分かるつもりがないなら―――
「おい! 待てよ!!」
がむしゃらに走っていると、ふいに後ろから腕を引かれた。
「離せよ!」
「うるせえ! オレが言えた立場じゃないけどな、少しは周りの気持ちも
キリハを捕まえたルカは、話を聞こうとしないキリハの肩を強く揺さぶった。
「最近のお前、どう見たって無理してる。だからみんな、何も言わない……言えないんだよ! 権力に訴えられれば、お前になんてどうにもできないんだぞ!?」
「だからって、ずるずると結論を先伸ばしにする方がいいっていうの!?」
キリハはルカに負けない口調で叫び、彼の手を思い切り振り払った。
「分かってるよ! 俺がみんなに迷惑かけてるってことくらい!! でも……じゃあ、俺は何をどうすればよかったの? 今、どうした方がいいの!?」
衝動的に言葉をぶつければ、これまでこらえていた気持ちがどんどんあふれてしまう。
「ドラゴンたちと仲良くなってさ……今はあの子たちだって、俺以外の人にも威嚇しなくなったじゃん。でも……みんなはまだ、あの子たちが危険だって言うんでしょ? じゃあ……何をどれだけ頑張れば分かってもらえるの!? 分かるつもりがないなら、最初からそう言ってよ!」
自分のことを気遣って、皆が発言を控えている。
ある面において、それは真実なのかもしれない。
でも、自分からはとてもそうは見えない。
迷っていて発言できないのではなく、下手な責任を負いたくなくて、何も言わずに傍観しているようにしか見えないのだ。
こんなことなら、いっそのことジョーのように、初めから徹底的に拒絶してほしかった。
今なら、ジョーの痛烈な言葉に込められた思いやりが痛いほど理解できる。
中途半端な希望は、ただ苦しいだけだ。
自分の行動が実を結んでいる実感はないが、だからといって、絶望的な結論が出るわけでもない。
皆の心が見えない。
それが一番切なくて悲しいのだ。
「もう、分かんないよ。俺には……あの子たちが危険なようには見えない。普通に生きてるようにしか見えないんだもん。……でも、あの子たちを諦めることが正しいの? それがみんなにとっての正しい選択なの? 教えてよ、ルカ……」
自分は当然のことをしていると思う。
でも本当は、そんな自分の方がおかしいのかもしれない。
そんなことを思い始めたら、きりがなくて……
もう、何を根拠にして何を信じればいいのか分からない。
〝正しい〟とは、一体どういうことを言うのだろう…?
「………」
ルカは何も答えない。
おそらく、答えられないのだろう。
それは、息を飲むルカの気配から察せられた。
切なさが胸を圧迫する。
誰も答えが分からないなら、何が正しい答えになるのだろう。
それすらも分からない心は、悲鳴をあげるばかりだった。
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