影響力を持つ彼の選択

 一方の会議室は、キリハたちが出ていったことで、より一層気まずげな沈黙に満たされていた。





「ずっとだんまりなんて、君らしくないね。――― ディア?」





 フールが会議室の後方を見やって一言。

 それで、会議室にいる人々の視線が一点に集中する。



 会議室の一番奥の席。

 そこに座り、ディアラントは腕を組んで目を閉じていた。



 呼びかけられた彼は静かに目を開いて、こちらを見つめる一人一人と目を合わせる。

 そして。





「だって――― オレがしゃべると、それが〝答え〟になっちゃうでしょう?」





 穏やかな笑みをたたえ、そう言ったのだった。



「オレもさすがに、自分の影響力ってのは自覚してるんだよ。オレは自分の好きなように生きてきたし、そのために周りを好きなように動かしてきた。今がオレの独壇場になりえるってことも分かってる。」



 ディアラントはただ静かに、この場で己がどういう立場になり得るかを語った。



「でも、今のこの状況じゃあ、オレの言葉が絶対になっちまう。それは、オレが仕えているあるじの方向性にはそぐわない。それがオレの考えだよ。」



 ディアラントはよどみなく語った。



 自分という存在がいかに周囲を巻き込み、どれだけの人々の言動に影響を与えるのか。

 それは他の誰でもなく、自分自身が一番よく知っている。

 そして自分には、〝静観〟という選択をするタイミングが何より重要であることも、よく理解している。



 今は誰もが、疑いようのない答えを求めている。

 盲目的に信じられる、絶対的な答えを。



 それを与えるのは自分じゃないし、そんな風に簡単に与えられた答えは本当の答えでもない。

 きっとどこかでほころびが生じて、争いの種になる。



「ディア。これだけは聞かせてくれる?」



 壁に寄りかかっていたジョーが、ディアラントに問いかける。



「今回の一件について、ディア個人としての行動指針はある?」

「もちろんです。」



 ディアラントははっきりと頷いた。



「それって、限りなく中立的な立場にいるものだと思っても大丈夫?」

「……なるほど。何を訊きたいのかは、大方察しましたよ。」



 くすりと微笑み、ディアラントは再度口を開く。



「そうですね。今回のオレは、ある意味選択権を放棄してるので、そう取ってもらって構いません。この件について、オレはオレ個人の選択をしません。だからこそ、それ故の行動を取ります。意味は通じますか?」



 深くは語らず、ディアラントはそう言うにとどめた。

 かなり分かりにくい表現をしたが、おそらくジョーならこちらの意図をみ取るだろう。



「それ故の行動……なるほどね。」



 案の定、ジョーは大して悩まずに納得の表情を浮かべた。



「なら、この後少し時間をもらえる? 君の耳に入れておきたい情報がある。」



 ジョーの瞳に迷いはない。



「分かりました。お聞きしましょう。」



 そんなジョーに対し、ディアラントもまた迷いなく答えるのだった。


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