とある少女の話

 彼女は、人間にしては面白い子だった。



 私には近寄るなと。

 リュドルフリアとユアンにあそこまで言われていたくせに、笑顔をきらめかせて私の元に訪れた。



 私が戦争の火種を作ったと。

 そう知っているにもかかわらずだ。



 その時にはもう、ドラゴンと人間の絆は壊滅状態だった。

 そんな中で私の元へ通う彼女は、人間の中でも異分子だったと思う。



 彼女の視界を借りて見る人間は、なかなかに醜悪だったといえよう。

 それでも彼女が排斥されなかったのは、彼女が当時《焔乱舞》の使い手であったからだろうな。



 最初は無視を決め込んでいたんだがな……ポツポツと言葉を交わすようになったのは、いつからだったか。



 なんとなく、彼女と接しているのは気分がよかった気がする。



 リュドルフリアも見ない。

 ユアンの諌言かんげんにも耳を貸さない。

 周りの人間すらも気にしない。





 私を―――私だけをまっすぐに見上げる瞳。





 それがユアンを思わせるという不快感はあったが……私だけに注がれる眼差しに、いつしか気を許しかけていたのかもしれない。



 だが私は、彼女に対する疑いと自分の意地を振り払えなかった。



 彼女はなんのために、ここまでのことをする?

 どうせ、私が人間を認めれば戦争が終わると思っているのだろう?



 まあ、私が同胞を狂わせるのをやめれば、争いの勢いは多少マシになるかもしれんな。

 もはや人間たちが自主的に争っているから、それで戦争が終わるとは思えんが。



 仮に私がこの行為をやめた末に、戦争が終わったとしよう。

 そうしたら、彼女はどうするのだ?



 用済みの私には目もくれず、人間の中に戻っていくのか?



 そう思った私の中には、怒りとも切なさともいえる感情が渦巻いた。



 もしかしたら、一度リュドルフリアを失った経験を繰り返すかもしれないことに、自覚なしに恐怖したのかもしれないな。





 どうせこいつも離れていくなら―――いっそ、私の手で壊してしまえ。





 当時の私は、自分が至ったその結論を正しいものだと信じて疑わなかった。



 彼女との、短いようで長いやり取り。





 その末に―――彼女は、自ら命を絶つことを選んだ。





 だがな……彼女は、死の間際ですら笑っていたのだ。

 そして、笑顔のまま炎の中へと消えていった。





 もしお願いを聞いてくれるなら―――今度こそ、みんなで仲良く笑ってくれと。





 そんな最期の言葉を残して……


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