようなものを選んだつもりですが、使用に当たり不具合があったら言ってください。」
剣や銃の所持が認められるのは、国を守る軍人を始めとしたごく一部の人間。
それを許されるということは、自分たちが国のために戦う人間として正式に任命されたことと同義だ。
今まで宮殿内の訓練でしか本物の剣を持ったことがなかったので、こう改めて剣を渡されると背筋が伸びる感じがした。
「それでは皆さん、怪我をなさらないように。油断して痛い思いをしても、自業自得であることを忘れないでくださいね。」
ターニャのある意味ぞっとする言葉で、その場は解散となった。
「キー坊。噂だと結構できるらしいな。真っ先に狙いにいってやるから、一戦頼むぜ。」
ミゲルから始まり、何人かから去り際にそんな意味合いの言葉を投げかけられる。
「お手柔らかに。」
彼らにそれぞれそう答えを返しておき、キリハも自分の立ち位置を決めるためにビルを出た。
選んだのは、見晴らしのいい芝生広場。
他の人はどこかに隠れているのだろう。
視界に入る限りでは、周囲に人っ子一人見えなかった。
「やっほー。キリハ、聞こえるー?」
片方の耳につけたイヤホンから、フールの声が流れてくる。
「うん。バッチリ聞こえるよ。」
答えると、イヤホンの向こうから満足そうな笑い声。
「にゃはは、オッケーオッケー。他の人にもちゃんと聞こえてるみたいだし、無線機能は正常みたいだね。ちゃんと監視カメラでモニタリングしてるから、サボっちゃだめだよ?」
「分かってるよ。だからあえて、こんな目立つ場所にいるんだからさ。」
理由もなくこんな場所を選んだわけではない。
きちんと訓練はこなすつもりだ。
「ならよかった。心配しないでいいよ。キリハには退屈だろうと思って、色々とみんなに吹き込んでおいてあるから!」
「はあ!?」
その瞬間、ドラゴン殲滅部隊の面々にかけられた言葉の意味と原因がはっきりする。
「お前、何余計なことを……」
「ハンデだよ、ハンデ。このくらいしとかないと、キリハには訓練にならないでしょー? さて、もう始めるから通信をオールモードにするよ。」
こちらが何かを言う前に、ブツリと通信が切れる音がする。
次に流れてきたのは、ターニャの静かな声。
「それでは、一セット目を開始します。五、四、三、二、一、始め!」
ザッ
キリハは周囲を見回し、深く嘆息する。
スタート合図が放たれた瞬間、辺りの物陰から一気に飛び出してきた人々がキリハを取り囲んだのだ。
人数は六人。
さすがにルカたちはこちらの実力を知っている手前、いきなり仕掛けてはこないようだ。
「ハンデ、ねえ……」
それぞれの構えを観察しつつ呟く。
結構な人数に手合わせを申し込まれていたので、彼らが自分を見つけやすいよう
彼らは今のところ、こちらの様子を
キリハはいつものように自然体で剣を下ろし、彼らを眺めて余裕の笑みを浮かべた。
「さて、どっからでもどうぞ?」
キリハから滲み出る、年不相応の気迫。
「おい、あの構え……」
ふと誰かが呟いたが、その声は他の人々が攻撃を開始したことで掻き消えてしまう。
キリハは遅くさえ見える彼らの動きをじっと眺めながら、右手の剣をひらめかせた。
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