平和を壊す知らせ

「ほらー。もうお昼のチャイムが鳴ったよー。」



 最終的にそんなカレンの一言で、ルカの暴走はようやく終わりを告げることになった。



「早くお昼食べに行こうよ。あたし、お腹空いたー。」



 もう慣れた様子で、カレンが話題を変えてルカのフォローに入る。

 しかし。



「悪い。先に行っててくれ。少し野暮用を済ませてから合流する。」



 何故かルカはそこに乗っからず、否を唱えて首を横に振った。



「ふーん、そっか。じゃあ、先に席取っておくね。」



 ルカの単独行動も珍しいことではないので、カレンはサーシャと共にカフェテリアへと向かっていく。



 普通にその後ろを追おうとしたキリハだったが……



「ぐえっ…」



 ルカに首根っこを掴まれて、その場に縫い止められてしまった。



「え、何…?」

「野暮用ってのは、お前にだ。」



「俺に?」

「そうだよ。さっきの話の続きだ。」



「!!」



 それを聞いたキリハは、すぐさま体の向きをルカの方へと戻した。



「そんなにシアノに会いたいなら、またジョーにでも頼んでみたらどうだ?」



 ベンチに置いてあったタオルで汗を拭きながら、ルカはそんなことを言ってきた。



「え…?」



 キリハはパチパチと目をしばたたかせる。

 ルカは続けた。



「簡単にセレニア中の戸籍情報までさらえる奴なんだ。三日もありゃ、シアノの居場所くらい特定できんだろ。」



「で、でも……」

「お前は妙なところで頭が固い。」



 狼狽うろたえるキリハを、ルカはばっさりと切り捨てる。



「オレはシアノのことは父親に任せればいいとは言ったが、別にシアノに会いに行くなとは言ってない。」



「あ…」



「お前はそろそろ、対応レベルを調整することを覚えろ。シアノと一緒に、その父親とも仲良くなっとけばいいんじゃないか? 完璧じゃなくても、できることはたくさんある。特に……一度家族を失った気持ちは、お前にしか共感できないだろ。」



「………」



 それを言われると、胸が痛い。



 自分は死別だったから、両親との思い出も綺麗なものだけど、シアノは……



「いいんじゃねぇか? 別に、共通点がネガティブなものでも。案外、ネガティブ方面の共通点の方が、仲が深まるかもしれないぞ。」



「そうなの?」



「うーん……複雑だけど、経験上そうと言うしか……」



 そう語るルカは、自分自身でも少し不思議そうな顔をしている。



 特に話を広げるつもりはないのか、ルカは早々にこちらから目を逸らし、タオルをかばんにしまった。



 それと入れ替わりで、シンプルなデザインのカバーに包まれた携帯電話を取り出す。



「ん…?」



 そこで、ルカが眉を寄せた。



「お袋から…?」



 どうやら、母親から着信が入っていたようだ。

 不可解そうに携帯電話の画面を見つめているあたり、親からの連絡は滅多にないのだろう。



 ルカは首をひねりながらも、折り返しの連絡を入れた。



「……あ、お袋? 急にどうしたんだよ。明日は槍でも降るのか?」



 開口一番、お母さんになんてことを。



 そうは思ったが、ここで自分が口を出すのも違う気がしたので、キリハは空気にでもなってしまおうと口をつぐむ。



 しかし。



「はあっ!?」



 突如響いたルカの叫び声に、全身がびくりと震える。

 そして次に彼の口から放たれた言葉に、空気になろうなんて気持ちこそ、空気に霧散することになった。





「兄さんが倒れたぁっ!?」

「―――っ!?」




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